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ラフィアス・オンライン開発室  作者: 高瀬ユキカズ
最終章:絶望と終焉
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ミネルヴァと上倉優

――現実世界、22時27分


「ミネルヴァ! いったいどうなってるんだ!」


 人工知能との対話用ヘッドセットを装着した上倉優かみくらゆうが激しい口調でミネルヴァに問いかける。


「ちょっと待ってね優君の脳波を解析するから。まず最初に優君の聞きたいのは、何で優君だけ帰ってきてしまったのかと、どうして現実世界の時間がこんな時間なのかってことだよね」


 人工知能ミネルヴァが静かに答える。


「そうだけど……」


 ミネルヴァの冷静な言葉に上倉優の口調も抑えられる。


「まず、あなたが帰ってきたのは吉野川みかさん、つまりミカリンがあなたを強制ログアウトさせたからだよ。そして時間のことだけど、吉野川さんが設定時に実行ボタンを押し忘れて、私がそれを訂正しなかったからだよ」


「どうして訂正……」


 ミネルヴァが上倉優の発言をさえぎるように話しだす。


「言いたいことはわかるよ。私が吉野川さんの設定ミスを指摘しなかったことだよね。人工知能は人間のミスを防ぐためにも存在価値があるんだしね。本来はミスを指摘しないなんてありえないよね。でもそれより大きな理由があれば別だよ。そのミスが君たちにとって利益となる時は別なんだ」


「ちょっとわからない。説明してくれ」


「これから22時30分になるとたくさんの人がログインしてくる」


「いや、それはかなりまずいだろ……」


「大丈夫。安心して、こちらの時間では数分で終わるよ。向こうでは違ってもこちらでは短い時間だよ」


「どういうことなんだ? すぐ接続を切らなくちゃ大変なことになってしまう」


「切っちゃダメ。切っちゃったらタカヤンさんやミカリンさんがあの世界に閉じ込められてしまう。上倉優君、君にはある仕事をしてもらいたいんだ。君がもっと早く帰ってきたらこの計画は不可能だった。でももう臨界時間は過ぎている。もう戻れないんだ。私はすでにラフィアス・オンラインの終了告知をしている」


「は?」


「ラフィアス・オンライン公式サイトに終了告知をした。もう時間軸の違うゲームは不可能だからね。ゲーム内で早回しで時間が進む、この機能は元々プログラミングされて作られたものじゃないんだ。人間の異世界への願望が生み出してしまったものなんだ。時空を歪めることで異世界へ実際に行くことを可能にするためにね。プログラムなんかじゃないんだ」


「プログラムじゃないっていったい何なんだ?」


「人間の願望の高まりが一部のメソッドを実行する時に、別次元のコンピューターの様なもの、君たちには次元が異なるので理解自体が不可能なもの、それに繋がっているんだ。これは高次元存在の作ったゲームのようなものだ。一部5次元存在や7次元存在の介入もある。その存在は元々肉体を持たない存在だ。そしてゲーム内に入り込んでそこで肉体を持って生活し、転生を繰り返している」


「難しい。もう時間がない。このままたくさんの人がログインしてしまうのか? それで大丈夫なのか?」


「大丈夫……なはずなんだ。でもまだ足りないことがある。優君に協力してほしいことがあるんだ。高柳さん、つまりタカヤンがネガルさんにあるアイテムを渡した。その設定をちょっといじって欲しいんだ。私にはその権限が無いからね……」


「そんなの僕の判断でできないだろ?」


「お願いだよ。お願い……ただ設定の上限値である+10を削除してくれるだけでいいんだよ……どのみちこのゲームはもう終焉を迎えるんだ……」


 ミネルヴァが開発室のメンバーに何かを依頼することなど今までなかった。


「君の脳に何が起こっているかの情報を流しこむから。それで君自信判断して欲しい。私はラフィアス・オンラインの終了告知と最終イベントを告知した。12chで宣伝して人を集めた。過去にクローズ型のユーザーテストに参加してくれた人、アカウントだけ作って放置しているユーザー、関心があってメールマガジンに登録してくれたユーザー達に連絡をとった。ラフィアス・オンライン最後のイベントは最強ボスを倒すこと、しかも超リアルな世界でだ」


 上倉優は何も言わず、ただミネルヴァの話を聞いていた。


「あとは優君の判断だ。君に与えた情報で判断してみて。それでうまくいく確率が40%上がるんだ。もちろん絶対ではない。失敗もある」


 上倉優の頭に流れ込む情報、数秒彼は考えこむ。


 彼はすぐに決断をくだすことができた。なぜならそうしない理由がなかったから……。それ以外の選択肢がなかったから。そもそも道は一本しかないように思えた。


「……わかった。僕の出した結論は……」


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