侵入
声を潜めてフールが話しかけてくる。
「さて、あのちょっと先が王国の宝物庫なんだけど……」
フールの提案というのはラファイアス王国の宝物庫から英雄が使用したという伝説の武器防具、不思議な力を持つアイテムの数々。それをちょっとだけ拝借するというものだった。
本当に俺達がこの世界に持ち込んだ装備より強力なものがあるかどうか不安だったが、フールの「絶対にすごいものがあるはずだから大丈夫。王様から聞いたことがあるし」との言葉を信じて宝物庫の手前までやってきた。
しかし、予想していた以上に警備が厳重だった。かなり苦労してここまで来たのだ。
目の前の扉を開け、さらにその先の扉を空けて宝物庫に辿りつけるという。しかし目の前のその扉に衛兵が2人。
何とかここまではフールの総魔術師長という顔の広さを生かして警備の怪しい視線を誤魔化してくぐり抜けてきた。
しかし流石にここはその衛兵2人をどうにかしないといけない。
どうしようかと廊下の陰から悩んでいたら、突然フールは1人でその衛兵2人に向かってツカツカと歩き出す。
「警備、ご苦労さまです!」
明るい声で言うフール。
「あ、フール様、ありがとうございます」
敬礼とともにそう返答する衛兵の2人。
「悪いけどちょっと眠ってね『睡眠:スリープ』」
フールの突然の魔法発動とともに衛兵がまどろむ。音を立てたらまずいと思った俺達が飛び出して、倒れこむ衛兵をあわてて抱える。
重要箇所の守りを固める衛兵だ。当然魔法抵抗も強化されているであろう。が、あっさりフールの魔法が効いてしまう。それほど今のフールは魔力が強化されているのだ。
脳天気な行動をとったフールもさすがに次は声を潜めて囁く。
「……さあ……行くよ……」
俺達は無言でうなずき、フールがゆっくり扉を開ける。その先にも衛兵がいるだろうと思っていたが、2帖ほどのその小さな部屋には扉があるだけだった。衛兵を配置するには狭すぎるようだ。
ほっとした俺はノノミンにアサシンのスキルを使ってもらってその扉に罠がないか調べてもらう。ノノミンは高度な罠までは見抜けないが、どうやら罠はないとのことだ。しかし施錠されているようだと話す。
その鍵もノノミンの解錠のスキルで外してもらい、俺が扉を開けようと取っ手に手を掛けて小さい声で言った。
「開けるぞ」
その言葉に4人は息を潜めて俺が扉を開けるのをただ待っている。扉がギッという微かな音を立てて開きだす。
突如、
BUーーーーーーーーーーーーーーー!
BUーーーーーーーーーーーーーーー!!
BUーーーーーーーーーーーーーーー!!!
ブザー音が大きく鳴り響く。しまった、扉を開けた時に鳴るように罠が仕掛けてあったのか。そう思った俺だが、音の発信源は俺自身だった。
「なっ、俺?」
一斉に女性3人と少女1人が俺を睨みつけてくる。それと同時にここへ向かって駆けてくる複数の足音。
――――
そうして俺達は宝物庫への侵入者として地下牢へぶちこまれ、フールは脅されたか、唆されたか、何らかの手段で利用されたのだろうということで牢には入れられず事情を聞かれているようだ。
男性の俺は1人で、女性のミカリン、シガシガ、ノノミンは3人が共に1つの牢へ入れられることになった。
俺を乱暴に牢に放り込んだ兵達が立ち去って1人になると、あの音は一体何だったんだ? そう思って自分のアイテムボックスを覗いてみた。『盗賊の耳:シーフズ・イヤー』と『敵意の位置探知:エネミーズ・ポズ・サーチ』が仕込まれている。このアイテムは制限時間付きで一定時間がくると仕掛けられたことを知らせるブザーが鳴る。
(やられた……いつの間に?)
そしてそのアイテムにはラフィアス・オンラインの時と同じ効力が発揮され、犯人の名前が浮き出ていた。
――メイリス・コタビス――
俺は思わずそのアイテムを叩きつけて壊そうかと思ったが、ラフィアス・オンラインで偽情報を相手に流すことにも使ったギルドがあったことを思い出し、一旦手を止めた。
(それにしても誰だ? このメイリス・コタビスって奴は? 一体いつの間にアイテムボックスへ入れたんだ。いやこの世界にもそういった能力を持つ存在がいるということか。迂闊だった)
俺は警戒を怠った自分を責める。
紋別達を救出に行かないとならないのに、メイリス・コタビスの正体も掴まないといけない。厄介事が一つ増えてしまった俺は頭を抱える。
(フールにうまく弁解してもらって、早くここを出なければ……)
そう考えていたところに1枚の通信スクロールが俺の元に届く。ミカリン達かな? と思ったが差出人は意外な人物。
スパイアイテムを投入した当人、メイリス・コタビスだった。
何だコイツ。喧嘩を売ってるのか。そう思ってスクロールを開いた。短い簡潔な文章。それを読んだ俺。
(誰? これ? 敵……じゃないのか? 味方……なのか? 信頼できるのか……? できないのか……?)




