9話
その日、自宅の前には見たこともない、煌びやかな馬車が付けられていた。
これから王城に上がるわけだが、やはり、着の身着のまま行けばいい、と言うものではないようだ。
父上、母様も普段着以上の装いで、俺も、この日のために仕立てられた服を着ている。
何時作ったんだよ! と、ツッコミが入りそうだが、実は同い年の王子がいることで新年のパーティーなどには、参加させられている。
今年のパーティーのため仕立てていたものを、急遽仕上げを早めてもらい、今日に至ったわけだ。
しかし、このような豪華な馬車は、新年でも使うことはない。
爵位を賜る際や、王の崩御の際など、限られた用途でしか使うことはない。
今回の話を持って行った、父上の上司の上級貴族が、必ず使用するようにと厳命してきたらしい。
馬車・御者のレンタルなど、少し手痛い出費になったようだ。
大隊長なのに、しみったれてると思われるかもしれないが、部下の祝い事や、身だしなみ、上級貴族の付き合いにまで、駆り出されるので、意外と裕福ではない。
まぁ、食うに困ることはないが、予想外の出費だったと言う訳だ。
話を戻し、家族3人で馬車に乗り込み走ること数分で、王城につく。
出迎えは少ないが、やたらと厳重な出迎えだ。
20人ほどの出迎えで、フルプレートを着こんでいないのは数人の
貴族だけ、後は国王直属の親衛隊の皆さんだ。
親衛隊に囲まれた、我がヴェルマー家は、さながら虜囚の如きである。
言葉少なに謁見の間に通される。
昨日父上から教わった通り、片膝をつき礼をしながら
この城の主を待つ。
カツカツを短く早い足音が正面まで来て止まる。
王は玉座に座り
「面を上げよ」
短く告げる。
父上が正面を向くのを確認し、頭を上げ王を見上げる。
髭を蓄えた人の良さそうな面、それでいて威厳に満ちた振る舞い。
これがカリスマと言うものなのか、再度首を垂れたくなる。
前世から数えて30年、小市民な性根は変わらないよだ。
「その子が件の子か?弩の騎士よ」
王からの問掛けが始まった。
って言うか、弩の騎士って厨二かよ!
と、ツッコミを心の中で入れる・・・・・・将来俺もそう呼ばれるのか・・・・・・。
「はい、魔道の勇者の業を再現させた者、我が子アドルフにございます」
おぉ、と周囲が騒めく
魔道の勇者とは、勇者の隣に立った、魔法使いの教会での呼び名だ。
一般的には魔法使いだが、教会の色濃い王城では、今もこの呼び方なんだとか。
「ほう、只の子供にしか見えないが・・・・・・」
王の視線を一身に受ける。
身じろぎしたくなるが、視線を外す事は無礼に当たると、言い聴かされていたので、視線を返す。
「ふむ、宰相どう思う」
「は、弩の騎士ヴェルマー家は、代々実直で有名な家名。偽りは無いと思いますが・・・・・・」
「そうだな・・・・・・」
「家名に賭けて、偽りない事を宣言させていただきます」
王と宰相の話に割り込む形で、父上の言葉が紡がれる。
この国において、家名に賭けてと宣言されたものは、重い意味を持つ。
つまらない諍いで、例え子供がこの言葉を言ってしまっても、両家を上げての戦争になる。
なんてこともあるそうで、貴族社会では、今や滅多に聞かれない。
貴族社会の勉強の時に、厳しく教えられたマナーの一つが、この言葉だ。
父上は、それを使ってでも、報告が真実であると語っている。
ま、実際に見せたから真実なんですけどね・・・。
「ほう、面白い。 では実演してもらおうか?」
王の口角が上がり、卑下したような笑みを浮かべる。
宰相も若干ニヤついている。
父上を小馬鹿にしているのだ。
カチンときたので、お披露目に演出を付けようと思う。
「王様、僭越ながらここでは危険かと愚考します。 出来れば広い庭などで披露させていただければと思うのですが?」
俺は移動の提案をする。
王城の広い庭は、城の中央にある庭しかない。
そこには、歴代王の彫像がある。
家臣が入れる限界でもある。この庭には、家臣が通れる入口の正面に、現王の彫像があることを、パーティーの際確認している。
庭に集まるヴェルマー家と上級貴族、国王。
その中心に俺が立つ。
手順はいつもと変わらない。
照準は彫刻の土台だ。
万が一破壊してしまっても、不可抗力で済まそう。
騒ぎ立てたら全員に踊ってもらう、強制的に。
頭に血が上ってしまい、その後のことを一切考えずに行動する。
父上の言葉を軽んじたことは、国王でも軽視できない。
この国の貴族社会では、それほど重い言葉だと教わっていたので、この程度のことで騒ぐなら受けて立つ! そう勝手に理論建て
思うがまま魔法を行使する。
先ずは火球、父上たちに見せた時より、数倍大きい火球を創造する。
そして圧縮時に、周囲の酸素を多く取り込むイメージをしながら弾速は指弾ではなく、この世界にはない銃弾の速度を。
イメージすると、いつもより魔力の消費が大きく感じるが、今はそんな事は良い、込められるだけ魔力を込める。
青白い炎の火球は圧縮、形成の段階を経て撃ちだされる。
ドン! っと、音がして彫刻の台座に当たったと思ったが、台座は健在である。
確実に破壊したと思ったのに・・・・・・くそ!
宰相に王が、確認をするよう命じる。
結果を知りたい俺も後についていく。
台座を確認すると、大理石のようなマーブル状の石の塊に、拳大の穴が出来ていた・・・・・・いや、貫通していた。
裏に回ると、裏側の方が大きな穴になっていた。
「着弾時の爆破したほうが派手でしたかね?」
同行した宰相に尋ねてみる。
青い顔をした宰相は穴を見てパクパクと口を動かし
何も言えないようだ。
宰相を促し、王の元に戻る。
宰相の顔を見て、報告が本当であったことを信じたようだ。
俺は像に向き直り、再度火球を創造する。
「待て、待つのだ
何をするつもりだ・・・・・・?」
少し呆けた顔になった王が、尋ねてくるので
「折角、王に業を御見せするには少々地味だったのでもっと派手に、見栄えのする魔法を御見せしたいと思います」
先ほど考案した、着弾時に爆破するイメージ。
前世のテレビで見た、ロケットランチャーをイメージすればいいかな?
そんな事を考えていると、まだ完全に立ち直っていない王は質問を続ける。
「派手とは?」
「あの彫刻が、吹き飛んだら派手にみえますか?」
失礼を承知で質問を返す。
「待ってくれ!其方の父の言葉は真実であった!! 先程の非礼は詫びる!! やめてくれ!!」
国王が、5歳児に頭を下げて詫びを入れる、シュールな図が出来上がっていた。
お披露目が終わり、謁見の間ではないテーブルのある個室に通される。
「アドルフ・・・・・・肝を冷やしたぞ」
父上が小声で言ってくる。
国王と宰相は未だ立ち直っていないのか、後から来ると伝言されていた。
それでも小声で話してくるあたり、父上も大概小市民だなと思う。
「父上が私を思い使ってくれたあの言葉を軽んじたのです。いくら国王様でも早急に取り消していただきたかったのです」
あの笑いの時、父上は腰に当てていた手を強く握っていたのが見えていた。
下級貴族とは言え、家臣の言葉を嘲った態度は許しがたい。
まして、大好きな家族を笑いものにしようとしたことは、例え神様でも許す事はできない。
そう、あの時感じた・・・・・・まぁ、現国王の彫像を破壊しようとしたのはやりすぎだったかな?
少しすると疲れた様子の国王、宰相に続き、白地の飾り気のない服装の若い人物が現れる。
先ほどの庭での一連の出来事を離れた場所で見ていた人物だった。
白地の人は席に着くなり興奮したように話しかけてくる。
「先ほどの魔道の業、拝見させて頂きました
魔道をこの目で見られる日が来ようとは、神の導きに感謝ですね」
まぁ、ホントに神様の導きなんだけどね・・・・・・元々手違いだったけど・・・・・・。
宰相に、司教だと説明されて少し戸惑う。
司教なんて大層な人物と言えば、もっと歳を重ねてデブった・・・・・・いや恰幅の言い。
キンキラとした衣裳を纏った人物を想像していたが、シュッとした、いつぞやの神様に似た悔しいが、イケメンという面構えだった。
その後、詳細に魔法の発現条件など説明を求められ、事細かに説明をしていく。
簡単な条件だと思った、0.5段階だが司教を始め全員発動が出来なかった。
1段階以上に慣れると難しいのか、大人だから難しいのか?
現状は判断がつかない。
そして話が進んでいき、司教はある問を投げかける。
「アドルフ君はこの業をどうしたい?」と
俺の答えは決まっている。
「この魔法を普及させたいです」
「普及ね・・・・・・」
考え込む大人たち。
難しい表情で国王は言う。
「条件が分かったとしても、直ぐには難しいな」
頷く宰相と司教。
父上も厳しい表情を浮かべている。
「そうすると、公開するより研究を重ねて貰い報告を挙げて貰う
そうした方が、人的被害が少ないと思われますが」
流石宰相、数字の計算は早いね。
・・・・・・彫刻があったら、粉みじんにしてやるのに。
「そうだのう・・・・・・司教殿はそれでよいか?」
難しい表情のまま司教は答える。
「そうですね、教会でも並行して研究したいですが、副作用が大きすぎますからね。 技術として確立してから普及、改良の研究をする方が現実的ですかね?」
「では、そのようにするか。現状維持、それしかないのう」
息を吐きながら、そう口にする国王。
「取りあえず、冒険者ギルドに登録するまで、研鑽を重ねてください。アドルフ君」
優しく笑いかける司教。
「・・・・・・冒険者ギルド? 登録ってなんですか?」
初耳である。
父上に顔を向け問いかける。
父上の代わりに国王が答える。
「この国ではな、成人男性は全員、女性も希望者はギルドに登録することで成人の証とするのだ。初代王が冒険者であったからな、そのころからの習わしだな」
この世界の一般的に、冒険者と言うのは身分が低いものがなる職業なのだが、この国の成り立ちが成り立ちなので、王族も冒険者を経験する期間が設けられる。
普通はそれだけなのだが、初代王の血のせいなのか、王族の大半は冒険者を経験することで、王宮の暮らしに魅力を感じなくなり、出奔する結果となる。
王族の領地が、王都から離れているのもこれが関係しているようだ。
大声では言えないがと、教えられた中には、大昔、即位した王が在位7日で出奔したとも教えられた。
当然口外厳禁とされたが・・・・・・。
そんなこともあり、どんな役職に就くにしろ、冒険者を経験するのは、避けて通れない道なのだと言われた。
ギルド登録まで、箝口令が敷かれることとなり、その日は帰宅を命じられた。
帰り際父上に国王は一言告げる。
「ボーゲン・ヴェルマーを継がせたいなら2子、3子が必要だな」
くくくと、含みながらそう告げ退席する国王を、唖然としながら見送る父上。
これで貴族社会と決別できるかもと、笑みを浮かべる俺に、司教が忠告していく。
「アドルフ君、キミものんびり出来るのは成人までだからね?」
え?
驚く俺に救いのない言葉が続けられる
「成人したら、新設貴族確実だからね? そうですね宰相殿?」
「そうですな、新設の役職も考えませんと」
そう同意して立ち去っていく宰相と司教。
残された家族は、そっくりな表情を浮かべて立ち尽くしていた。
貴族社会からは逃げられない!




