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異世界の吸引力

 俺たち2人はラフィアス・オンラインのテストサーバー『アルファナイツ』について話をしていた。


 昨日異世界に迷い込んだ俺こと高柳秀人たかやなぎひでと吉野川よしのがわみかの2人だ。


 場所は会社の会議室、20人ほど入れるスペースだがその片隅で2人はこそこそと小さな声で話をしていた。あまりに非現実的な会話の内容のためだ。


「昨日のゲームのことだが、あれって危険だよな」


 俺は吉野川に問いかけた。


「そうですね。あそこから出られなくなるかもって考えるとちょっと怖いですね」


 吉野川が答える。


「とりあえず、このことを他のメンバーにも話すかそれとも秘密にしておくか……話しても信じてもらえそうもないけどな」


「じゃあ、みんなにもあの世界にいってもらいましょうか!」


 いたずらっぽく吉野川が答える。たぶん半分は冗談だろうが、もう半分は本気っぽくも感じる。


「確かにあの世界に行かない限りは信じてもらえないだろうな」


 俺はさらに続ける。


「とにかく危険の可能性があるうちはみんなを巻き込むことはできないな。それとあの世界のことをいろいろ調べたかったが、もう一度あそこへ行くのは今のところやめておこう」


「えー行かないんですか?」


「お前は行きたいのか?」


「うーーーん。ちょっと惹かれるところもあるんですよね。すごいじゃないですか! 異世界ですよ! 昨日はあまり眠れませんでした」


「まあ、俺もあれからいろいろ考えてしまって、よく眠れなかったよ。確かにすごいことなんだよな……」


「そうですよ! でもあの世界って誰もいないんですかね? 人もモンスターもいない空っぽの世界なんでしょうか? 魔法は使えましたけど、アイテムは? ポーションなんかって使えるんでしょうか?」


「わからないよ。俺も街の外までは出なかったけど、街をいろいろ見て回った限り、アイテムっぽいものが何も発見できなかったよ」


「そうなんですか? 空っぽなんですかね。でしたらちょっとつまんないかなー」


「いずれにせよ、ミネルヴァに聞けばわかるかもしれないんだけど、開発室はみんながいるしな」


 ラフィアス・オンラインは人工知能を搭載したサーバーで稼働している。その人工知能に開発メンバーが付けた名前が『ミネルヴァ』だ。ミネルヴァはテストサーバー用の人工知能で、本サーバー用の人工知能は『ガイア』と呼ばれている。この人工知能がゲームに接続したプレイヤーの脳に変わって高速処理をすることで、ゲーム内での時間間隔を早めているのだ。


「ミネちゃんならなんでも知ってそうなんですけどね。セキュリティ上有線回線からしかアクセスできませんしね」


「やっぱりメンバーにも話しをしておかないとかな」


「話しするまえに、異世界の街の外くらいは探検しておきません?」


「危険だって」


「大丈夫ですよ。昨日は先輩は通常ユーザーでログインしたからまずかっただけで、管理者権限スーパーユーザーならすぐログアウトできますし」


「ログアウトの件もそうなんだけど、モンスターがいないという保証もないし、あれだけリアルな世界で死んだらどうなるかが想像つかないんだよ。ゲームの中のデータ上での死亡であっても、あれだけ痛みを感じるとなるとこの世界の肉体に影響がないっていうのも考えにくいんだよな」


 現在のヴァーチャルリアリティMMORPGでは触覚を感じる機能こそあるが、強い痛みを感じることはない。それは強烈な痛みが脳を通して現実の肉体に悪影響を与える可能性を考慮して禁止されているからだ。システム上痛みを感じることはできないようにハードウェアで制限がかけられている。ではなぜ昨日は痛みを感じることができたのか、それも含めてわからないことが多すぎる。


「危険を感じたらすぐログアウトすれば大丈夫ですよ、きっと。それよりもう一度あの世界へ行ってみたくありませんか? リアル魔法少女ですよ! 『飛行術:フライング』の魔法も使ってみたいですし! 『透明化:インビジブル』も面白そう! あ、誰も見てないなら意味無いですね。それとアイテムいろいろ使ってみましょうよ」


「確かに俺もあの世界は気になるんだよ。うーん。じゃあ、何を調査するか、必要最小限の計画を立てて、もう一度だけ行ってみるか?」


「さすが先輩! 話がわかります!」


 そうして俺と吉野川はもう一度あの異世界へ行くべく準備を始めることにした。2人共、異世界の魅力に少しずつ惹きつけられ始めていた。なぜ、ゲームに接続すると現実と見紛みまごうような世界に行くのか、なぜそこで魔法が使えるのか、その世界に人やモンスターはいるのか。ゲームでは味わえないワクワク感がそこにあった。2人はちょっとした冒険のつもりでいた。2人は思いもしなかった。ゲームと異世界のリンクがあんな大事に発展していくなんて。



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