36話
王都の貴族街から外れた一角に、カチヤの住むリーズベルト邸はある。
身分を問わず門弟を取っている、リーズベルト流剣術。
高弟と呼ばれるものは個人的に教えを乞う訳だが、行き詰った冒険者が門を叩く場合多くは、一般の門弟として一度に教える。
そのため広い土地が必要であるし、閑静な貴族街では周りに迷惑がかかるため、男爵と言う爵位を持ちながらも貴族街の外に居を構えている。
因みに家は貴族街の中にあるがランク的には最下層に位置する。
門を潜ると
「「「お帰りなさいませ!お嬢様!!」」」
と、屈強な男たちが出迎える。
この人たちは一般の門弟。
屋敷に入って少し歩くと、木を打ち合わせる音が聞こえる。
こちらで木剣を振るっているのが、高弟と呼ばれる人達。
ん?
今日は義父上が、直接指導しているようだ。
婚約者として堂々と挨拶をしないと。
剣鬼として恐れられる、リーズベルト当主。
ジークムント・フェヒター・リーズベルト
父上とは違い、上背の低い一見ヒョロリとした優男だ。
だが、実際はこの国で一二を争う腕の持主。
俺が未だ、一本も取れない父上やダグラス先生でも敵わない、雲の上の人だ。
「お久しぶりです、リーズベルト男爵」
「これはこれは! 婿殿、今日はどうしたのかな?」
高弟達に指示を出し、俺たちのほうによって来る。
「今日はカチヤさんに御呼ばれをしまして」
手を胸にもっていき貴族らしい礼をとる。
常々不要と言われているが、つい恐縮していつも同様の礼をしてしまう。
って言うか、威圧感半端ないんだよなぁ~! この人。
「晩御飯、一緒」
「そうかそうか、一手どうです? 婿殿」
キター!
絶対これがあるんだ。
一応俺も剣を使うと聞いてから、家を訪れる度に稽古を付けてくれるようになった。
しかし、これをされるとこの後の料理の味が、全部血の味に変わるから正直やりたくない!
「・・・・・・お願いします」
だから威圧感が・・・・・・。
高弟達が周りに下がる。
剣を構えるリーズベルト男爵は、それまで以上の威圧感を投げつけてくる。
木剣を持っているのに、踏み出したら首を落とされる。そんな幻視を見てしまう。
だが、これは稽古だ。
こちらからいかないと一手では済まなくなる。
よし!
気合を入れて踏み込む。
縮地でリーズベルト男爵の周りを不規則に見えるように細かく移動する。
そう、俺は弓使い! 剣はサブウェポンな訳だから、格上の相手に剣だけで挑むような愚行はしない。
不規則な縮地での移動中に指弾を撃つ。
ヴェルマー家弓術中伝位、ボーゲントルッペ。
前後左右高低をつけて無数に指弾が、リーズベルト男爵を襲う。
「おやおや、これは素晴らしい」
迫る指弾の群れに笑みを浮かべて佇む、リーズベルト男爵。
反応しきれていない、そう思い指弾の後ろから切り込む。
リーズベルト男爵の切っ先が動いた。
そう思った瞬間、指弾の群れは全て打ち落とされて、こちらが木剣を振り下ろす前に胴を打ち抜かれていた。
「うげぇ!」
あまりに情けない声をあげてのたうち回る俺。
痛った! 息ができない!
胴を打たれたのに足に力が入らない!
入っていない胃袋から何かが逆流する。
床を盛大に汚す俺に
「まだまだですね、婿殿。あの指弾は弾速を調整して、全部同時に着弾するようにしなくては」
そう、事もなげに言われた。
回復魔法を掛けて何とか立ち上がる。
「おー! 立てると言うことはまだやれるってことですね」
いやいや、一本って言ったじゃないですか?
やりませんよ!
リーズベルト男爵が覗き込んでくるが、今回は屈しないぞ。
そう、もう日本人じゃないんだ!
セロフィー人はNOと言えるんだ!
「・・・・・・もう一本お願いします」
ほら、剣術って知ってて損はないし・・・・・・決して屈したわけじゃないんだから!
今度は縮地で、ヒットアンドアウェイの戦法を取る。
開始直後は入り身の速さで翻弄できるかと思っていたが、カウンターで体の各箇所が木剣で撃たれていく。
格上の相手に待ち剣をされると、本当にキツイ・・・・・・心が折れていく。
かと言って、こちらが待ち剣をすると、リーズベルト男爵に先手を譲るわけだから、猛攻を受けなければならない。
クッソー! 何で剣士って簡単に必殺できる相手にも隙を作る為の攻撃してくるんだー!!
危うく手首を折られる攻撃や足を刈ってきたり、後手に回ると反撃の瞬間すらない。
そして行きつく先は・・・・・・。
綺麗な抜き胴で、再度嘔吐させられる俺。
もう断言できる!
あの神様は俺に剣の才能をくれてない!!
絶対間違いない!
記憶にあるチート転生もので、ここまで弱い主人公見たことが無いもの!
また騙された、あの神様から俺は何を貰ったんだ?
チクショーーー!
と、毒付きながらも稽古は続く。
結局、その後カチヤが料理を終え呼びに来るまで、1時間みっちりしごかた。
用意された晩御飯を、詰め込むように腹にいれ帰宅する。
料理自体はうまいけど、数回吐いた後の食事はキツイ。
前世の漫画で描かれていた、野球部員や力士の弟子ってこんな想いで食っていたんだろうなぁ~。
そんな事を考えていると、無事自宅に辿り着き家族にカチヤの家で晩御飯を済ましたことを伝える。
両親は若干茶化してくるが、相手にできないほど疲れている俺は、自室に戻り泥のように寝りに就いたのだった。




