ログアウト
ミーネは大人の人間ほどの大きさをしたドラゴンの姿になり、去っていった。
ミカリンは軽い混乱状態に陥っていた。ミーネの言葉も意味がわからない。自分が置かれている状況の意味もわからない。自分の想いはただ悲痛しかない。
そしてミカリンは突発的にキーボードを取り出す。コマンドを打ちながら、泣きじゃくりながら声を出す。
「もういい、もういい。もうやめる、もうやめる。みんな私が帰してあげる。ノノミンもメイリスもみんな私が強制ログアウトさせる。シーフルもレンジもクロスも私がログアウトさせる。迷宮で石になってる紋別さんもシラゴウもライオットもみんな私がログアウトさせる。ユウ、ユウはどうしよう。どこにいるんだろう。どうしよう。ユウもログアウトさせちゃっていいの? どうしよう どうしよう」
ミカリンは混乱しながら仲間をログアウトさせるためのコマンドをキーボードに叩きつける。取り乱しているミカリンは正しくコマンドを入力できていない。
実行する。拒絶される。実行する。拒絶される。実行する。拒絶される。実行する。拒絶される。実行する。拒絶される。実行する。拒絶される。実行する。拒絶される。ログアウトを実行する……
シガシガは当惑しながらその様子を見ていた。ミーネの言葉、すなわち人工知能であるミネルヴァの言葉だが、まだログアウトすべき時間じゃないというのだ。いったい何の時間だというのか。すべては完全だと言った。その意味もわからない。
ミカリンの行動を止めるための決定的な確信が得られていなかった。しかしシガシガは考える。もしかしたら、これも完全じゃないのか? 人工知能ミネルヴァの言う完全のうちに含まれるんじゃないか? ミカリンの行動、仲間をログアウトさせようとする行動を止めるかどうか悩む、私のこの思考すらも完全なものなのか? 一度私達が体験している? 何のことだろうか……
シガシガはある決断をした。彼女はミネルヴァを信頼することにした。
ミカリンに静かに言う。
「ミカリン、手を止めて」
ミカリンは泣いている。シガシガも自分では気が付かないまま涙を零していた。
「少しだけ……少しだけわかった気がするの」
ミカリンは手を止め、シガシガの言葉に耳を傾ける。
「ここへ来る前、リュクンヘイムの言葉に私達2人は動揺した。混乱もした。ただその後ミカリンと2人でこの山へ来る決意をして行動に移してから、私達は吹っ切れた。行動することで、不安、恐れ、心配を断ち切れた。彼女……ミーネちゃんはね、さっき私にこう言ったの。『どんなネガティブな事象でも、それをポジティブな事象に変換できる』たぶんこのことだったと思う」
ミカリンは涙を流したまま黙ってシガシガを見据える。
「そして今私達はまた混乱している。たぶんリュクンヘイムの言葉を聞いた時以上の混乱。でもこれも『どんなネガティブな事象でも、それをポジティブな事象に変換できる』のなら……私達は何ができるんだろうか?」
ミカリンがシガシガの言葉で唇をきつく噛み締める。
「わかん……ない……」
ミカリンの絞りだすような声。ミカリンはボロボロ涙を零している。
「最後にミーネちゃんが言った言葉はミカリンも聞いてたよね。『すべは完全だから……』。もし今ここで起こっていること、これも完全なことならば……私達は何ができるんだろうか?」
同じ問をシガシガはミカリンに投げかける。
「わかん……ない……けど……リュクン……ヘイム……さがす……」
ミカリンの言葉にシガシガが頷く。
「ミカリン、今はそのための行動を移そう……」
直後眠っていた1体のドラゴンが静かにその目を開ける。




