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29話

 山を進んでいると奇妙なことに気が付く。

 中腹を超え、頂上が見えてくると周りの木々が少なくなってくる。

 森林限界と言う奴だろう。

 詳しくは覚えていないが、前世でも1800メートル位で多くの山が限界値を超えていたように覚えている。

 この世界でも同様のようだ。


 しかし、会敵する獣や魔物に変化はない。

 確か植生の変化で、活動する動物の変化があったように記憶している。

 何故だろう?

 そして奇妙なことに草食系の獣が多いにも拘らず、山中で食害のような痕跡が見当たらない。

 これにはラインハルトも不思議がっていた。


 何より狩った獣を解体した時

「ラインハルト、これどう言うことだと思う?」

「・・・・・・あり得ないはずなんだが・・・・・・?」

 2人して解体した成獣のハクビシンのような獣、肉と皮、骨、内臓しかない解体後の様子に頭をひねっていた。


 あるべきものが無い。

 そう、魔石を有していない獣。

 今までは獲物は一括でギルドに収めていたため気が付かなかった。

 慌てて今回食べる予定のなかった鹿の魔物を解体してみる。

 ・・・・・・やはり、魔石は無い。


 そもそもこの世界で魔石のない動物は魔族か人族のみである。

 考えられる可能性は、この獣たちは一切物を食べることなく成獣になったか、成獣のまま生まれてきたかどちらかしかない。

 その可能性について話すと。


「アドルフ、流石にそれは・・・・・・」

「アドルフさん、疲れたなら仮眠とってもいいですのよ」

「アディ、疲れてるの?」

 と、俺の頭がおかしいと言いたいような反応だったが

「じゃぁ、他に説明できる人」

 そう聞くと一様に黙ってしまった。


 答えは出ないが、奇妙と言う言葉だけでは収まりが付かない現象が実際に起きている。

 食事を終えてからも歩みを進めていると、多くの獣たちが洞窟から出てくる様子が目に映った。


 近くの藪に身を隠し様子を伺う。

 洞窟からこれまで討伐していた獣が、代わる代わる出てくる。

 鹿や熊が連れ立って出てくる様子は異様としか言葉が無い。

 ある程度の数になると、洞窟の周りにいた獣たちが怯えるように一目散で山のふもとを目指す。


 この山の怪奇現象の原因が、あの洞窟にあるのは明白だ。

 暫く観察していると、獣たちの出現に間隔があるのが分かる。

 一時間かけて数十の獣が洞窟から出てきて、二十分間隔が空いてまた獣が出てくる。

 正直ここまで来たならそのまま、竜の聖地を目指しても何ら問題は無いように思える。


 これがもし万が一、自然現象なら放置しておいた方が周辺地域の利益になるし・・・・・・。

 いかん、また言い訳を考えていた。


「ラインハルト、クラウディア、カチヤ原因を特定しに行くぞ」

 自分を後押しするように宣言する。

 メンバーも力強く頷き洞窟に近づいていく。

 再度獣たちが麓に行くのを見送り洞窟内部に潜入する。

 内部には松明が掛けてあり、明らかに人の手が入っている事を雄弁に語っている。


 自然の洞窟にしては壁もなだらかだし、地面も凹凸が少ない。

 また、分岐もなく奥に続いているようだ。

 奥に進むと開けた広間のような空間に出る。

 周囲を見回すと人影がある。


「おー、ついに見つかってしまいましたな!」

 人影が声を掛けてくる。

「このような所に雨宿りにでもきたのですかな?」

 松明の光に影の全身が映し出される。

「まぁ、偶然にしろ必然にしろ、ここがばれてしまっては死んで頂くしかありませんがね?」

 人だと思ったその影の頭にはコメカミから二本の角が生えている。


 洞窟には似つかわしくない豪華な刺繍の入った服装。刈そろえられた銀髪、腰に帯びている剣の鞘も装飾が施されている。

 切れ長の目や、造りがはっきりとしている顔立ち。

 見るからに男前だが、その角が人族ではないことを語っている。


「お前魔族か・・・・・・?」

「如何にも! 私はとある方に仕えている、いわば私兵ですな。ここにはある目的で陣を張らせてもらっています。」

 芝居がかった身振り手振りが一々うるさい。

 しかし、自分が圧倒的優位にあると思っているのだろう。

 情報を引き出せないかな?


「何の目的があって魔族がここにいる」

 ラインハルトが声を掛ける。

 柄に手を掛けながら声を掛けているところを見ると、芝居をしながら情報を引き出すつもりらしい。

 旅をしていて思ったが、意外とラインハルトは脳筋ではないようだ。

 こちらの意図を読み取り交渉を上手く行えるようだ。

 流石は王太子と言ったところか・・・・・・たまに抜けているけど。


「目的・・・・・・魔族である私がここにいる理由? 進攻以外に理由があるとお思いか?」

 当たり前すぎて面白くもない答えだ。

「それは魔族全体の総意か?」

 ある方と言ったその答えが知りたい。

「さぁ、どうでしょうかね? 反対派は居るでしょう。今も生きていれば、ですが?」

 総意ではないが殺してでも賛成派を多数にしたい。

 その言葉で黒幕で王族ではないように思える。


 話に聞いた魔族とは印象がだいぶ異なる。

 魔族の結束は固いのではないのか?

 そんな思案をしていると

「では、お話は御終いにして蹂躙を始めましょうか?」


 こちらも武器を手に体形を整える。

「そうそう、冥途のお土産に人には到達できない9段階の魔法を見せてあげましょう。」

 更に芝居がかった手振りで両手を広げる。

 周囲の松明の光により魔族の影が床に広がる。


 影から10頭ほどの獣が姿を現す。

 中には魔物の姿もある。

 幸いにもネコ科の魔物は居ないようだし、大型は熊ぐらいのものだ。

 勝ち誇ったような魔族の顔に、物凄い嫌悪感を感じる。


「どうです? この偉大な能力は!! 人と言う虫けらにも劣る身の丈に受ける絶望感は?」

 高笑いが広間に反響して正直不快だ。

 ラインハルトがこちらに視線を向けて頷いてくる。

 了解だ。


 散開する前の獣と魔族の上空に座標を固定し、弾の雨(バレット・レイン)を撃ちだす。

 流石にこの閉鎖空間で火属性を使うことは出来ない。

 無数の岩の弾丸を上空から打ち下ろす。


 出現した獣の群れは一瞬で肉塊に変る。

 耳障りな高笑いは消えていた。

 しかし、魔族は無事なようで右の角を打ち砕かれただけに留まっただけのようだ。


 周囲の惨状を目にして固まっている魔族。

「虫けらにも劣る人間の業に驚きすぎだろう」

 声を掛けると俺を視界に収めた魔族が憎悪の表情を浮かべていた。

「貴様・・・・・・貴様! よもや貴様、あの忌々しい愚者の業を使ったのか?」

 恐らく愚者とは魔王を討った勇者の一行の原初の魔法使いのことだろう。

「そうだ、これが現代に甦った魔法だ」

 俺は、初めて公言する。

 魔法は甦ったのだと。


 更に憎悪の深めた表情の魔族。

 入口はこちらの背にある。

 逃げだすこともできないだろう。

 そう考えていると視界から魔族の姿が消える。


「ぐあぁ!」

「うぐ!」

 と、ぐもった声を上げラインハルト、カチヤが膝をつく

「愚者の業を使う者を生かしておくことは出来ませんね。」

 目の前に立つ魔族の冷たい目に足が竦む。

 歯の根が合わない。

 恐怖、ただそれしか感じない冷たい目だった。


 不意に魔族の頭が右側にはねる。

 矢が当たったのが見える。

 クラウディアがヘッドショットを決めたのだろう。

 思わず安堵する俺。あと数秒で命を奪われていたかもしれない。

 そんな状況が終わった。


「あぁ!」

 クラウディアの悲鳴が聞こえた。

 視線を向けると魔族の拳が、クラウディアの腹部にめり込んでいる。

 魔族の左の角に鏃が刺さっていた。

 クラウディアの矢では仕留めることが出来ていなかった。


 こちらに視線を向け、悠然と歩いてくる魔族。

 その眼光にとらえられ、身じろぐこともできない。

「これで終わりだ!」

 低く腹に響くような声で人生の終わりを告げられる。

 魔族の手には剣が握られている。


 虎の魔物と対峙した時のような絶望感。

 まだ、死にたくない!

 そう思うと次第に周囲の速度が遅く流れる。

 振り上げられた剣はまだ俺には到達していない。


 脚に魔力を流し、大地を蹴る。

 振られた剣が微かに脚に痛みを与えるが、致命的な傷は付いていない。


 魔族が視線がこちらを追う。

 若干体が流れたようで前傾姿勢を取っている。

 ならば、縮地で地面に残った魔力に意識を向け、足跡(シュプール)で火の柱を生成。

 丁度顔のあたりを火が通りすぎ

「ぐあぁ!」

 と、魔族の顔を焼く。


 体勢を立て直し火の弾(ファイヤ・バレット)を魔族に撃ちだす。

 まだ、火の攻撃から体勢を立て直していなかった魔族は、地面を転がるように(バレット)を避ける。

 魔族の転がる先に土の柱(アース・ピラー)を撃ちだす。

 寸でのところで身を躱し続ける魔族。

 弾の雨(バレット・レイン)で範囲攻撃を仕掛けたいけど、仲間たちが近く範囲を指定しきれない。


 立ち上がると同時にこちらに走り出す魔族を見ながら、水の剣を創造し魔族の攻撃を凌ぐ。

 つばぜり合いをしていると、右ほほに熱さを感じて体が左方向に引かれる。


 殴られたのか?

 次いで痛みを感じ、相手を見れば憤怒の表情でこちらを見てくる。

 俺が両手で受けなくてはならないのに、相手は片手で受け、もう片方で攻撃してくる。


 折角手にした主導権もあっさり奪い返される。

 相手の力量を見誤った俺の過失だ。

 両手の攻撃をどう捌くか・・・・・・?

 ・・・・・・両手、そうか! 両手!


 ゆっくりと向きを変えた魔族に水の弾(ウォーター・バレット)を放ち、体勢を整える。

 当然魔族には避けられるがそれは重要ではない。

 縮地で距離を取り準備は整った。


 こちらを観察していた魔族が近づいてくる。

 もう少し・・・・・・。

 今!!

 両手を広げ魔族の左右の空間を指定。

 周りに仲間が倒れていないのも好都合だ。

 左右から水の弾の雨(ウォーター・バレット・レイン)を放つ。

 無数の水滴があり得ない速度で交差する。


 機銃のような左右からの銃撃に、魔族の体が踊っているように揺れている。

 これで・・・・・・勝ったぞ・・・・・・!

 そう確信すると、視界が暗くなる。

 以前感じた倦怠感を思い出させる。

 魔力切れ・・・・・・か?


 ◇ ◇ ◇


 目を覚ますと、アディと対峙している魔族が踊っていた。

 こちらには目も向けずに。

 視界が晴れて魔法の水滴が交差しているのだと分かった。

 魔族の向こうでアディが倒れるのが見えた。

 魔族は体を引きずりながら、なおもアディに近づいていく。

 手にした剣も引きずっている。


 無防備に倒れている、アディにとどめを刺そうとしているのだろう。

 私は震える脚に活を入れ立ち上がる。

 ふらつきながらも魔族に駈け寄る。

 アディを、愛しい人を殺させはしない!


 魔法を使おうとするが思考が定まらず、発動しない。

 転がっていた剣を拾いあげ、両手で構えて体ごと魔族にぶつかる。


 肉を切り裂くあの感触。

 最初は好きではなかったが、今、この時には歓喜しかなかった。

 護れた、遠く離れたアディの背中を!


 顔をこちらに向けた魔族の顔が、あまりにも呆然としていて現実感の無いような表情をしている。

 瞬間表情に力を取り戻すと、私を振り払うように体を捻る魔族。


 咄嗟のことで脚を取られ投げ飛ばされてしまう。

 しまった!

 そう思い魔族を見るが先ほどの位置で倒れて動かない。

 近づいて生存を確かめるが、やはり事切れているようだ。


 アディはまだ起きてこない。

 魔族の体をまたぎアディのそばに行く。

 呼吸をしているのが分かる。

 生きててくれた。

 まだ、一緒にいられる!


 そう安堵すると、身体が急に重く感じる。

 アディを抱きしめて体の求めるまま瞼を落とす。

 何時か感じたアディの温もりを感じて意識を手放す。

 静寂の中アディの温もりだけが感じられた。

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