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ラファイアス城の来賓の間にて

 この日、小田部亜耶美こたべあやみことメイリス・コタビスは客人のためのお茶を運んでいた。運ぶ先はメイドであるメイリスが働いている、ここラファイアス城の『来賓らいひんの間』である。


 いつでもメイドスキルである『上手なサボりんぐ』を発動させれば仕事をしなくてもメイドとしての評価は下がらない。だが情報収集の一環として、そしてなにより彼女自身が仕事を楽しんでいるからお茶出しも苦にはならない。


 特にこの日は特別な来客があるという。こんな時では是が非でも仕事を率先してやらなければならない。

 

 メイドを統括する執事からは邪悪なる魔導士を倒した英雄級の方々なので、粗相のないように言われている。


 メイリスは「私が粗相などするわけ無い」当然のようにそう思っている。むしろ久しぶりに役に立つ情報が得られそうだとワクワクしていた。


 フカフカの絨毯の廊下をお茶を乗せたお盆を両手に抱えて歩くメイリス。普段なら数人でお迎えするべきところを今回はメイリス1人だ。メイドスキル『執事の軽口』で聞き出したところ、どうも魔導士の一件は機密事項らしくメイドの口から何らかの情報が漏れるのを懸念しているとのこと。そのため信頼できるメイドであるメイリス1人で対応させることにしたそうだ。


 来賓の間の扉の前まで来たメイリスは上手にお盆を片手と自身の腹で挟んで持ち、空いた手で扉をノックする。その直後部屋から返答がある。


「はーい」


 少女の声だ。あれ? と思ったメイリスだが、どんな客何だろうかと期待に満ちて来賓の間の扉をガチャリと開けた。そこには少女と見覚えのある顔、ラフィアス・オンライン開発室の同僚4人がいた。


 一瞬お茶を落としかけたメイリスはすぐに体制を立て直し、とっさに忍者のスキル『気配消去:サイレントサインLV1』を使ってしまった。別に彼らに見つかってもいいとは思うのだが、反射的に使ってしまっただけだ。


 「し、し、失礼いたします」


 お盆の上でガチャガチャとティーカップの皿の音を立ててしまいながら歩くメイリス。メイリス初の失態だ。しかし「危なっかしいな」という視線をお茶を乗せたお盆に注ぐだけで、少女と同僚4人はメイリスには気を止める様子はない。メイリスは少女と同僚達へお茶を配る。


 「ありがとう」「ありがとうございます」口々に礼を言った少女と同僚達はまったくメイリスに気がつくことなくお茶を手にし、会話を始める。


――――――

「……」

「……」

「フールちゃんも大変だねー」

「もー大変。気楽に冒険でも出たいよー。久しぶりにフレイタムにも遊びに行きたいしね」

「そういえばラファイアス王国とフレイタム王国って仲がいいのかな?」

――――――


 扉の脇に立ち、メイリスはこっそり同僚4人とフールと呼ばれる少女の会話を聞いている。


「ああ、あの娘が開発室で高柳さんとみかちゃんが言っていたフール・ライアスとかいう女の子ね。そうそう高柳さんはキャラクター名はタカヤンだったわね、それでみかちゃんがミカリン……」などと考えているうちに自分がここにいることを伝えるタイミングを完全に逃してしまっていた。


 最初こそ、いつ気が付かれるかとオドオドしていたメイリスであったが今では「なんで気が付かないのかしら? 私ってそんなに開発室で影薄かったっけ?」とすら考えている。


 話も終盤に差し掛かり、フールと同僚達はフレイタム王国へ行くとか何とか。


(やばいやばい、帰っちゃうよ……)


 部屋を出ようとするタカヤン達。スキルはとっくに解除している。気が付いてくれ、という強い視線を送ったつもりだったがタカヤン達はまったく気が付くことなく部屋を出て行ってしまった。


 追いかけて声を掛けようかどうしようか。悩むメイリス。


(そうだ、そういえば同じメイドにメイラとか言うフレイタム王国のスパイがいたわね。あの娘に情報を流せばネガル女王が彼らを城に招いたりしないかな? 確かネガル女王は強い者を探してるそうだし)


 そのまま声を掛ければよかったのだが、「仲間との遭遇を演出するイベント」が欲しいな、と思ってしまったのである。これはゲーム開発者としてのさがなのかもしれない


(次はフレイタム城への潜入を予定していたから、そこでうまくタカヤンさん達と会えるかしら? フレイタムへは異国へのメイドの研修ってことで推薦状を書いてもらって……忙しいな……シナリオも考えなきゃ……)


 メイリスは頭の中でこれからの計画を組み立てていた。


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