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21話

 青ざめた兵士は伝えてくる。

狼が出たと、・・・・・・狼。

この地域に生息すると思われる狼は、ニホンオオカミのような中型種ではなく大型種だ。

森や旅の道中で、出会った野犬は主に中型犬で中には小型犬までいる。


 狼は只でさえ大きいのだが、魔物化すると更に大きく成長する。

魔物化すると、数年で群れは魔物のみとなるらしい。

世代交代と弱者排除によって、群れは再形成されるようだ。


 なので大抵、狼の魔物を見たら近くには魔物の群れが存在しているということ。

町の近くで発見されたということは、町の存亡の危機に瀕していると同義である。


 普通狼の群れは、20頭くらいで形成されているが、魔物になると統率力も上がるのか、40頭まで増える。

また、群れの周りにはおこぼれを貰うためか、群れへの復帰のためか。

追い出された普通の狼が、数多く存在することがある。

若い群れほどその傾向が強いようだ。


 今回この町に現れたのは若い群れのようだ。

群れが35頭、周辺に10頭普通の狼が確認された。

人間の軍隊に換算すると1600人・・・・・実に二個大隊程度の兵力に換算される。

この町にいる兵力は200人に、俺たち4人。

到底勝ち目のない戦闘だ。


 基本籠城なのは当たり前だが、問題が一つ・・・・・・援軍は無い。

孤立無援での籠城だ・・・・・・全滅必至だろう。

町は幸いにも高い塀があり、物見櫓も四方にある。

狼が飛び越えてしまうかは、個体によるだろう。


 何故こんな状況になったかと言うと、援軍要請に数日前から幾人か伝令に走らせたが、只の一報も返事がない。

俺たちも、道中でそれらしき兵士の姿は目撃していない。


 ヴィルトカッツェ山からこの町まで二日程度。

騎乗していれば、夜通し走って一日くらいで山までは行ける。

出発したのは昨日のことらしい。迂回路である街道を通っていても会わないことはない。


 その事実を知った隊長と名乗るヨーゼフさんは、

「あの畜生共は知恵が回るらしい」

そんな言葉を吐き捨てていた。

恐らく伝令は殺されている・・・・・・いや、狩られているだろう。


 何時だったか、何かで読んだことがある。

狼の狩りは包囲殲滅と言った感じで陣形を取るらしい。

もう、囲まれていると思っていいだろう。

近くの櫓から半鐘が鳴る。


ヨーゼフ隊長が確認すると、狼の魔物が狼を連れてこちらを伺っていたようだ。

「矢は届くか?」

「残念ながら、届きません!」

数射射掛けたようだが、射程外をうろつているようで、相手に損害はない。

こんな感じでもう、3日になるらしい。


 魔物化すると知能も発達するのだろうか?

孤立無援にして物資を消費させる。

恐慌状態に陥った兵隊を殲滅させる、お手本のようだ。


 まぁ、どんな相手であろうと、このままではあと数日もすれば兵士の士気も下がり、防衛できず町ごと俺たちの命は尽きるだろう。


 ラインハルトが身分を明し櫓に上がる。

俺も続いて上がる。

塀から30メートル付近に狼がいるのを確認する。

話に聞くより大きく感じる。

眼光鋭くこちらを見据える姿は、かつての虎を彷彿とさせる圧力がある。


 これが35頭・・・・・・軽い絶望が襲ってくる。

不意に大声が発せられる。

「逃げろ―――――――!」

行商人であろうか3~4人の伴を連れて荷馬車がこちらに向かってくる。

俺たちの時とは違い狼が姿を現している。


 狼たちも気が付いたようで、一斉に走り出した。

まるで、黒い影が移動しているようにしか見えない狼が、即座に荷馬車を襲う。

一瞬だった・・・・・・。

蹂躙された荷馬車は、引いていた馬もろとも肉塊にされた。

もう、どの腕が誰のかも、どの足が誰のかもわからないほど千切られていた。


 少し遅れて体の小さな狼たちも混ざり、捕食を開始していた。

口の周りを赤く染めた狼の魔物が、一瞬こちらを睨み勝ち誇ったように遠吠えを上げる。

次はお前らだ! とでも言うように・・・・・・。


 周りの兵士に明らかな恐慌が見て取れる。

兵士たちは死神を幻視していることだろう。

ラインハルトを見る。

まだ、目に光は残っているようだ。


 俺たちはこんなところで死にたくないし、死ねない。

顔を見合わせて頷く。

どうにか反撃の糸口を見つけてみよう。


 先ずはヨーゼフ隊長にあるものを見てもらう。

国王陛下直筆の文書、【魔法行使許可証】だ

あらゆる権限を超越して、魔法開発に協力するように軍に通達する命令書だ。


 魔法省設立は国の内外に通達済みだ。

しかし、未だ俺が魔法を使えるのを知るのは、一握りの人物だけだ。

まぁ、情報通にはばれているようだけど、そんな訳でこの命令書が必要となっている。


因みに、他国に行く可能性も考慮して【魔法行使許可願】も合わせて持っている

こちらも国王陛下直筆だが、あくまで許可願だ。

効力はないに等しい。


 取りあえず、今回は国内なので指揮権はラインハルトに移譲してもらった。

ヨーゼフ隊長も部下の手前面には出さないが、先ほどの光景でかなり参っている様子が見て取れる。


 本職の人間には悪いと思ったが、なんだかんだ言ってラインハルトは王子だし。

指揮は素人に毛が生えた程度だろうが、恐怖に囚われた人よりはいいだろう。


 そして町長との会談だ。

この絶望的状況だ、町への被害は無しでは済まない。

それは承知しているらしい。

今後の支援をラインハルトが確約し、俺が提案した。

作戦に決まる。


 それでも不安があるのか町長は再度確認に来る。

「本当に大丈夫なんでしょうか?」

ラインハルトは毅然とした物言いで答える。

「絶対はない、ですがこの作戦が成功しないと明日はないのです。あなたも我らも」

町長の顔にも決意の表情が灯る。

「まぁ、作戦後の支援は確約しますから王家の名に懸けてね」

ラインハルトが、少しだけ微妙な表情をしていた。


 簡単に言えば空城の計だ。

住民を地中深くに隠し、門をあけ放つ。殺到してきた狼たちを櫓から弾の雨(バレット・レイン)

一掃する。

まぁ、他にも策は講じるけど大体はこんな感じだ。


 早速町の中心の広場に避難壕を作らないと。

作戦開始まであと二日くらいで完成させないし・・・・・・。


 こうして魔法を中心に置いた世界初の軍事作戦が、始まろうとしていた。

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