超一流のメイド
ラフィアス・オンラインにおいては通常職のMAXLVは200である。しかし、メイドや宝石職人、料理人のような一部の専門職はMAXLVが20に設定されている。
これはメイドのような戦闘力が皆無の職業は遊びのためや暇つぶしとしてしか取得されないためであり、寄り道的な職業としか扱われていないからだ。
ゲーム内でメイドを本気で極めようとするものは少ない。ちなみに『メイド』職は開発メンバーの1人である小田部亜耶美が設定した職であり、自身も愛着を感じている。
メイドはLV20が最大でありながらスキルは多めに設定されている。そのためMAXLVこそ20だが極めようと思ってすべてのスキルを取得するにはそれなりの時間がかかってしまう。そのためメイドの全スキル取得者はラフィアス・オンラインにおいても設計者でもある彼女だけだ。
しかしそのスキルの殆どがラフィアス・オンラインにおいてはあまり役に立つものではない。『ご主人様の読心』、『同僚メイドの読心』、『メイドの作法LV1〜3』、『ご主人様の魅了』、『ご主人様へのお願い』、『完璧な料理』、『完璧なメイク』なんてスキルから『ご主人様に嫌われる』、『メイドの誘惑』、『ご主人様を全力で叱咤激励』、『上手なサボりんぐ』なんてものもある。どれも冒険や戦闘には向かない。
メイドである小田部亜耶美ことメイリス・コタビスは宝石職人の黒須桃子ことジェムル・クロスと協力して、彼女が貴族の屋敷にメイドとして雇われるように行動した。
まず、ジェムル・クロスがラファイアス王国内にやや大きな宝石店を構える。お金ならたくさんあるので店舗の取得は容易だった。
来店した客で王室とつながりを持っている貴族がいた。宝石職人であるジェムルのスキル『客の読心』で簡単にわかったのだ。『客の魅了』や『客の信頼』などのスキルも駆使して、「良家の出身でいいメイドがいるけど紹介したい」と持ちかけた。
ジェムルの助けでメイリスは簡単に上流貴族オルネール家のメイドとなることができた。メイドとなった彼女はたった2,3日のうちにスキルを駆使し、あっさりと主人であるアドルフ・オルネールの信頼を得る。もちろん彼女の裏職である忍者のスキルも使って情報収集することも忘れなかった。
あまり冒険や戦闘に興味がなかった彼女は忍者の戦闘スキルはほとんど所持しておらず、専ら隠密行動系のスキルが中心だったがこの世界では大いに役立った。
数日もすると、スキル『ご主人様へのお願い』を発動させ、王室で働かせてくれるようにねだる。アドルフ・オルネールも優秀なメイドを送り込むことで王室とのつながりを強固にしたかった思惑もあり、メイリスは数日間のうちに王室へメイドとして潜入することができた。
王室でのメイリスのメイドとしての評価はすぐに高まった。何しろメイリスのスキル『同僚からの尊敬』を発動させれば同僚からの妬みや嫉妬を避ける事ができ、スキル『完璧なお茶出し』、『完璧な料理』『完璧な掃除』、から『完璧な会話術』等駆使すれば簡単に超一流のメイドとして認識されることができた。
通常職業のスキルは1日の制限回数があったり、ある程度の回数使うと回復に時間が掛かるという制限付きが普通だ。だがメイドのスキルはイマイチ使いドコロがないという理由から、ほとんどのスキルに使用制限はかかっていない。使い放題なのだ。
使い放題と言ってもラフィアス・オンラインのゲーム内ではそれほど使う事自体が少なかった。NPC相手に心を読んでもあまり意味が無いからだ。せいぜいNPCが次に喋る内容が先にわかる程度だ。『読心』系以外の他のスキルを使っても少しNPCを動かせるとか、会話の内容を変えるとかその程度だ。
しかしこの世界は違う。
心を読める力というのは大きい。もちろん自由に心が読めるわけではなく、話しかけられなければ無理だ。そして読めるのはメイドの同僚か執事、客かご主人様に限られる。ただし、執事はメイドを統括している立場である場合に限るようだった。
メイリス・コタビスはこの世界に夢中になっていた。楽しいのだ。超一流のメイドとして扱われるだけでなく、メイドとして自分の周囲をコントロールできる、まるでメイドの『超越者』になった気分だった。




