38話
リーズベルト流剣術。
剣速と入り身の速さに定評のある、セロフィー王国随一の剣術だと俺は思う。
カチヤの肩で切りそろえられた金髪が、魔物を切り裂くたびに揺れる様は、前世のアクション女優では張り合うことが許されない、神秘性と躍動感を兼ね揃えた・・・・・・そう、一言美しいとしか言いようがなかった。
また、その手に握られた竜鉱の剣は、名匠が鍛えたと言うだけあり、森の薄暗い中でも仄かに光を纏い、吸い込まれるのではないか。
そんな錯覚を引き起こす。
カチヤと相まって神話に登場する天使を彷彿とさせる。
しかし、その足元は夥しい魔物の死骸が散乱し、死をまき散らす終焉の一幕と言った一枚の絵画を彷彿とさせる。
「ふぅ、アディ回収しよ」
思わず見とれていた俺に一声かけ、周囲の魔物だったものから討伐部位を採取していく。
一瞬、スクリーンの中から声を掛けられたような、不思議な感覚に襲われるが直ぐに現実に引き戻り、回収を手伝う。
「カチヤ、その剣どうだ?」
金貨200枚の竜鉱の剣、あぶく銭の有効活用と思っても、流石にこれ以上の出費は痛いところ。
「かなり良い、当たったときの手ごたえが違う」
何匹かは頭蓋を両断していたが、見せて貰った剣は刃こぼれもなく輝いていた。
諸刃の造りなのに切れ味は日本刀のように鋭い。
(まぁ、日本刀の切れ味を実感として知っている訳ではないが)
知識の中では諸刃造りは刃のある鈍器。
そう言う認識だったが、流石はファンタジー鉱物の竜鉱。
俺の常識では計り知れない特性がありそうだ。
・・・・・・それとも鍛冶師の腕がいいのかな?
兎に角、カチヤが剣を気に入ってくれたようで何よりだ。
後は、大型の魔物の毛皮に対抗できるようなら何も言うことが無い。
ただ、この森に入って一時間ほど未だ大型の魔物が姿を現さない。
軍が演習に使用すると聞いて、コネを使いまくりで急遽使わせてもらった森だけど、そう言えば何が出るとか聞いてなかったな。
せめて山猫クラスが出てくれたら、腕試しにちょうどいいんだけど。
・・・・・・ちょっと前なら考えられない思考だな。
山猫が腕試し? 今はカチヤと俺しかいないのに、そんな認識になるなんて。
だけど、魔族と相対してから、俺達パーティーメンバーは猫の魔物でさえ単独討伐可能と言う認識になっていた。
上手くすれば狼でも単独で討伐可能だろう。
それ程魔族の圧力は凄いものであった。
9段階の身体強化、獣を生み出すのは只の副産物。
明らかに物理的限界を超えた速度で動く魔族を、次は捉えることが出来るのだろうか?
あの魔族には、少なからずこちらを見下していて直線的に距離を詰めてきた。
もし慢心がなかったら?
恐らく、俺かクラウディアは致命傷を負っていただろう。
何せ魔法で仕留めきれない相手だったのだから。
魔法の威力は、如何に周囲の魔素を効率よく消費し大量に使うか?そのイメージが重要だ。
今は出来うる限りをやっているつもりだけど、より精進しなくてはいけないそう考えていた。
取れる部位をあらかた取り付くし森を進んでいく。
何回か魔物に遭遇したが、森の入口付近より明らかに遭遇率が減ってきている。
魔物が寄り付かないその先、間違いなく何かの存在がある。
そう告げているようだった。
進攻方向から草の鳴る音がする。
「カチヤ、来るぞ」
「うん」
カチヤが剣を構え、俺はいつも通りに矢玉を握り込む。
より薄暗くなった視線の先に、明らかな二足歩行のシルエットが浮かび、俺は一瞬安堵した。
人か、なんだ驚かせやがって・・・・・・?
俺が無理やり使用させてもらえるように頼み込んだ森に人影?
安堵の直後、違和感が襲ってくる。
カチヤは一切警戒心を解いていない。
それを確認し、俺も再度警戒の体勢になる。
人にしては大きすぎるシルエット。
2メートルを遥に超える体躯。
視認可能な距離になりその異形に気が付く。
猪の頭を持ち全身を毛が覆い、どこで手にしたのか粗末な鎧を着こんだその姿。
なるほど、これがこの世界のオークってわけか。
俺達を認識したオークは雄たけびをあげ、背負っていた俺の身長ほどもある剣を抜き放つ。
造りはあまりしっかりしていないが、その重量を考えればかなりの脅威と言えるだろう。
牽制で指弾を撃ちだす。
主に鎧からむき出しになった所を重点的に。
予測通り、金属の矢玉は火花を散らして後方にはじけ飛んでいく。
醜悪な顔を更に歪ませて笑みを浮かべるオーク。
・・・・・・これはいつもの被害妄想ではないだろう。
明らかに俺の攻撃をあざ笑っている。
初めて相対する相手でも、反応が似ていると動揺が落ち着いていく。
改めて戦闘態勢に戻る両陣営。
再度雄たけびを上げて、剣を振り上げ突進をしてくる。
オークの行動を見てカチヤが構えていた姿勢より更に低く構え、オークに向け駈けだす。
タイミングを逃したオークは急制動を掛け、その反動を乗せ剣をカチヤに向けて振り下ろす。
真上から襲ってくる大剣に向け剣を走らせるカチヤ。
ギャリギャリ! と不快な金属音を上げて剣が交差する。
俺のすぐ横を風切り音を上げて、大剣だった鉄の塊が通りすぎていく。
オークは、不意に軽くなった剣のエネルギーを相殺できずに体勢を崩す。
カチヤはその隙を逃さず、振り上げた剣をオークの右手に振り下ろす。
オークは短い悲鳴を上げて地面に倒れる。
痛みに蹲るオークの眉間に水弾が吸い込まれる。
俺の仕事は本当に簡単になった。
用意していた水の弾を撃ちだすだけ。
正直、俺がいなくても十分に対応出来た相手だ。
何せ、カチヤが剣を振り下ろした右腕は完全に両断されていたのだから。
一応の確認のためカチヤがオークの頭を落として、完全に死亡を確認する。
カチヤに剣を確認させてもらうと、運動エネルギーの乗った金属を両断した竜鉱の剣は、やはり刃こぼれ一つもない。
名匠と謳われる人物の剣だけあって、刀身はおろか造りに関しても一切のダメージなくそこにあった。
それにしても、もう俺はカチヤに剣で勝てることは無いだろう。
剣が優れているからといって、相手の剣を切り裂く技量。
そんな事を平然とやってのける彼女に、リーズベルト男爵の影を投影してしまった。
どうすれば到達できるのか想像もできない高み。
カチヤはそこに到達できるのだろう。
俺は置いて行かれる寂しさを胸に、森を後にするのだった。




