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5体の石像

 遠目には人影に見えた。3体のフロストドラゴンが寄り添って寝ている。寝ている状態ですら高さは4m以上。そしてそのドラゴンの足元にいた者、いやあった物と言うべきか。5体の石像。


 そのうちの1体を即座に識別したミカリン。


「ノノミン!」


 ミカリンが叫び、石像に駆け寄る。


 一番手前にあった石像。それはまぎれもなくノノミンの姿だった。腹の傷がそのままに苦痛に歪む顔をして石化した状態で立っている。


 そして残り4体の石像。


 シガシガがミカリンより先にそれを認識する。


「メイリス達……」


 その石像は『メイリス』 『シーフル』 『レンジ』 『クロス』。


 本来ならこんな場所にいるはずのない4人。

 

「(『盗賊の耳:シーフズ・イヤー』で聞いちゃったんだね)」


 ミーネがシガシガにだけ聞こえる声で説明する。だがその説明では足りなすぎる。

 

「(一体どういうこと?)」


 シガシガがミーネにこっそり尋ねた。


「(フールちゃんに伝言を頼んだでしょ? 北の雪山へ行くって。タカヤンさんに伝える時に『盗賊の耳:シーフズ・イヤー』でメイリスさんが聞いちゃってたんだよ。だから事情もわからないまま心配したメイリスさん達があなた達の跡を追ってきた。彼女達は貧弱な装備のまま来ちゃったからね。で、捕まっちゃったの)」


 ミカリンも残りの4体の石像――それが開発室のメンバーであること――を認識する。ミカリンが突然ポロポロ涙をこぼす。


「なんで? なんでこうなるの……? 『紋別』さん達だけじゃなく、『ノノミン』も『メイリス』も……『シーフル』も『レンジ』も『クロス』も……みんな石にされちゃってる……」


 ミカリンはなぜノノミンと、それに加えメイリス達4人までもが石像にされ、ここにあるのかはわからない。しかし、タカヤン、ミカリン、シガシガ、そして行方不明のユウ、この4人以外の残りの開発室メンバー全員が石にされている事実。その事実がここにある。


 ミカリンは泣きながら声を上げる。


「もう、もういい。もういいよ。帰ろう。帰ろうよ。もうログアウトしちゃおうよ。みんなでログアウトしちゃおうよ。メイリス達が何でここにいるのか、わかんないけど、もういいよ。こんなひどいこと嫌だ。石の中で眠ってるのかもしれないけど嫌だ。もう帰ろうよ。もう嫌だよ。もうやだよ」


 シガシガは何も言えないでいた。


 シガシガは小さな少女、ミーネを見る。涙で潤んだミーネの目が赤い。ミカリンのように悲痛な少女の顔。そのミーネが静かにシガシガにささやく。


「(とりあえずわたしのことはミカリンさんには黙ってて……あと、まだログアウトすべき時間じゃないからね。すべては完全だから。忘れないで。完全だから。ミカリンさんとシガシガさんは一度それを体験しているんだから。だから大丈夫)」


 そして少女ミーネは悲しげな声でミカリンにも声をかける。


「じゃあねミカリンさん、また後で会おうね。すべては完全だから……忘れないでね」


 そう言ってミーネは少女の姿から本来の姿である小さなドラゴンになって飛び立っていった。


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