ダーリアの神殿
同僚の小田部ことメイリス・コタビスに会話を盗み聞きされているとも知らず、俺達はラファイアス王国へと急いで戻り、預言者ダーリアに会いに行った。
預言者ダーリアがいるであろう場所はラファイアス城の片隅に建てられたまだ新しい小さな神殿だ。この神殿のサイズは権威ある豪華な神殿を建てようとしていたシルフィール3世国王の好意を断りダーリアが望んだ結果だ。それでもダーリアの意向よりも大きなものにはなったのだが。神殿というより少し大きめの教会とでも言った方が本当は正しいのだろう。
ダーリアの予言は神の神託によるものだ。このことを知っている者は少ない。ダーリアに不思議な力があるのではないかと考えている人々も多い。彼が予言を始めたのはほんの十数年前のことだ。一神官であったダーリアに神の声が聞こえ出したのだ。
その神殿でダーリアはフールとタカヤン達の来訪を待っていた。
「お待ちしておりましたフール殿。その方々がタカヤン殿とそのご一行ですね。お初にお目にかかります。ダーリアと申します」
初老のダーリアはとても丁寧な口調だ。
俺達がそれに答えて挨拶をするとすぐにダーリアが本題を切り出した。その内容は意外なものだった。
「あなた方をお呼びした理由を早速申し上げます。突然ですがあなた方は『モンベツ』、『シラゴウ』、『ライオット』なる者たちをご存知でしょうか」
この唐突な質問に俺達は顔を見合わせる。
「は、はい存じております。私達の仲間です」
(ダーリアがなぜ知っているんだ? 3人だけか? 上倉優、ユウだけ名前が上がっていないな)
俺は思った。
「そうでしたか。実はこの方々が現在隣国であるビグルム帝国に囚われているそうなのです。しかしそのビグルム帝国なのですが、現在は我が国との交流がなく、ヴァンパイアやデーモンが支配しているとの噂までがございます」
「……なるほど。しかし……いったいなぜダーリア様が私達の仲間のことがお分かりになるのですか? あなたには不思議な力がおありなのですか?」
俺がダーリアに問いかけた。
「いいえ、私には何の力もございません。あなた方には何も隠さずにお話をしておいた方がよさそうですね。なかなか信じてはもらえないのですが、私は十数年前より神の声が聞えるようになりました。その神であるミネルバ様よりご神託がございました」
(ミネルバ? ミネルヴァ? ん? 偶然……か?)
「少し……当惑されるかもしれませんが神よりのお言葉をそのままあなた方に伝えるべきかと思います。神は……『悪いんだけど、ダーリアさん。タカヤンに伝えて欲しいんだ。らふぃあすおんらいんかいはつしつの紋別、シラゴウ、ライオットがビグルム帝国に捕まっちゃったんだ。助けに行ってあげてよ。がいあ、も心配しているよ』とのことです。意味はお分かりになるでしょうか?」
再び俺達が顔を見合わせる。
(ああ、人工知能決定だな。でも何でダーリアを通して? なぜ直接言ってこない? 世界観を壊さないように配慮しているだけか?)
たぶんミカリンもシガシガもノノミンも同じことを考えているのではないだろうか。
人工知能は異世界とのリンクを待機中と言っていた。それがこちらの時間では十数年前のことだったのだろうか。そうだとして、その頃からダーリアと対話していたということだろうか? わからない……紋別達の救出は急いで行ってあげたい。ダーリアへの詮索はそれからでも遅くないはずだ。
紋別らの詳しい状況は? 拷問でもされていると言うのか? だとして、ログアウトはできないのか? 詳しい居場所はどこだ? たくさんの疑問が浮かんでくる。
「その女神であるミネル……バ様にお尋ねしたいことがあるのですが……」
「…生憎ですが、ミネルバ様が私の質問に答えていただいたことは一度もございません。お尋ねしてはみますが、お答えにはならないでしょう……」
(会話は一方通行ということか……)
その時フールが突然声を張り上げる。
「私もミカリンさん達の仲間を救います! 急いで助けに行きましょう!」
「そうだな、すぐ助けに行きたい。だがビグルム帝国とかのどこに囚われているのか、その帝国がどのくらい危険なのかまったくわからないから……フールちゃんを連れていくわけにも……」
「ヴァンパイアくらいなら私が倒しちゃうけど、流石にデーモンがいたらキツイな……でも力になりたいよ」
フールが答える。
「じゃあさ、フレイタム王国の仕立て屋さん、リー・マイラスターさんに私達の装備の強化をしてもらおうよ」
ノノミンが提案する。
俺達がそうしようかと相談を始める前に、フールが口を開いた。
「……それならもっと私にいい考えがあるよ。ここで簡単に装備の強化が図れるんだ。みんなちょっと耳を貸して」
俺達はコソコソ話すフールの提案を聞いたが、ちょっと受け入れたくない内容だった。しかし今は緊急事態だといえる。しぶしぶその提案に乗ることにした。




