110話
「近くで見ていて大丈夫なんだろうか?」
ラインハルトが、不安そうな声を上げる。
「どうせ、離れてても近づいてきちゃうんでしょ? 癖なんだし」
「ああ、もはや呪いではないかと思っている」
「難儀な性格になったね・・・・・・」
「・・・・・・お前のせいなんだけどな」
取りあえず、俺に危険がある時にラインハルトが巻き込まれてしまっては、俺を誰が助ける?
ラインハルトの安全は担保しないといけないな。
「何か有ったら、うまく逃げてね」
そう伝えて、3属性の支援魔法、神速の魔法をラインハルトに掛けておく。
さて、では恒例の火属性を使った魔法からやってみるか。
5属性の時を思い出し、自分の前に火・土・風・木を魔力として宙に浮かせる。
この光景を見ると、意識を失う前の光景を思い出す。
5属性の時って、どうやって合成したんだっけ?
ああ、わざと反発するようにしていったんだっけか?
なら、今度は反発しないように4属性を合成していってみよう。
5属性の時は、完全に警告を感じていたしね。
火を風に、火と風を木に、最後に土に混ぜすべての属性を合成する。
・・・・・・うん、取りあえずの警告は無いみたいだ。
そうしたら、今度はこの合成した魔力をどう使うのか?
まぁ、第一選択は撃ちだしてみるだよな。
手を前に出し、魔力に意識を集中してみる。
いけるか? 取りあえず5メートル程前方に撃ちだす。
目的の地点に到達すると、魔力の塊から黒い触手のようなものが飛び出す。
触手は宙を彷徨い、何も掴まずに空気に溶ける。
・・・・・・ん? なにあれ?
「アドルフ? もう終わりか?」
拍子抜けと言った表情のラインハルトが、俺に問いかけてくる。
「終わりなの・・・・・・かな?」
黒い触手があった場所に歩いていく。
うーん、魔力増幅とか消失魔法とは違って、発動後に効果が残るタイプの魔法では無いみたいだ。
・・・・・・これはあれか? あの触手に触れてみないと分からないのか?
ってことは、自分に掛けるのか・・・・・・。
ラインハルトを見ると、すでに重心が後ろに乗っている。
こいつ、俺の行動を確実に、正確に予測するようになったなぁ~。
仕方がない。
「はぁ、じゃぁ俺は、・・・・・・お前の予測の上を行かないとな!!」
ラインハルトに先ほどの魔法を撃ちだす。
「やっぱりな! 来ると思ったよ」
瞬間、ラインハルトの姿が消える。
恐らく、後方に大きく飛んだんだろう。
・・・・・・俺がそれを読んでいないとでも?
第二射を、ラインハルトが出現するであろう場所に撃ちだす。
神速の魔法の欠点は、動き出してから行動を変える時間の短いことに有ると思う。
幾ら知覚できたとしても、咄嗟の判断を連続で行えるだろうか?
出来ないことは無いだろうが、そこには致命的なタイムラグが生じる。
自分より速い相手と戦う際、そこを上手くつけるかが勝負の分かれ目になると俺は思う。
大体、俺より速い相手なんて腐るほどいるしな。
何より、魔神と違いラインハルトの体術の癖を俺は知っている。
そろそろ10年ぐらいの付き合いになるし、魔法の特性を把握するのが俺の仕事だしね。
「うわぁ!」
案の定、ラインハルトに第二射が命中する。
おう、男が触手と戯れる姿っておぞましいものがあるな。
正直引くわ。
宙に浮いた魔力の塊と、そこから伸びる黒い触手。
それに捉えられた、ラインハルト。
ラインハルトがもがくほどに、その拘束はしっかりとされていく。
神速魔法がまだ効いているのか、時々ラインハルトの姿が消えるが引きずられるように元の位置に戻ってくる。
ふむふむ、拘束系の魔法か。
「ラインハルト、それって手で外せないのか?」
「いや、やって入るんだが・・・・・・触れんのだ」
へ~、木属性の拘束の強化版って所か?
ラインハルトが落ち着いたところで、自分にも同じように魔法を掛ける。
ああ、掴まれた感覚は無いけど動きずらいかな?
ん? あ、外れた。
あれ? もう一度自分に掛けてみる。
あっさりと、魔法による拘束は解ける。
「ラインハルト、大袈裟に驚いてたんじゃない? 簡単に外れるよ? これ」
正直、思ったより使えないかも。
完全に劣化版だぞ、これ。
「いや、そんな事は・・・・・・」
普通に歩いてきたラインハルトに、魔法を掛けてみる。
「うわっぷ!」
手を払いのけるラインハルト。
あっさりと、拘束は解けてしまう。
あれ? ・・・・・・さっきと効果に差があるか?
自分に掛けてみた時、安全装置的な作用があるのかと思ったらそうでもなさそうだ。
「あ、あれ?」
ラインハルトも、拍子抜けしてるし。
「いや、違うんだ! さっきは本当に凄い拘束力で・・・・・・あれ?」
ラインハルトも違和感を覚えている。
効果に差が生じる。
今までの魔法には無かったことだ。
何が違う? 俺が外して見せたからか?
もう一度、自分に魔法を掛ける。
触手を観察するが、何度見ても発動に差は無い。
あるのは、効果だけか?
ん? 獅子唐辛子みたいに、たまたま効果の強いことがあるのか?
あ、触れる。
触手を持ちあげ、良く観察する。
うねうねと、動いてはいるが強く握るとこれまでの様に空気に溶けてなくなってしまう。
「アドルフ、良く触れるな」
顔を振りながら、俺をおぞましい物を見るような目で見るラインハルト。
「ラインハルト、さっき触れないって言ってたっけ?」
「あ、そう言えば何で触れるんだ? お前」
いや、俺だから触れたわけじゃない。
現に、ラインハルトも2回目は振り払っている。
「ラインハルト、もう一度これ触ってもらえない?」
「えー! 触らないと駄目なのか?」
「うん、駄目」
「しょうがないな・・・・・・」
魔法をラインハルトに掛ける。嫌そうな表情だが、恐る恐る手が触手に伸びる。
「ん? あれ? 触れるぞ」
「だよな、さっき触ってたし」
無意識に触れたんじゃない。
触れるときと、触れない時がある。
この条件はなんだろう?
あ! まさか・・・・・・。
「ラインハルト、神速の魔法を掛けるから、もう一度お願い!!」
「・・・・・・やらなきゃ?」
「駄目」
「だよな・・・・・・はぁ、もう好きにしろ」
「ありがとう!!」
神速の魔法をラインハルトに掛けて、もう一度4属性を掛ける。
「うわぁ!! 何で? さっきは触れたじゃないか!!」
ラインハルトの手が、空を切る。
動きは速いが、位置を変えることが出来ない。
間違いなく、効果を発揮している。
「なるほど、超高速で動くものに対して効果が現れるのか・・・・・・」
「勝手に納得しないで、外してくれ!!」
「ああ、ごめんごめん」
うん、これは魔神に対して良い対抗策になりそうだ。
一つだけ、腑に落ちないのは効果が神速魔法と魔神・・・・・・・だけじゃなくって10段階? ああ、9段階もか、そこが使える人に対してのみってことになるよな・・・・・・。
要するに、高速移動が出来る人に対してのみの効果になるってことだ。
まるで、あつらえたかのようだな。
不思議・・・・・・で、片付けていい問題なんだろうか?




