メイリス・コタビスの部屋へ
――場面はタカヤン達が囚われている地下牢へと戻る。メイリスが自身のメイド部屋で同じパーティの仲間と相談をしていたほんの少し前だ。
牢の前の暗い廊下から歩いてくる2人の人影。1人は衛兵。もう1人は少女。フールだ。
「ミカリンさん達……大丈夫ですか?」
衛兵を連れてタカヤン達が囚われている牢の檻の前にフールがやって来た。
「フールちゃん……私達もう出れるの?」
隣の牢のミカリンが泣きそうな声で訴える。
「いえ……まだ無理そうなんです。私が計画したって言っても信じてくれなくて……私を利用してミカリンさん達が宝物庫から宝を盗もうとしたって思っているみたいなんです。必ずみなさんをここから出しますのでもう少し……辛抱して待っててくださいませんか?」
「……」
通信スクロールのことを思い出した俺が期待をせずにフールに尋ねる。
「あ、そうだ……フールちゃんさ、『メイリス・コタビス』って名前に聞き覚えあったりしないかな?」
フールが少し考えてから答える。
「メイ……リス……・コタビス? ……ああ、うちのメイドにそんな名前の娘がいた気がします。その娘がどうかしましたか?」
「それが……俺にこんな通信スクロールを寄こしたんだよ。これが信頼できるものかどうか、フールに調べてもらうわけには行かないだろうか?」
俺は牢の檻から手を出してフールにメイリス・コタビスからの通信スクロールを渡した。それを読むフール。首を傾げている。
「タカヤンさんの知り合いの方じゃないんですか? わかりました。じゃあ私がそのメイリス・コタビスさんに会ってみますね。メイド室にいるといいのですが……」
――――
そんなやり取りが地下牢であって今、フールはメイリス・コタビスの部屋の前にいる。
コンコン。
「メイリス・コタビスさん、いらっしゃいますか?」
「……」
しばらく無言の状態が続く。フールが2回めのノックをしようかどうか迷って、ノックしようと手を上げたと同時に中から返事が聞こえた。
「あ、は、はい、います、今、扉を……開けますね。ちょっと、待って……くださいね」
ガチャリと扉を開けメイドが顔を出す。
すかさずフールが詰問する。
「あなたがメイリス・コタビスさん?」
「あ、はい、私がそうです。フール・ライアス様ですね?」
「私のこと知ってるの。じゃあ話が早いね。あなた何者? ちょっと話が聞きたいだけど中に入れてもらってもいいかな?」
「え、あ、は、はい、どうぞ……」
中に入ったフールはメイリスに疑いの目を向けたまま再度同じ問いを繰り返す。
「あなた何者? タカヤンさんにこんなスクロールを送ったよね?」
そういって唐突にフールはタカヤン宛にメイリスが出した通信スクロールを突きつける。
「どうしてフール様がそれを?」
「タカヤンさんから預かってきたの。一体あなたはタカヤンさん達とどういう関係なの?」
「え、同じ開発室の仲間なんです」
「カイハツシツ? 何それ? タカヤンさんあなたのことなんて知らない感じだったよ」
「えええ、ひどい、私ってそんなに陰薄かったかな。何でだろう……」
(……お前が小田部って気がついてないんじゃないか?)
どこからか男性がこっそり囁く声がフールに聞こえたような気がした。フールは何を言ったのか聞き取れなかったので気のせいだろうと考えた。
「あ、そうか」
悟ったようにメイリスが言う。
「私、小田部亜耶美って言うんです。メイリス・コタビスっていう名前はこっちに来てから決めたので、タカヤンさん知らないんでしたね。うっかりしてました」
「小田部亜……あ、もしかして小田部ちゃん? メイドの小田部ちゃん? ああ、タカヤンさんが確かに言ってたね。何だそっか。そっかそっか。タカヤンさんの仲間か」
フールがうんうん頷いて、発言を続ける。
「でも小田部ちゃん……じゃなくてメイリスさん、『紋別』さん達を助けに行こうとしてるんだよね? 1人じゃないよね?」
「ええ3人で行く予定です」
「じゃあ、私も連れて行ってよ。ミカリンさん達、私のせいで今牢屋に入っているんだ。すぐ出られると思うけど、私のせいだから……代わりに私が『紋別』さん達の救出に行ってあげないと!」
「フールちゃ……様はまだ小さいからまだ無理だよ……無理ですよ。フール様に何かあったらミカリンさん達に顔向けできませんから」
「大丈夫だよ。私強くなったから。たぶん大丈夫」
「そうは言っても……」
「絶対大丈夫。絶対連れて行って!!」
「でも……」
フールが声を張り上げて食い下がる。




