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105話

 魔属の森に、いくつもの破裂音が響いている。

魔物の身体に振るわれる拳によって、貫かれ、破裂し命が失われていく音が響いている。


 神殺しを使い神意を得た、フランツ様を同行させて魔属の森を超える。

そのために、一旦神殿を目指すことになった。


 魔属の森と称されるだけあり、多種多様な魔物が生息していた。

なかでも昆虫系の魔物が、意外と多くいた。

人ほどもある蟻の大群や、毒ではなく酸を生成する蜘蛛。

それらを一番討伐した人物。

それは、フランツ様だ。


 攻撃が届かないという、魔神の見せた防御方法には及ばないが、ある程度の攻撃であれば攻撃事態が避けていく。そんな奇妙な現象を目にする。

そして、回避行動を追尾していくかのような拳撃。

本人曰く、知性の有無にかかわらず行動の予知ができるという。


 本人は大はしゃぎで、森の住人を手当たり次第に狩っていく。

もう、魔族の領域に入っているという認識もないのだろうか?

「アドルフ、分からないはず無いだろろう~」

こうして、時々俺達の思考を読み自己肯定に励んでいる。


「ラインハルト、違うんだぞ? 父上が英雄好きなのは知っているだろう? それは何故か? 簡単さ。俺たちの祖先セロインはな、使命感から国を興したわけじゃないんだ。功名心を満たすために国を興したんだ! その子孫たる俺たちにも、その精神は受け継がれているんだよ! いい加減認めたらどうだ!!」


 不快な声のご高説を受けながら、足を速める。

やっと、第一の目的の神殿にたどり着いた。


「さて、ここで一晩明かしてそれから魔族領を目指します。いいですね?」

「ああ、大丈夫だ。何ならこのまま夜通し歩いても大丈夫なんだがな」

周囲を全く顧みない発言。

兄弟でもこうも違うものなんだな。


 神殿の中に入る、前回の時とは違う空気。

所謂人の痕跡と言う奴か? 間違いなくいる。

ならば、相手ももう俺達に気が付いているだろう。


 周囲を観察する。前回とは違い日も傾いている。

圧倒的な存在感だけが、俺達を包む。

まさか! いや、奴がこんなところに・・・・・・?


「正解ですよ。ま――っと、アドルフさん」

神殿の中に忘れられない奴の声が響く。

「全く、仕掛けが動いたと感じて来てみれば、誰もいないし・・・・・・。無駄足になるかと思いましたよ」

何時掛けてあったのか、神殿の壁に掛けられている松明に火が灯る。


 誰かののどが鳴る音がする。

今、アイツがやったのか? 俺には一切関知できなかった。

神殿の中の空気も揺れた感覚は無い。


「おや、新たな神になろうとする愚か者は、アドルフさんではないんですね?」

やっと、その姿を俺は認識することが出来た。

やはり・・・・・・魔神、元のエルドレーと名乗った魔族がそこに居た。


「やっと会えましたね、待ちくたびれましたよ。 10年は長すぎたかな?」

「こっちは会いたくはなかったけどな」

「おやおや、戦争がお好みでしたか~? そうならそうと言ってくれればいいのに」

「馬鹿を言うな!!」

「もう、こんな場所で大きな声出して、ラインハルトさんもお久しぶりですね」

「何でここにいる?」

「何故でしょうか? って、もう言ってるじゃないですか? 仕掛けの作動を感じたって。ね?」


 変わらないな、人を食ったようなその態度。

神様然としやがって、俺達を見下すその言葉!!

「アドルフさん、声に出して下さいよ? その方法だと他の方は、いきなり僕がしゃべりだしたみたいに思うじゃないですか?」

一切笑顔が崩れることは無い。

正に余裕の表れなんだろう。


 神殺しがこの場にいても、その態度に変化は見られない。

「さて、神殺しを手に入れた、目の前には宿敵がいる。この後どうします?」

「決まっている! お前を殺して俺が英雄になる!!」

「あっ!」

「なっ!」

フランツ様は、俺達を置いて一人魔神に飛び込む。

反応が遅れた!


 神殺しを得たからそれで勝てるのか? そうではないと考えこれまでやってきたのに!

これまでの過程、俺たちの想いを共有していない人物にすべてを委ねるのはやはり間違いだった!

「アドルフ!」

「ああ!」

出遅れたとしても、あの加速をもってすれば間に合う。


 ラインハルトに神速の魔法を掛け、ラインハルトの姿が消える。

フランツ様は、魔神の眼前に迫り拳を振り上げている。

フランツ様が邪魔で、射線が取れない。

縮地で壁際に移動する。


 射線を確認すると、違和感が生じる。

さっきと何かが違う。

なんだ? 何が違う?

いや、分かっている。認めたくはないだけだ。


 拳を振り上げているフランツ様の表情が分からない。

そうではない、表情を示す部位が無い。

顔? いや、頭がそこに存在していない。


「殺しに来る人を、黙って見ている馬鹿は居ないでしょう?」

そう言う魔神の手が何かを弄んでいる。

意志のなくなったフランツ様の身体が、魔神の横を通り過ぎる。

魔神がその手にあった物を、投げてよこす。


「ひっ!」

思わず声が漏れてしまう。

受け取った俺の手の中に、フランツ様の頭があった。


「これで、攻撃が通じないって分かりました? ラインハルトさん?」

その声に目を向けると、剣を魔神に振り下ろしているラインハルトの姿がある。

剣は、確実に首筋を捉えているが、皮から先に刃が入っていってない。


「うーん、ラインハルトさんが使っていたら、もう少し面白かったんですがね」

呆れた表情の魔神に、俺は選択肢を誤ったことを痛感する。

神殺しを、この戦いを他人に委ねるべきじゃなかった。


 犠牲者が増えただけじゃないか!

ゆっくりと拳を握り込む魔神。

「させるか!」

木属性を重ね魔神の手を拘束する。


 ラインハルトが俺のところまで、後退してくる。

「なるほど、攻撃ではないから拘束できるみたいですね?」

そう言いながら、拘束を外していく魔神。

「でもこれ位じゃ、先延ばしは出来ても解決は出来ませんよ?」


 確かに、奴の言う通りだ。

今逃げても、いずれ時間が経過して戦争になる。

「それに逃す気はもう、ありませんからね?」


 魔神に目を向けられ、ゾクリと背筋が凍る想いがする。

全身が粟立つ、逃げられない。その事実だけが認識できる。

俺の耳に、のどの鳴る音が聞こえる。

俺の物か? ラインハルトのものか?


「ほら、よそ見していては駄目ですよ?」

目線は一切動かしていない。

だけど、魔神は俺の横に立ちラインハルトの顔を目掛けて拳を振るっていた。

声を上げる間もなく、ラインハルトが吹き飛ばされる。

親友の死が見えた気がした。


 不意に背中に衝撃が訪れる。

上下の感覚がなくなり、地面に打ち付けられたことだけが分かる。

地面とは別の物に当たり、平衡感覚が戻ってくる。

ラインハルトの体に当たったようだ。

苦痛に歪むラインハルト。

それだけがラインハルトの生を伝えてくれる。


 ラインハルトに最大の回復魔法を掛け、魔神に向き直る。

こいつ、俺達は嬲り殺すつもりか? フランツ様は、あんなにもあっけなく殺したくせに。

「そうですよ? 少なからず因縁のあるあなた達ですからね。あっけないのは味気ないでしょ?」

くそ! 思考を読まれるのは、誰でもいい気はしないな。

直ぐに殺さないなら、足掻かせてもらおう!!


 俺は、立ち上がると全開の闘気法を練る。

あんまり、使いたくは無い魔法たちだけど、せめて一矢報いてやる。

全てを出し切る覚悟が出来た。

どうせ死ぬなら、やるだけやって死んでやる。


 家族と過ごしていた、一年が無駄じゃないって所を見せてやる!!

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