23話
突進してきた普通の狼達。他に比べ小型だが、実際には大型種の狼だ。
一匹でも通してしまえば、陣形が崩れていくだろう。
しかし、ラインハルトの風の防壁が狼の突進を阻む。
下方に向けられているであろう強風に、次第に足を止める狼が1頭また1頭と増え、10頭の足止めに成功する。
俺の魔力操作により上空から岩の弾丸が降り注ぐ。
土属性の弾の雨が命中する。
途中ラインハルトの風により加速したのか、思いのほか被害を出すことが出来る。
数匹残っているが、ほぼ瀕死に近い。
再びラインハルトに合図を送り、防壁を前方に移動。クラウディアに生き残りを片付けてもらう。
流石に万全の狼であれば、瞬発力で矢を避けるける可能性もあるが、今は岩との激突で脚や頭にダメージを負っている状態だ。
避けることはないだろう。
次いでヨーゼフ隊長に合図を送る。
弓を持たせた部下に
「撃て!!」
短く指示を出す。
50名ほどの弓兵が、一斉に後方にいる魔物の群れに矢を射かける。
取りあえず先陣の処理が終わるまで、本体を縫い止めておいてほしい。
それがヨーゼフ隊長に出したお願いだ。
魔物が混じっていないせいか、ボス狼は平然と矢を避けながらこちらを観察している。
未だ、こちらに攻撃できる闘志があるのが不思議なんだろう。
1頭が矢を避けながら大きく跳躍してくる。
風の防壁を飛び越そうと言う魂胆らしい。
残念ながら風に阻まれ侵入できない。
矢を使う以上、風をドーム状には出来ない。
いずれ風の防壁の境界は知られるだろう。
その前に全員の突進をしてもらわないと、作戦上キツイ展開になるかもしれない。
風に阻まれながらも、前進してくる狼の魔物の頭を岩の弾丸で砕きながら、そんな事を考えていると、ボス狼がグルゥゥゥと、低く唸りだす。
流石に、群れの家族を殺されたことで本気になってきたようだ。
狼の集団から発せられる殺意を一身に受け、逃走したくなる欲求を必死に抑える。
この作戦の要は俺だ。
俺がいなくなったらカチヤが無事ではなくなる。
そう思うことで己を奮い立たせる。
狼たちは、特に意志疎通を交わした様子はないが一斉に通りを疾走する。
風の防壁に先頭が阻まれるのも構わず、後続も突っ込んで来るようだ。
互いの背を使いジャンプの高さを稼がせては、こちらが不利だ。最悪突破されかねない。
先頭の狼たちが、低い姿勢から四肢を踏ん張り、大地にしっかりと立つ。
間違いがなさそうだ。
ならば、俺も大地に手をついて魔法を発動させる。
地面の魔力の操作をする際は、理論的には足からでも操作可能だ。
しかし、早く大きく操作する場合は手をついた方が若干早くなる。
あの漫画の影響だろうか?
後続の狼たちが先頭の背中目掛け跳躍する。
間に合え―――――――!
狼の跳躍が目標の到達する瞬間、大地は大きく口を開けた。
土台になるべく、大地に立っていた狼が突然空いた空間に脚を取られ、更に上から跳躍したまま落下する狼達。
空中で方向転換もできずに奈落に落ちていく。
広場に向かう通り一区画分の奈落に35頭いた狼たちは、只の一頭を残して飲み込まれていた。
ボス狼を見据えて群れの処理を始める。
上空にふんだんにある水蒸気を押し固めて、大量の水を生成し奈落に落とす。
落下の衝撃によりまともに動ける狼は居ないだろう。
咄嗟に穴を空けたことと、魔力操作をいい加減にしていたことも相まって、穴の深さは40メートルくらいまでありそうだ。
そこに大量の水をぶち込む。
本来なら泳げたであろう個体も今はただ、溺死するのを待つのみだ。
残酷な方法だと俺も思う。
しかし、彼らに対抗し、周囲の人間を守るためにはこの方法しか思いつかなかった。
水が落下する際もボス狼からは目を離さない。
ボス狼も俺から目を離さない。
物凄い量の殺気が周囲の空気を冷やす。
ヨーゼフ隊はボス1頭に対しても恐慌状態にあるようだ。
「カチヤたちを頼む」
ラインハルトに一言伝えてボス狼の方に歩みだす。
「お、おい!」
兵士の一人が俺の行動に気が付き、制止しようとする。
カチヤが剣を構え兵士と俺の間に割り込み
「アディの邪魔は、させない」
そう言い放つ。
俺は苦笑いを浮かべ、カチヤのお頭を撫でてボスに向き直る。
ボスは水のたまった奈落を見下ろしてから俺を睨み、ゆっくりと門の外に歩き出す。
奈落を迂回し、俺も門の外に向かう。
月明かり照らす街道の先に、ボス狼は威風堂々と言った面持ちで俺を待っていた。
そう、一騎打ちだ。
やる意味もない、只の感傷。
けど、あのボス狼は俺を待っているような気がした。
誇り高い狼なのだと感じていた。
アウォォォォォォォンと大きな長い遠吠え。
家族や仲間たちへの追悼だろうか?
遠吠えが終わると俺は剣を抜き放ち、ボスは姿勢を低く構える。
ヨーゼフ隊長の話だと、狼の魔物は一頭なら兵士20人換算だ。
連携があっての35頭=1600人の換算式が成り立つ。
ボス狼は、体格も大きいから50人程度の力はあるだろうか。
そんな生物と2流剣士じゃ、相手にもならないのだろうか?
そうじゃない、50人は50人がいるから脅威なんだ。
一方向からしか攻撃が来ないなら、只の一対一だ。
勝機は十分にある。
にじり寄る俺に対して、狼もにじり寄る。
間合いは狼の方が長い、当然先手は狼だ。
それが分かっているなら・・・・・・。
間合いに入った俺に狼は、飛びかかってくる。
狼も生物なので運動にはタメが必要だ。
一瞬のタメを見逃さず、飛び込んでくる狼を縮地を使い交差するように躱す。
今いたところから5メートルほど離れ、足跡で火柱を作る。
突然の火柱に襲われ、咄嗟に飛びのく狼。
着地場所に火の弾の雨を見舞う
着地後にもかかわらず華麗に躱す狼。
しかし、全弾躱すことは出来ない。
狼は手傷を負いながらも俺に向かって突進してくる
縮地も見せた、二度も同じ手は食わないだろう。
ならば、奥の手発動だ。
空気中の魔素を、自分の魔素と融合させ炎を創造。
更に周囲の魔素を消費し、圧縮形成し、柄を握り完成する。
作ったばかりの新作魔法炎の刃、これが奥の手だ!
両手で柄を持ち掲げる大剣。
同じ丈の大剣では持ち上げることなど出来ないが、炎で作った大剣は俺の魔力を基に作成した剣だ。
質量はあるが鋼ほどではない。
突進してくる狼の進行方向に上段から打ち下ろす。
金属のように固い狼の魔物の体毛が、悪臭を挙げ断ち切られていく、勢いそのままに狼の頭から尻尾までを焼き切り炎の大剣は地面を焼く。
周囲の草木が燃え俺と真っ二つになった狼を映し出す。
俺たちの一騎打ちを櫓や門の処から観戦している、
兵士や仲間たちがいることに気が付いた俺は、大剣を消火し拳を掲げ勝ったことを伝える。
おぉぉぉぉーーーーーー!!!
と、勝鬨を上げ答える仲間たち。
こうして小規模ではあるが、魔法を使用した戦争は終結した。
こちらには損害はなく、狼たちは全滅。
正に完勝だった。
戦いの緊張が解けた俺の胸に、カチヤが飛び込んでくる。
伝わってくる重さと体温に押しつぶさる。
これを守ることが出来たことに、言いようのない達成感を感じた。




