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35話

その日はお祭り騒ぎの様相を呈していた。

市井でも人気の高い、ラインハルトの成人の儀失敗を多くの人間が喜びあっている。

王家直系の跡取りが残ることは、やはり多くの国民に望まれている。


長男の成人の儀は、成功してしまいさながらお通夜のようであった。

次男は国軍に人気が無いせいで、本人が望まない格好で成人の儀が成功してしまい、現国王陛下の直系はラインハルトしか残ってい無かったこともあり、夜通しお祭り騒ぎであった。


潰された家の者も、何故か外壁が焦げている家の者も、保証がなされるまでどこに身を寄せるのかなど考えることも多いだろうに、本当に王都挙げての大騒ぎになっていた。


そんな中で沈んだ表情の二人がいる。

ラインハルト本人と婚約者クラウディアだ。

国民がこんなにも喜んでくれているのに、こんな表情を見せるなんてなんて自分本位なやつらなんだろう。

一つビシッと言ってやらなければ!


「次期国王陛下、ほら笑って笑って! 手を振ってやらないと」

成人の儀終了に伴い発表された王太子任命。

そのお披露目の場である、王都の広場に作られた壇上で浮かない表情の二人に声を掛ける。

キッ! と睨まれるが、何故お祝いの場で睨まれるのか? 一向に分からないとジェスチャーで返す。


何で、俺のような下級貴族の子息が壇上にいるのか?

本格的に情報を解禁するためである。

官僚組には周知させていたが、成人の儀で兵士たちにも知られたことで、

「人の口には戸が立てられない」

と、国王陛下の判断で国民にも周知することになった。


魔法の復活。これは皆にわかには信じられない。

そう言った表情であったが、そこは俺も慣れたもの、ザッとデモンストレーションをすることで周囲を納得させることに成功する。


分かりやすく火の剣を掲げてみたり、空に火球を撃ちだすなど。

以前より魔法然とした魔法を披露できた。

恐らく一月先には、各国の知るところとなるだろう。

吟遊詩人も多く出入りしているのだから。


加えて神託により俺たちのパーティーが、トムーギの迷宮に旅立つことも発表された。

親書を持っていくため、出発自体は来月になるのだが・・・・・・。

一先ず、今はこの2人のお祝いを堪能しよう。

2人は無表情で国民の声援に応えている。

国民の祝福は夜半まで続いた。


◇ ◇ ◇


お祭りの翌日、俺達パーティーメンバーは王都で装備の調達や、整備に来ていた。

旅の道中自分たちで整備などは行っていたが、時間のあるうちに専門家に依頼しようと言うことになった。


俺の剣や防具は、ほぼ未仕様なので成長に合わせた調整のみに落ち着きそうだ。

クラウディアの弓は、使用頻度から新調する必要があった。

防具も今後、魔族と相対しても大丈夫なように金属の比率を上げることにしたようだ。


ラインハルトは、王太子になったことで王家御用達の鍛冶師に装備一式を依頼させられたようで今回は見学だけだ。

問題はカチヤだ。


カチヤは今回の旅で打撃力の低さを痛感したらしく。

熱心に剣を見入っている。

「カチヤ、良さそうなのあるか?」

「・・・・・・今一つ」

色々と手には取ってみるが、気に入るのはなさそうだ。

「ラインハルト、こっちは良いから2人で市場でも見てきなよ」

ちょっと時間が掛かりそうだ。

王家組には羽を伸ばしてきてもらおう。


「そうか? うーん、そうしようか?」

「そうですわね」

「じゃぁ、このまま解散してまた明日にでも今後の予定を決めようか」

と、言うことで分かれてそれぞれデートとなった。

こっちは色気のない武器屋巡りだけど・・・・・・。


暫く武器を眺めていると、ある事を思い出す。

「カチヤ、魔法があるからそこそこのでいいんじゃないの?」

ふーと、ため息をつかれ

「アディみたいに無尽蔵に魔法が、使えるわけじゃないから」

やれやれ、みたいな表情を浮かべる。


「あれは、奥の手。常時使えるのもじゃない」

まぁ、確かに・・・・・・。

魔力を形成して維持するのは、撃ちだすのより疲れるし、出し入れを頻繁に行えるほど早く形成なんて、俺でも出来ない。


サブウェポンとして使用するのが現実的かもしれない。

しかし、カチヤの納得する剣なんてあるのだろうか?

身体強化が出来るからといって大剣なんかは流派が違うから使えないだろうし。

打撃力を補うためには、よく切れてそこそこ刃渡りのある剣を装備するしかないだろう。


・・・・・・前世であれば刀なんてロマンだよなぁ~。

まぁ、この世界では見たこともないですけどね。

こんなことを考えている間もカチヤは、食い入るように剣を見ている。


ふと、武器屋の奥を見るとひと際輝きを放っている一振りの剣を見つける。

「カチヤ、あれなんてどうだ?」

奥の剣を指さしカチヤを呼ぶ。

「どれ?」

「あれ、奥の奴」

引き寄せられるようにその剣の下に立つカチヤ。


「おう、嬢ちゃんら気に入るのはあったかい?」

武器屋のオヤジが声を掛けてくる。

まぁ、30分以上もあれじゃないこれじゃないと唸っていたんだ、目について当然だろう。


「これ、見せて」

オヤジに向き直り剣を指さす。

「ほう、これに目を付けたのか良い目を持ってるな」

喜々とした表情で、俺達を見比べ剣を棚から出す。

「ほらよ、こいつは年に何本も出回らない上物だぜ」


剣を受け取ると狭い店内で器用に剣を振るうカチヤ。

「ほう、いい腕だ、こっちに来な」

そう言うと店の奥に通される。

そこには何本かの剣と、試し切り用の革鎧が置かれていた。

「特別だ、切って良いぜ」

そう言われるとカチヤは革鎧ではなく立てられた剣に剣を振るう。

キン! と、短い金属音を上げ立てられた剣が両断される。


「・・・・・・お見事!」

一瞬唖然としたオヤジだが即座に気を持ちなおしカチヤを褒める。

・・・・・・鋼鉄製の剣が切れたけど、なにこれ?


子供の頃のようにちっぱ、もとい胸を張り得意げの表情を見せる。

「こいつは彼の名工、エストマンが打った竜鉱の剣だ」

「りゅうこう? ってなんですか?」

「竜鉱ってのは竜の鱗やら牙に含有する金属でなこいつはほら、何年か前に騎士団が竜の討伐に成功したって話し有ったろう? その時に抽出した竜鉱で創られたらしい」


確かにそれじゃ、何本も出回らないよなぁ。

「これにする、いくら?」

え?

聞くからに高そうなんだけど・・・・・・。


「そうだな・・・・・・金貨200枚ってところか?」

高っか!

えー!!

高すぎない?

「分かった、明日持ってくる」

「おいおい、お嬢ちゃんそんな大金どうやって用意する気だい?」

ニヤニヤとした顔でカチヤを覗き込むオヤジ。


全く気にした様子のないカチヤは俺の方を向き

「ギルドに預けているお金があれば十分足りる。」

そう言ってくる。

ギルド・・・・・・? お金?

「あぁ、虎の報奨金? 忘れてた!なんだ余裕だな」

そう言えば金貨300枚位預けてたっけ。

あんなあぶく銭で、カチヤの安全が買えるなら安いもんだな!


「丁度、明日ぐらいに登録に行こうと思ってたんだ。じゃぁ、明日また来ようか。」

唖然とするオヤジに取り置きをお願いしてその日は店を後にする。


「いいもの見つけることで来た。付き合ってくれたお礼に晩御飯、家で食べていく?」

おお、そう言えば久しくカチヤの料理を食べてなかったな。

「じゃぁ、行こうかな?」

「うん!」

手をつないでカチヤの家に向かうことにする。

・・・・・・この後の展開に気が付かなかった俺は、久しぶりの後悔を味わうことになるのだった。



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