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26話

翌日俺たちは、とある屋敷前まで来ていた。

昨日絡まれた、貴族の子息の実家を前に、ラインハルトは少し悪い顔をしていた。

それは相手方の名前を聞いたことに起因する。


『家に名に懸けて、ルールを守れると誓えるか?』

『いいだろう。我がヘルマン伯爵家に懸けて誓ってやろう!』

と言うやり取り。

ヘルマン伯爵家は伯が付いているが、反王家の派閥の重鎮だ。

何故か権力意欲が強く、過去に出奔した氏族が少なくセロフィーきっての貴族らしい貴族だ。


俺たちの報酬である、【申し出を叶える】を取り立てに来たわけだ。

俺の実家は下流貴族であるから、大物貴族に睨まれたくはない。

そんな訳で、交渉はラインハルトの仕事となった。


警備の門兵に取次ぎをお願いする。

応接室に通された俺は、その調度品などから場違いのところに来た、そう思わずにはいられない。

交渉をラインハルトに任せたのは間違いではないだろう。


しばらくたって応接室の扉が開かれる。

この館の主人ヘルマン伯爵の登場だ。

俺たちは席から立ち上がり、館の主人に視線を向ける。


デ・・・恰幅の良い体形、後退し掛かっている頭、高くない身長・・・・・・大物貴族のテンプレみたいだな。

子息のこともあり第一印象は良くはない。

ラインハルトに気が付いたのか大仰に礼をしてくる。


「これはこれは、王太子さまが当家に何の御用ですかな?」

息子に話を聞いているだろうに、あからさまな恍け様寧ろすがすがしさすら感じる。

「おお、ヘルマン伯爵久しぶりですね。そうか、あのゴロツキみたいな青年、あれがご子息でしたか」

ラインハルトの顔に明らかな作り笑いが張り付く。

「我が愚息とお会いになられたのですかな? いや、それよりも王太子ともあろうお方が、このような辺境に何の御用ですかな?」

伯爵も作り笑いだろう、目が笑っていない。

「こちらに来たのは、竜の聖地に向かう道すがら、路銀の補充に寄ったまで。しかし、冒険者ギルドでご子息と会いましてな」


あー、ラインハルトが悪い顔をし始めたな。

「在る経緯で、決闘する羽目に成りまして」

ヘルマン伯爵の眉が上がった

「あぁ、此方も子息も大した手傷は負っていない。安心してほしい。」

ヘルマン伯爵の顔が能面の様に固まる。

「そして、決闘の対価に何でも望みを叶えてくれるとか、子供同士の決闘ですが、家の名を掛けて行ったものだし、どうしたものかと想いまして参上させてもらった。こう言う用向きなんですが?」


伯爵、汗凄いことに成ってるけど・・・

「ほ、ほうほう、分かりました。ですが、本当に息子であったか確認をさせていただけますかな?」

控えていた執事に、目配せをして呼びにいかせたのだろう。


暫くたって不遜な態度で、知った顔が入ってくる。

「何のようですか? 親父どの! ・・・・・・あ! お前ら昨日の! ここは、お前らのようなものが来ていいところではないわ!」


俺たちの顔を見るなり、怒鳴り散らす息子に頭を抱える父親。

「アベル、控えろ! ラインハルト殿下の御前だ!」

「え? 本物なんですか?」

鳩が豆鉄砲をくらった様な顔をするアベル君。

・・・・・・鉄砲は無いから豆指弾か? まぁ、子息が事実を認めたので、後はラインハルトの独壇場になるはずが、こう提案た。


「ここで金銭を要求するなんて、不粋なことはしませんよ。ただ、1つ約束してほしいのです。」

部屋に居る全員がゴクリと喉を鳴らす。

「議会で、私が合図した議題は反対派をまとめて賛成に回って欲しいのですが、いかがですか?」

あ、それは・・・・・・。

「・・・・・・分かりました。」

宣言には逆らえないとは言え、酷い屈辱だろうな・・・・・・と、思ったけど伯爵の口角がちょっと上がっている。

ラインハルトは気が付いてないのか。

後で教えてやろう。


一通り文書に起こし、内容を確認して満足そうなラインハルト。

2通作成し互いの印で二重に封印し交渉が終わった。


屋敷を出て暫くしてから、ラインハルトに訊ねる。

「ラインハルト、お前出奔やめたの?」

「? そんなわけないだろう?」

あぁ、気が付いてないか。


「ラインハルトお前、議会に出席できた?」

「・・・・・・え?」

慌てて先ほどの封印を剥がし、文書を確認する。

ラインハルト、しっかりと【ラインハルトの合図】と書かれていた。


こうして、ラインハルトとクラウディアの人生計画は大幅な修正が必要となった。


◇ ◇ ◇


窓からラインハルト一行を眺め、ニヤケているヘルマン伯爵。

「アベル!良くやった!」

「?」

未だに事態が呑み込めないアベル。

小踊りでもしそうなほど喜んでいる父親を、不思議そうに見返している。


ヘルマン伯爵家は、反対派の重鎮だが、王家に忠誠心がない訳ではない。

忠誠を誓う相手が悉く出奔してしまうのが許せない。


それだけであった。反対派の多くも同じ想いである。

次期国王候補の中では、ラインハルトの人気が高く、何とか成人の儀を阻止できないか?

反対派の集まりで、何度も繰り返し話合われた議題がこうも唐突に叶うとは!


在る意味お手柄なアベルであったが、父親の厳命により軍入隊が決まり、領地が少し静かになったのはこの出来事の2ヶ月後だった。

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