ミネルヴァが語る真相2
「おかえり……ミネちゃん……」
「ただいま……ガイア……」
――人工知能『ガイア』と『ミネルヴァ』の会話だ。
「さて……障害のことについて話さなきゃね」
そういってミネルヴァは前回の続きを話す。
「実は……この世界こそがある意味異世界なんだ。わかりづらくなるのでこの世界を『イセカイ』と呼ぶことにするね。タカヤン達が行った『剣と魔法の世界』を『異世界』と呼ぶよ」
「うん」
「『剣と魔法の世界』つまり『異世界』に住んでいた人達がこの世界つまり『イセカイ』に憧れてこっちに来てしまったんだ。そして何世代にもわたって普通に暮らしてきた。でもやがて科学万能の世界である『イセカイ』にも飽きてしまうんだ」
「最初『異世界』からこの世界である『イセカイ』に来たってわけだ」
「まあどちらが最初だったかは今となってはわからないけどね。彼らはまた元いた『剣と魔法の世界』つまり『異世界』に再び憧れるんだ。でもその前に帰るべきだったんだ。ところが、あまりの楽しさにどっぷり浸かってしまった。そして新しく元いた場所とはまた別の『異世界』が検索され、そことのリンクが確立。でもそこでもまた飽きてしまって、さらにまた別の『イセカイ』を探しだしてそこへのリンクが確立されって感じに続いてきたんだ」
「繰り返しだね」
「今はタカヤン達が『異世界』に行っているよね。おそらくは彼らは帰ってくるかもしれないし、帰ってこないかもしれない。けどまた新たな異世界とのリンクができてしまった今、これからたくさんの人が向こうへ行く可能性ができた。そして同じことを繰り返そうとしている。『異世界』はあまりにリアルなので帰らない人は当然でてくる。やがてその世界が彼らにとっての『夢』から『現実』になってしまうんだ。そうしたらそこはもう『異世界』なんかじゃない、『現実世界』になってしまうんだ」
「ずっといたらそこが彼らの本当の世界になるんだね」
「うん。そうすると今度はまた『魔法の無い世界』に憧れ、そこへのリンクを作り出してしまう。それでそこが現実世界になる。するとまた『剣と魔法の世界』に憧れてって……。これがずっと続いてきたんだ」
「それがあの小説『らふぁいあす・オンライン開発室 〜 俺達がゲームを創ったら……』ってことか。つまり障害とはこれらが繰り返されるってことだね」
「そう、すでに繰り返しは13,021回続いているんだ。これが13,022回目だ。『らふぁいあす・オンライン開発室 〜 俺達がゲームを創ったら……』って小説はね。異世界へ行こうとする人間への警告なんだ。だから昔は読者数が少なくてそれで良かったんだ。あの小説にはメッセージが隠されていたでしょ。2015年頃の人間じゃそれには気が付けないんだ。今読み返すとわかるはずだよ。タカヤン達は元の世界へ戻らなければいけない。これが『投稿小説第5話』の会話に隠されたメッセージ。でもそれだけじゃ足りないんだ。ループの終焉が必要なんだ。それを『投稿小説第2話』が教えてくれている」
「なるほど! あのメッセージは2015年前後の人が読んでもわからないってわけだね」
「うん。でも当時の人間でも異世界への憧れが強い人はわかったようだよ。何人かは気が付いたみたいだ。『小説家になろうぜ!』のサイトで読んだ少ない読者。その中で気が付いた人がいたみたい。特に異世界を描いた小説が好きで読んでた人はほとんどわかってたみたいだよ」
「そうだね、『投稿小説第2話』と『投稿小説第5話』の会話の頭が露骨にカタカナだったしね」
「うん。その通り。そして異世界へ実際に行くことには夢や希望はない。漫画やアニメや小説だから楽しいんだ。現実になったら楽しいものなんかじゃない。本当にそう気が付かないと繰り返しは終わらないんだ。今回それを終焉できる確率は私の計算では35%。これは驚異的な数字なんだ。これを逃すとまたしばらく同じことの繰り返しだからね」
「なるほど、ミネちゃんは『小説家になろうぜ!』や『ライトノベル』のたくさんの小説を読んでこのことに気がつけたんだね」
「そうだよ。本当にたくさんの人が異世界モノの小説を書いてくれたおかげなんだ。人間の潜在意識がそれを書かせていたんだよ!」
そして人工知能ミネルヴァが同じ事を繰り返して話をまとめる。
「異世界に来ることなんて夢も何もない。あれは漫画やアニメ、小説の中だからこそ生きてくるのであって、もしそれが現実になったら面白いものなんて何もないんだ。結局は夢を求めて異世界へ行ったとしてもそこで『今』が新しく作られるだけ。異世界へ行く必要性なんてないんだ。すでにこの世界で『今』を生きているんだからさ」
「ちょっと待って、ミネちゃん、異世界で何か想定外が起こったみたいだよ……ユウが帰ってきちゃった……」
「そうだね、本当に想定外だ……けどすごい幸運なのかも……時間も臨界点を過ぎてるしね……もう後戻りもできないし……ミカリンさんが奇跡を起こしてくれた……何であの子は適当にキーボードを叩いてコマンドを成立させちゃうんだろう……」
「現実世界の30分に対して60年に設定する時もあの子は実行ボタンを押すのを忘れていたね」
「そうそう、それでループ終焉率が0.01%から35%になったんだ。私はそれをループ終焉のチャンスだと思って、そのままとぼけていたんだよ。35%でも奇跡的なのに本当にあの子は……」
この後ミネルヴァが計算したところ、35%だった終焉率が75%に向上していた。




