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118話

「国王陛下、この度のお気遣い感謝いたします」

木竜の下に向かう俺達に、陛下は前回とは比べものにもならないほどの品物を用意してくれた。

「あの俗物がこの程度で満足するとも思えんがな」

「ですが、これほどの品物・・・・・・資金はどこから?」

俺は思わず問いかけてしまった。

並べられた品物の数もそうだが、意匠を凝らした貴金属類は一つ一つが途方もない金額であると雄弁に語っている。


「流石は、ラインハルト王太子殿下の一の従者。国庫を気に掛けてくれるとは、将来が楽しみですな」

声のする方を向くと、そこに居たのは宰相閣下だ。

一体、何時からいたんだ?

全く気配を感じなかったぞ?

「詳しい内訳を教えて差し上げましょう。ささ、こちらへ」


 襟首を持たれ引きずられていく俺。

ちょ、はなせ! この!!

あれ? ビクともしないんですけど?

遠ざかる国王陛下とラインハルトが、何やら諦めた顔をしている。

「宰相閣下? 離していただけると嬉しいのですが?」

「遠慮なさらず。魔法使い殿には、税金とは予算とは? と教えねばならないことが沢山ありますからな」

「え? 遠慮させてもらえませんかね?」

「遠慮、されずに」


 一時間たったところで、宰相閣下の部下が声を掛けて来てありがたい講義は終了した。

「では、また別の時間で」

・・・・・・一先ずは、終わったらしい。


「すまんな、アドルフ。今回の件で宰相の奴はかなりキテいたからな」

「陛下、いらしたんですね?」

「助けなかったことを責めんでくれ。ああなったらワシの言葉など聞こえんからな」

そう言いながら、陛下はすまなそうに去っていった。


「災難だったな」

「ラインハルト、宰相って、なにあれ? 完全にヤル人じゃん」

「ああ、知らなかったか? あの人は戦斧術の宗家だからな。ここだけの話、父上が武芸があまり得意でないのもあの人のせいなんだ」

「はあ?」

「あの人が父上の傍仕えになってから、外に出てもあの人が全部片付けるからな。全くといっていいほど実戦経験が無いそうなんだ」


 国王陛下が英雄譚好きなのって、抑圧されていたからじゃないのかな?

あ!

「トムーギの戦斧、あげちゃおうか?」

「そうしろ。お礼にじっくりとお勉強見てくれると思うぞ」

あ、・・・・・・やっぱり考え直そうかな。


 こんな一幕もありながら、俺達4人は再度、竜の聖地に向けて旅を始めた。

「本当によかったの?」

「なにがですか?」

「子供、置いて来て」

「大丈夫ですわ。信頼出来る方ですし、お嬢様のいい勉強にもなるでしょう?」

「まぁ、そっちが良いならいいんだけど」


 子供たちは何故か、俺の実家に預けられた。

ちょうど乳離れの時期でもある事から、通いの乳母を雇いそのほかは俺の母と妹のヘルガが面倒を見てくれることになった。

王族の子供を、下級貴族の家に預けるなんて非常識ではないのだろうか?

まぁ、親が良いって言ってるからいいのかな?


◇ ◇ ◇


 旅を始めて1週間ほどで、懐かしい町が見えてきた。

初めて集団戦闘で魔法を使った町。狼達との戦闘を経験した町だ。

大人になったせいか、予想より早く見えてきたな。

懐かしい風景そのままで、その町はそこに有った。

「なんか、また物々しい雰囲気なんだけど?」

「そうだな」


 櫓の上には、やはり弩をもった兵士が辺りを見回している。

今度は、何が出たんだ?

「おーい! 早く逃げろーー!!」

遠くから、そう声がかかる。


 辺りを見回すが、それらしい魔物は見当たらない。

仕方がないな。

辺りを探索魔法で確認する。

「何かいたか?」

「いや? なにもいないみたいだけど?」

俺だけではなく、皆で周囲の警戒に入る。


「そっち、どう?」

「居ない」

「反応なしですわ」

「こっちも・・・・・・いや、居たぞ。あれだ!」


 ラインハルトの指さす方を見てみると、そこには巨大な蛇がかま首をもたげてこちらを見ていた。

あ、まずい。

ラインハルトの視線が蛇から外れると、一瞬で30メートルはあった距離を縮めてきた。

樹木操作魔法を使って近く草で、蛇を拘束する。

気が付いたラインハルトもやっと、戦闘態勢になったようだ。


 近くで見ると、でっけぇ!

なにこれ? 完全に人やら牛やらの見込めるサイズじゃないか?

そんな事を考えていると、蛇は器用に草の拘束を抜け出し再びこちらを観察してくる。


 チロチロと出し入れされる舌、絶え間なくうごめく胴体。

いやー、やっぱり苦手だ。

前世では爬虫類を飼っている人もいたようだけど。

駄目だ。俺には嫌悪感しか湧いてこない。


 早めに始末しちゃおう。

そう思い火属性を形成しているところで、異変が起きた。

明らかな警戒、いや、威嚇が始まった。

ん? ・・・・・・何かおかしい。


 何故ラインハルトは、魔法を使っていないと思った?

直ぐに訂正したけど、一旦は居ないと判断したな。

直ぐに見つけたのは、まさか目視で見つけたからか?

おかしい。蛇であれ魔物なら魔石に反応する魔法が分からないはずはない。

現に俺達3人には見つけられなかった。


 魔石が無い?

火属性を維持しながら、探索魔法を掛けてみる。

やはり、目の前の蛇には反応がない。

かつて、この近くの山。ベルトカツェ山に魔族が入り込んでいたっけな。


「お前、まさか魔族・・・・・・か?」

火属性の弾を蛇に向けながら、半信半疑で声を掛けてみる。

「気が付いたか、愚者よ」

ああ、当たってほしくないことって、よく当たるよな。


「これも進攻、なのか?」

「答える義理は無いな」

ユラユラと頭を振りながら、俺の火属性を避ける気でいる蛇の姿をした魔族。

「ここで愚者を討ち取れば、神に対する良い信仰の証となろう」

そう言って、身を縮ませて今にも飛びかかろうとしている蛇。


 ゆっくりと、横に動き間合いを測る俺。

あの距離を一瞬で飛びかかるほどの機動力だ。

恐らく、普通の魔法では間に合わないだろう。

火の魔法を消して、別の魔法に取り掛かる。

あまりクイック・ドローには向かないけど、やるしかないよな。

火を抜いた4属性を目の前に並べる。


 蛇もこちらの魔法を警戒しているのか、ラインハルト達に背を向けて俺と対峙する。

速さ勝負は、正直苦手なんだけど・・・・・・。

櫓の兵士が撃ちだしたであろう矢が、近くに落ちる。

それが合図になり、蛇と俺はお互いに行動を開始する。


 蛇のタメが終わったように思うと、目の前に大きな口が広がっていた。

俺は、4属性を合成し終わった所。

駄目だ! 間に合わない!!

魔法の効果が発揮するかどうかのタイミングで、蛇の目が視界に入る。

奴は、完全に討ち取った。そう目が語っていた。


 俺の目には、蛇のほかに別の物も捉えていた。

蛇の背後から迫る物体。

剣を振り上げたカチヤの姿を捉えていた。


 蛇の完全な死角から、カチヤの剣が振り下ろされる。

目の前をカチヤの切っ先が通りすぎる。

蛇の口は、閉じられることなく俺に覆いかぶさってきた。

あまりのことに、呆然とする俺の精神を悪臭が現実に引き戻す。


 蛇の頭をどかすと、3人の冷ややかな目が俺を見ている。

「お前はなにやってるんだ?」

「アドルフさんは、ちょっと英雄志向が過ぎるみたいですね」

「アディ、真正面だけが戦いじゃないの」

え?・・・・・・俺が悪いの?


「何のために私たちがいるの?」

「・・・・・・一緒に戦うためです」

「宜しい。場所を変えて死角を作ったのは褒めといてやるか」

「ええ、そこだけですけどね」

え? 納得いかない。


「ちょっと待って! 確かに助かったけどさ、あれ俺が悪いの?」

「魔神の時にも思ったんだが、お前は自分だけが犠牲になればみたいなところあるよな?」

はて、あるかな?

「はぁ、冒険者は英雄じゃなくていいんだ。何でもかんでも一騎打ちなんてスクロースの騎士にでもさせておけばいい。セロフィーはセロフィーらしくだ」

うーん、納得できるような出来ないような。

「さて、カチヤに言うことがあるだろう?」

「ありがとうございます・・・・・・?」

「よし! 先を急ぐか」


 そんな訳で、またしてもこの町の危機は俺達が救ったのだった?

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