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ラフィアス・オンライン開発室  作者: 高瀬ユキカズ
フレイタム王国と女王
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市場裏の仕立屋さん

 俺達は早足に歩くフールの後についてフレイタム王国最大だという市場いちばへと向かった。


 フールの姉フェルトの家を出てすぐ、ミカリンが


「フールちゃんのお姉さんって何歳なの?」


 などと尋ねていたが、


「言うと殺されます」


 ミカリンの言葉にフールが真顔で答えていた。


 それを聞いて、魔術師学校の先生をやっていたくらいなんだから、見た目は20はたちくらいだけどそこそこの年齢かな? と俺は考えていた。


 その市場はこの国最大というだけあって凄い活気だ。これはこの国の物価とこの異世界で流通しているアイテムの種類を知るチャンスでもあったのだが。

 

 市場を覗いてみて物価は大体わかった。しかしアイテムは大したものが置いてない。フェルトが言っていた通り俺達が必要としそうな装備もここでは手に入りそうにはない。

 

 そうは言っても食べ物はラフィアス・オンラインとは違っている。見たことのない果物やクッキーやケーキかと思われるお菓子、あとは正体不明の肉を焼いた料理。

 

「昔よくここで買食いしてたんですよ。変わってませんね」


 フールが話しかけてくる。


「あ、それとこの先に知り合いのやっている仕立て屋さんがあるんです。その仕立て屋さんがまた凄くて、鑑定とか合成とかいろいろできるんですよ。行ってみますか?」


「そうか、まあ暇だし行ってみようか」


 俺は答えて、ミカリン、シガシガ、ノノミンも特に行きたい場所が無いというのでそこへいくことにした。

 

 その仕立屋は市場の裏の暗い路地にあった。

 

 看板も何も無い。常連客しか訪れないのであろうか。

 

「リーちゃん、こんちはー」

「おう、フールか久しぶりー」


 豪快で低い声で答えた彼女はその声に似合わずフールより幼く見える。

 

「こちらリー・マイラスターさん。仕立て屋さんだよ。こちらは私の友達のミカリンさん、タカヤンさんとシガシガさんに……ノノミン……さん」


 なんかノノミンだけとげのある言い方だったが当のノノミンは気に留めていないようだ。


「それで今日は何か用か?」


 幼い顔の彼女は八百屋のオヤジのような威勢のいい声でフールに声をかける。声こそダミ声だが風貌は子供っぽく、ひらひらフールがたくさんあるピンクと白のかわいらしい、しかし作業もしやすそうな服を着ている。

 

「今日は遊びに来ただけだよー。お客さんじゃなくてごめんね」


「おう、いいぞ、でも相変わらず粗末なローブを来てるなフールは」


「そうなんだよ、さっきお姉ちゃんにも言われたんだよ。物理防御もちゃんとしろって」


「確かにフールのそれは武器の攻撃に弱すぎるな……ちょっと待ってろ。昨日いいもの入ったんだよ」


 そういって奥に戻ったリー・マイラスターが1枚のマントを持ってくる。


「すごいだろ、これ、さっきダークエルフから買ったんだぜ」


「へーすごいの? わからないや」


 フールが冷めた感じで答える。


「買取価格金貨50枚。本来なら金貨100枚で店に出すところ、フールなら金貨75枚で売ってやってもいいぜ」


「ホントに強いの? それ」


「当たり前だろ、鑑定済みだぜ。エルフだけじゃなくて魔術師でもちゃんと使えるぞ」


「ふーん、じゃあ買うよ。75枚ね」


 そういってフールは懐から袋を取り出して。じゃらじゃらと金貨を取り出す。


「本当に金持ちになったな、フール……。金貨100枚にしときゃ良かったよ」


 そう言った後、がはは、というようにリー・マイラスターが笑った。

 

「まあ、昔はこんな高い買い物できなかったね。お姉ちゃんのおかげかな」


「じゃあフール、金貨10枚追加でこんな付加価値つけてやるぞ、このマントだけじゃちょっと物理防御が足りないから、この指輪を合成するんだ」


 そう言ってリーが取り出したのは小さな青い宝石がめこまれた指輪だ。話の流れから物理防御強化の指輪のたぐいだろう。

 

「へーそんなことができるんだ」


 横からシガシガが感心したように声を出す。

 

 もちろんラフィアス・オンラインでもアイテム合成は可能だが、合成するアイテムは決まった物同士でしかできない。またアイテムの能力付加は素材アイテムを媒介にした魔法によるものだ。


「ああ、大抵のアイテムの能力を取り出して防具に付加できるぞ。たまに失敗するがな……」


「じゃあ、その指輪じゃなくてこっちで試してみてよ」


 そういうとミカリンは自分の青い石の指輪を外してリーに渡す。それを受け取ったリーが『ギョッ』とする。

 

「おいおいこれって……失敗したら弁償できねぇぞ……」


「いいよいいよ。別のもあるし。やってみてよ」


「マントが燃えカスになることもあるぞ。まあオレは金もらっちまってるからいいがな」


 女の子なのに自分のことを『オレ』と言ってしまうリーが答える。


「それ合成したらどの位強くなるの?」


 フールが問いかける。


「ふむ、正確には合成後に鑑定してみなきゃわからんが、金貨1000枚くらいの価値に跳ね上がるんじゃないか」


「じゃあやってみてよ!」


「気楽に言うな、フールも。よしやってみるか。オレもこんな面白そうなの初めてだしな。ほんとにいいな、ミカリンさんとやら」


「いいよー」


 誰も異論を唱える者がいないので、リー・マイラスターはエルフのマントとミカリンの物理防御強化の指輪の合成を始める。

 

 マントの上に指輪を置き、リーは魔法のようなものを唱えるとマントの下に青白く魔法陣が現れる。アイテム合成はこの世界でもやはり魔法の力によるものなのだろうか。

 

 指輪とマントに赤白い炎のようなものが現れ、リーが焦りの色を浮かべるが呪文の詠唱を続ける。指輪とマントが同時にその炎に包まれたのはほんの一瞬のことである。消失したかに見えた2つのアイテムは1つのアイテムへと姿を変えていた。

 

 マントの見た目はほとんど変わっていない。ただわずかに輝きだけが増している気がする。

 

「成功したが……ちょっと鑑定してもいいか?」


 誰の返事も待たずにすぐリーが呪文の詠唱を始める。

 

「やばいもの作っちまったよ」


 そういってマントをフールに突きつけてくる。

 

「金貨1万枚出しても買えねーよそれ。そんな物持ってるってわかったらお前の命を奪ってでも手に入れようとする奴も出てくる。フールお前そのマント奪われねぇように気をつけるんだぞ」


 受け取ったフールが目を丸くしていた。


 思わぬところで俺たちの装備の増強ができる可能性が見つかったのは幸運だった。だがマント1枚でこの反応では、リー・マイラスターに頼むのではなくて違う方法を取りたい。


 例えば合成魔法をスクロールに込めてもらって、合成は自分達で行うなんかがいいかもしれない。


 リーは手持ちのアイテムは何も使っていないということで、アイテムの合成料金は受け取ってくれなかった。


 俺たちは軽くリーに口止めをしてその仕立て屋を後にした。


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