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エピローグ 終焉、そして……

 3万人を超える人間が一度に異世界に行き、短時間で帰還させられる。中にはあそこが異世界だと最後まで気が付かなかった人もいたようだ。だが、大勢がその無力さに、異世界に対して絶望を経験する。その臨界点を超えた時にループは終焉した。異世界とのリンクも切れた。


 ラフィアス・オンラインはβテストのままサービスを終了することになった。


 人工知能ミネルヴァによるとラフィアス・オンラインは時間軸の異なるゲームの維持ができなくなった。元々時間軸の異なるシステムは高次元の存在が作ったシステムだったそうだ。それが利用できてしまったことそれ自体が異常な状態だったそうだ。サービス終了は仕方のない事なのかもしれない。それがラフィアス・オンラインの最大の特徴だったのだから。


 ところが開発室のメンバーは気落ちしていなかった。そして新しいRPGを作成し始める。ラフィアス・オンラインは最後のイベントで参加した3万人を超えるユーザー、その口コミでそのリアルさが話題になっていた。開発会社の広告戦略の一環ではないかとの噂が出ていた。第一βテストまでして本運営直前のサービスが本当に終了するなんてありえないことで、見えないところで期待が高まっていた。その声が小さなものではなかったため、経営陣は早期に新しいゲームを開発することを条件に、この開発室の継続が許可された。


 純粋に内容を面白くする。やはりそれが王道なのだ。


 システムに頼り過ぎない。


 ヴァーチャルリアリティに頼り過ぎない。


 そして異世界の経験を活かせばそれができるかもしれない。





――――


「ラフィアス・オンラインは本運営前に終了してしまったけど、新しいRPGを作ろう。ベタなのかもしれないけど、詳細な設定と純粋なストーリー重視だ。どれだけ魅力ある中身の濃いゲームが作れるか、そこが勝負だ」


 高柳が開発室のメンバーに呼びかける。


「はい!」

「はい!」

「はい!」


 開発室メンバーの全員が強く返事をする。





 高柳が自身の机に着き、椅子に座って「さあ、やるぞ」と意気込む。そして「結局メイリスって誰だったんだろうな……」と独り言をつぶいてパソコンの電源を入れようとした時だった。突然少女が現れる。目の前に。魔法少女の姿で。キーボードの真上の空中に。


 まばゆい光の星がきらめき、やがて人の姿を形作る。それはホログラム状になり完全に人の姿となる。

 魔術師のローブを羽織って短い杖を持った女の子。羽の生えたブーツを履いている。


 フール・ライアスだ。


 高柳のキーボードの真上に煌めく光の粒と共に現れた彼女は突然重力の影響を受け、高柳のキーボードの上に「ぐしゃっ」と嫌な音を立てて立つ。


 足場の悪いキーボードの上、よたよたしながら高柳に倒れかかってくる。


 高柳は彼女の小さい胸を顔面で受け止めてしまう。女の子特有のいい香りがした……直後、ガッシャーン、2人いっしょになって椅子ごと高柳は仰向けに倒れる。彼の顔が彼女の胸で潰される。フールは顔面を床で打ち付ける。


「ぐおぅ」

「へげっ」


 打ち付けた顔面を手で抑えてよろよろと起き上がりながら魔法少女は口を開く。


「あ、タカヤンさん! ごめんなさい!」





 この世界から異世界へ行くリンクが形成され、その世界からまた別の異世界へ、そしてまた別の異世界へ……無限に続くかと思われたその繰り返し。それは終焉を迎えた。


 開発室メンバーの活躍、そしてフール・ライアスによって異世界へ行ってしまうこのループこそ終焉したが、代わってある障害・・が発生してしまった。


 『イセカイ』から来た人間に憧れてしまい、『異世界』からこの世界へ人が逆流してくる。新たな、かつ致命的な障害・・が。





 呆気にとられる開発室のメンバーに向かって、フールは明るくこう言う。


「すぐにお姉ちゃんも来ると思うよ!」





――結局のところ人は異世界への憧れというものはなくならないのだろう。





――――





 異世界への憧れがなくならない限り、異世界を描いた小説も続いてしまう……


 次話『異世界から来た最強の魔法少女』――






最後までお読みいただきありがとうございます。


長い長い話でしたのによく読んでくださいました。

本当にありがとうございます。



「次話『異世界から来た最強の魔法少女』」に関しましては実際に次話があるわけではなく、ここで小説は完結です。あくまで作中の演出であることご理解ください。


最後に重ねてお礼申し上げます。

読んでいただき、本当にありがとうございました。


感想、レビュー大歓迎です。

感想を書くのに抵抗ある方は、こっそり評価だけでも入れていただくと嬉しいです。









以下ネタバレです。







――――


【隠しメッセージについて】


作中に登場する小説「らふぁいあす・オンライン開発室 〜 俺達がゲームを創ったら2万人が異世界にさらわれた 〜」


・投稿小説第2話 会話

・投稿小説第5話 会話


パソコンやスマホで見ている方は会話の頭の文字を『縦読み』してください。

縦書きPDFなどで読まれた方は『右から左へ』会話の頭の文字をお読みください。


同じ事を“繰り返してはいけない”。元の世界に“帰りなさい”という意味のメッセージが隠れています。


異世界を描いた小説が好きな方は100%分かったようです。

分からなかった方はまだ異世界モノの小説が読み足りていないのかもしれません……もっとたくさん読みましょうね!


――――


【ネタバレを含む本作品のあらすじ】


未来のVRMMORPGの開発者がテストサーバーにログインするとそこは異世界だった。

そこで出会った少女に渡したアイテム。そのアイテムでチート的に強くなる異世界の少女。

少女はこんな凄いアイテムは返すべきだと考えた。


再びログインして3グループに別れて異世界へ行く開発室メンバー。

少女はそのアイテムを返そうとするが、そのアイテムは開発室にとって何でもないアイテム。

さらに強い別のアイテムまで貰って、ますます強力になる少女。


当初浮かれている開発室のメンバー。

囚われ、石化されてしまうグループも現れる。


これらのストーリーに絡め、異世界へ行く理由が人工知能の会話により読者に徐々に明らかにされていく。


それは2015年頃、ラノベで異世界を描いた小説が多かったことが関係しているという。

異世界に憧れて、実際にその世界へのリンクが作成されてしまう。

繰り返し現実世界から異世界へ。そしてまた別の異世界へ。

この繰り返しが延々と続いてきたことが、人間の潜在意識に残っていて多くの人に書かせたのだという。

しかも小説それ自体が予言と警告であったと。


次第に異世界に絶望する開発室メンバー。


そして流入してくる現実世界のユーザー3万人。


3万人に絶望を与えて終焉するはずだったこの繰り返し。


すべてのユーザーが現実世界に帰り、ループは終焉したはずだったが……。


――――


【本作品で使用している対比について】


本作品では『現実世界』と『異世界』を扱っており、対比に使っている言葉があります。


ラフィアス・オンラインとラファイアス王国

(『ラフィアス』が現実世界、『ラファイアス』が異世界)


作品の後半で『異世界』でフールがゾンビの匂いで「臭く」なります。そして『現実世界』で「いい香り」と表現しています。


――――


【本作品のテーマについて】


 『異世界』の世界観を構築し、登場人物に楽しませ、後半でそれが茶番劇ではなかったか悩ませています。『今』を十分に生きていない。そして異世界を求めてしまう。それが現実でもラノベなどで異世界を描いた小説が多い理由なのではないか。そういうメッセージを込めています。しかし異世界への憧れを否定しているわけではなく、作品の結末で異世界への憧れを肯定する形で終わらせています。作中で「すべては完全だから」というミネルヴァの言葉、「絶望が希望をもたらすこともある」というドラゴンの言葉。悩み苦しむことには意味があるのだと考えています。「こうなりたい」という願望から「こうあろう」とする「あり方」に変わった時に未来も変わるのだとドラゴンは話します。

 異世界を描いた小説、自分も大好きです。異世界ファンタジーに現実の人生観を絡めて書いてみたいと思ってできた作品です。


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