111話
「ふぅ、ひどい目にあった」
ラインハルトは、疲れた様子でボヤいている。
「いつも済まないねぇ」
「なんだ? 急に殊勝になったりして、それより帰ろう。疲れたし」
「済まないねぇ、これで終わりじゃないんだよ」
「・・・・・・え?」
これで終わりになんてできない。
まだ、4属性の合成はあと4種類ある。
いや、4種類しかない。
なら、今日中に終わらせてもいいんじゃないだろうか?
・・・・・・幸い、周囲の魔素もまだ多いようだし。
何より、人的被害の無い環境なんてそうそうある訳ではない。
出来る時にやる。
それが、研究を行う者の心情と言う奴だろう。
それに、今更ながらに魔法というものが分からなくなってきた。
今、俺が観察しているのもが、本当に俺が創っているのかという問題だ。
創ったと言っても、合成された魔力がどう言う効果を発揮するのか? それを観察しているだけだ。
勿論、その効果に合うような運用を考えたりもする。
だけど、この世界の法則により効果は決まっているのではないか?
その効果は、自然発生したものなのか? それとも誰かの意志が反映されているのか?
反映しているなら、それは誰の意志か?
今まではあまり気にはしてこなかったけど、先ほどの黒い拘束魔法。
これは俺に対して、都合が良すぎるのではないだろうか?
現状俺は、身体魔法以外では早くは動けない。
しかもそれは、目視できる速さでしかない。
これに引き替え、魔神や敵対している魔族、彼らは身体魔法ではあるけど目視が出来ない速さだ。
それに対抗しようとしたところで、仲間の速度を上げる魔法が出てきた。
それでも太刀打ちできないことが分かった今、速度の速いものに対する拘束魔法。
何かの意志が介入している。
そう思うのは、考えすぎなんだろうか?
それを知るためにも、4属性は速いうちに知っておかないといけない。
もし、何かの意志が介入しているならそれが顕著に表れるのは、4属性までだろう。
5属性は見当ついてるしな、効果も含めて。
そんな訳で、効果の分からない魔法を使うことのできる環境がある今を、俺は大切にしたいと思っている。
だから・・・・・・。
「今日は、暗くなるまで帰れると思わないでね?」
「本気なのか?」
「ああ」
気を取り直して、4属性を合成していく。
今度は、風を抜いた火・水・木・土の4つだ。
先ほどと同じように、反発が少ないように合成をしていく。
ま、まぶしい。
合成し終わった魔力は、警告もなく安定した形で俺の手の中にある。
あまりに眩しい光を放つ魔力に、目を開けることが躊躇われる。
いや、魔法を観察する。それが魔法の体系化には必要なことだし、俺の疑問を解く鍵なんだ。
よく見ないと。
薄目を開けながら、魔法を撃ちだす。
今回も、その行為に対して警告らしき感じはない。
良しこれであっているんだ!
そう思った瞬間、手にあった光は失われた。
ん?
少し離れた場所の木が、大きな音を立てて倒れていく。
俺が向いている方向、そこに有ったであろう木々が一斉に倒れていく。
何が・・・・・・起こった?
「アドルフ、何したんだ?」
ラインハルトの目は、その奥に何かの感情を蓄えたまま俺を捉える。
「・・・・・・何、したんだろう?」
分かっているのは、強い光が生まれたこと。
それと、木々が一斉に倒れた事。
木々が倒れた事から、攻撃に使える魔法なのはよくわかった。
それも、貫通性に優れた魔法なんだろう。
しかし、その効果を目視することは出来なかった。
倒れた木に近寄ってみる。
その効果に晒された木になら、何かの痕跡があるかもしれない。
「嘘だろ?」
倒れた木の断面は、腕のいい職人がカンナを負けたかのように光沢と帯びている。
いやいや、これ立木ですよ?
乾いた木なら、こうして艶を出している所は見たことがある。
けど、立木をこんなになるまでカンナを掛けることが可能なんだろうか?
倒れた木に沿って、歩いていく。
早く結論らしきものを伝えないと、後ろで柄に手を掛けているラインハルトと一戦交えることになるかもしれない。
そして、進行上でやっと倒れていない木を見つける。
距離にして、1キロメートル弱。
幹を大きくえぐられてはいるが、その木は蒸気を上げながら地面から立っていた。
「これって、・・・・・・」
その抉れた部分を観察すると、螺旋を描きながら進んでいたことが理解できる。
まぁ、何が進んだのか? と言う疑問はあるんだけど。
「アドルフ、一体何をしたんだ?」
「なにって、魔法・・・・・・なんだけど」
あまりに速い速度で飛んでいってしまったために、観察は出来ていない。
だけど、かなりの高威力の魔法であることは間違いはない。
数回空に向かって撃ちだしてみたが、それこそ痕跡すら見つけることは出来なかった。
なにせ、他の魔法とは違って落ちてくるものが無いからだ。
観察をすること、その重要性は理解している。
俺の魔法開発のほとんどが、それに尽きると言ってもいい。
観察できないものを観察する方法。
一回で足りないなら、複数回。空がダメなら、地面に向かって撃ちだせばいいんじゃないだろうか?
焼け野原になっている神殿跡に戻り、地面に向かって弾の雨を撃つ。
地面を大きく掘り返しているそれは、光の粒のようだ。
観察のために、最大まで強化した視覚でも捉えることは出来なかったことから、光でいいと思う。
光と同等の速度のなにかだったら? そんな事は俺の知識には無い。よって光の矢と命名。
ラインハルトに説明したら、光が速いと言う概念が無いらしい。
「アドルフ。もう一つ質問なんだが、速度が速いと何であんな威力になるんだ?」
・・・・・・また、めんどくさい質問をしてくる。
「ラインハルト、矢だって強弓で飛ばすと速いし威力があるだろ? それの何倍も速いだけの話だから難しく考えるな」
「しかし、太陽からも光を浴びている俺達にはこんな影響はないぞ?」
「・・・・・・あ! これは魔法の光だからだよ、だって天然の水を飛ばしても俺の弾みたいにはならないだろ? 同じことだよ(嘘です)」
「なるほど、そう言うものか・・・・・・」
全く勘弁してほしいものだ。
誰かは知らないけど、もし魔法を設定した誰かがいたのなら、右ほほを思いっきり殴ってやろうと思う。
せめて、俺の知識でも説明できて、この世界でも納得できる説明も用意しといてほしいものである。
まぁ、それは俺の仕事になるのだろうけど・・・・・・。
後世の人が上手く書き足してくれるのを期待しよう。
「あ、もう夕方になったのか」
気が付けば、木々のが長く伸び俺達を包み込む時間になったようだ。
「よし! 上手くいった」
「ラインハルト、わざと話のばした?」
「気のせいだ」
ラインハルトの思惑通りにいってしまったらしい。
「今日終わらなかったところは、明日にはやるんだけど。それでもいいのね?」
「あ・・・・・・、やるの?」
「やらないわけないだろ、必要なことって言ったじゃない」
「すまん、いつもの癖で・・・・・・」
「もう、本当に呪われてるのかもね」
「誰のせいだ、誰の」
「魔法を設定した誰かじゃない? 左ほほでも殴ってやったら?」
「そうしよう、左ほほを差し出せ。アドルフ」
「俺じゃないかもしれないじゃん」
「じゃぁ誰のだ?」
「そうだね・・・・・・神様かもね」




