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102話

 ラインハルト達の結婚式の当日の朝になった。

その日は、やや曇り気味だが雨の心配のない日だった。

王都の広場に特設された舞台、そして周囲を飾る花々。

身分の貴賤を問わず、たくさんの人々が会場の設営をしていた。


 もうすぐ、各国から使者もやってくることだろう。

もう周辺の町では、お祭り騒ぎのようになっているらしい。

冒険者の国の王族の結婚式。それは、国を象徴するように大騒ぎすることが通例になっているのだとか。

俺も王族と懇意にしているからなのか、それとも明日のことを言っているのかわからないが、朝から祝福の言葉を両手では抱えきれないほど頂いた。


「よう! ラインハルト。気分はどうだ?」

「アドルフか、後にしてくれ。覚えたことが頭から逃げてしまう」

珍しく、正装らしい正装に身を包んだラインハルト。

式典での所作を、復習している。

「今更緊張しても仕方がないだろう? それに結婚式の主役は花嫁なんだから、添え物らしくデンと構えてればいいんだよ」

「お前は・・・・・・王族の結婚式が、それで済むと思てるのか?」

「いや、全然! でも、ラインハルトが結婚か、意外と感慨深いな」

「その言葉をそっくり、明日返してやるからな」


 今のラインハルトは余裕が無いのだろう。

俺相手に式典の予行練習まで始めてしまった。

そろそろ、退散しないとな。

「じゃぁ、下にいるから」

「クラウディアには、会っていかないのか?」

「そっちはカチヤがね。それに今生の別れでもないしな」

「しかし・・・・・・」

「頑張れよ、新郎さん」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 式が始まった。

煌びやかな衣装に身を包んだクラウディア、その姿を現すと周囲から歓声が上がる。

続いて、ラインハルトの登場だ。

先ほどよりも大きな歓声。

王族随一の人気者のラインハルト、その人気を表しているかのようだ。


 式は恙なく進む。

次第に周囲の人々も、その光景に引きこまれていく。

式の終盤、王族として民に宣誓を行う。

ラインハルトが舞台の中央に立ち、クラウディアが付き従う。

「聞け!! 我が栄えあるセロフィーの民達よ! 近年不穏な情報が流れ、心中穏やかではない日々を過ごしていることと想う。悪神が世をかき乱さんと画策していると言う話は、残念ながら事実である! 」


 ラインハルトの言葉に、お祝いムードであった人達も意気消沈と言った表情を浮かべる。

「しかし、我らセロフィーを始め、各国はその脅威に立ち向かわんと日々研さんを積んでいる。だから、安心して欲しい。悪神は我らが必ず討ち果たす!!」

まだ、人々の表情は優れない、しかし徐々に顔を上げる数が増えてきた。


「悪神が脅威である事実は変わりが無い。だが、我らはその悪神を撃ち果たす法を手にしている。今日この話は、恐らく悪神の耳にも入ることであろう! 悪神の手先となり、奴の耳や目となる者よ! 悪神に伝えるがいい!! 我と我が国に降り立った今代の魔法使いが貴様の首を取りに行くと! 伝えるがいい、貴様が安穏と眠れる日は、もう終わったのだと!!」

勿論これは、人々を落ち着かせるための嘘だ。

これまでの月日で、魔神の存在は周知されてしまった。

それを不安に思う人は数多い。


 その不安は実際危険なところまで来ていて、暴動はないようだけれど国王陛下も下に数多くの事案が届く事態になっていた。

それを知らず、俺達は今日まで旅やらに勤しんできたのだけれど。

知ってしまっては、しょうがない。

不安を払拭させる為に、こうしてラインハルトは一芝居することになった。


 注目を浴びる結婚式の中での宣誓だ。

これは各国の人々にも伝わることだろう。

勿論、魔神本人にも。


「我と、我が友である魔法使いは、これより一年の後魔神に対して打って出る!! 何時になるかは定かではないが、そう遠くない未来に魔神を討ち果たし、この場に戻ってくることをここに宣言しよう!!」

ラインハルトの言葉に、歓声が上がる。

各国から来た使者も、立ち上がりラインハルトを仰ぎ見る。


 周囲には、若き英雄王を幻想させることだろう。

後ろを知っている俺は、あまり大きなことを言ってほしくはなかったのだが。

それでも周囲の人々の、不安を和らげることは出来たのだろう。

鳴りやまない歓声が、それを伝えていた。


 翌日、俺の結婚式となった訳だが、会場の教会には多くの人々が詰めかけていた。

昨日の宣言で、話に有った魔法使いの姿を一目でも見ようとする人たちだ。

中には、スクロースの聖騎士も見受けられる。

法王聖下の言葉を持ってきてくれたようだ。


 司教の前に立つ俺の後ろから、ドレスに身を包んだカチヤがやってくる。

うっすらと化粧をして、純白のドレスを纏ったカチヤはまるで絵画から抜け出て来たような、普段とは比べることが出来ないほど、綺麗だった。

式は進んで行くが、俺はカチヤの姿に緊張が募る。


 これまでも十分に魅力的だと感じていた。

しかし、剣を携えていないカチヤは、まるで別人ではないかと思わせる。

残念なことに、この国では指輪の交換も誓いの口づけもない。

司教による結婚に関する説話を聞き、夫婦の宣言をして終了となる。


 長い時間ではないものの、終始緊張していた俺は絡んできたラインハルトも、まともに相手できないほど疲れ果てた。

うん、やっぱり俺にハーレムは無理だ。


 緊張の結婚式が終われば、解放されるのか?

いや、王族も貴族も子供を産むのは半ば義務になる。

そんな訳で、これから一年は子づくりに励まなくてはならない。

正直、嫁側はそんな時ではないと反対していたが、周囲の説得で何とか了承してもらった。


 夫婦になったことで、俺達の独立や引っ越し、城での勤務などいろいろと忙しい日々を過ごしてきた。

そう言った生活をしていると、一年などあっという間だ。

無事にカチヤもクラウディアも妊娠し、母子ともに健康に出産もできた。

俺の子供は、ヘルムート。昔にいた剣聖と呼ばれる人から名前を貰った。

ラインハルトとクラウディアの子供は、コルネリウス。

この名前は、在位数日の王からとったらしい。


 せめて子供だけは、出奔して欲しいらしい。

立場を得ても、自由な心を忘れないでほしい。そんな事も言っていたな。

いや、この子は逃がさないけどね?

「子供を逃がしたいなら、4人は子供をつくってね?」

そう、釘を刺しておいた。


 そして、旅立ちの日。

「2人だけで行くんですの?」

「いや、絶対に付いていく」

こう言うと思っての一年だったんだけど。

「子供たちは、どうするの? 親が両方いないなんておかしいよね?」

「それは・・・・・・」


 結婚式の前に、俺とラインハルトは話し合った。

結婚はする必要はある。俺もラインハルトもそれを望まれている。

しかし、魔神のことを忘れてはいない。

恐らく、死闘になるだろう。

俺かラインハルト、そのどちらか。

或いはその両方が旅の道中や、魔神を前に命を落とすかもしれない。


 それはこの旅を始めた時から、覚悟している。

だが、想い人まで犠牲にするつもりはない。

ラインハルトも

「想い人を死地に連れて行くことは出来ない」

そう言って、結婚に踏み切れなかった。


 本来王族のラインハルトは、成人と同時に結婚が通例だった。

しかし、これまで延期していたのは、魔神との戦いまで連れて行くのかを思い悩んでいたからだ。

あの日、俺達は誓った。

子供を理由に使うのは心苦しいが、二人を連れて行かない理由を子供に求めた。


 ヒドイ親だと思う。

しかし、これしか方法がなかった。

近づく戦争までの時間が、他の方法を許してはくれなかった。

犠牲を少なくする方法を見つけることが出来なかった。


 恨んでくれていい。

無事に成長できる世界を創れるなら。


「必ず帰るから、待っていてほしい」

俺たち二人の偽らざる本心だ。

嫁たちの手の中で、新しい命が声を上げている。

怒っているのか、泣いているのかは分からない。


 けど、護る者が出来た。

勝たなくてはいけない理由が増えた。

その事実が、あの魔神の前に向かう震えを止めてくれる。


 この子達の未来を護る。

それだけが、今俺が足を動かす原動力だ。

必ず帰って来よう、この子達のためにも。

想い人のためにも。

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