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ラフィアス・オンライン開発室  作者: 高瀬ユキカズ
バランスの悪いパーティ
23/85

モンスター部屋

 魔王が城に戻っているとしたら最上階である7階の玉座の間あたりか地下の霊廟か。ボスは最奥にいるものと相場が決まっている。

 

 先の潜入で城の内部の様子は把握している。最短で目的地まで行けるだろう。

 

「ビンゴだな」

「ああ、あいつで間違いないだろうな」


 すでに城に潜入してこそこそと話す4人。ここにいるだろうと目をつけた玉座の間にそれらしき存在がいた。最初の潜入とは異なり、ヴァンパイアの数も多く、グレーターデーモンらしき存在も確認できる。やたらとモンスターの出入りが多いため開け放たれた玉座の間の扉から少し離れて4人はいる。

 

 8mはあろうかという高い天井、豪華な装飾の施された太い柱、玉座から扉までまっすぐに伸びた赤い絨毯。典型的なそれだが、不気味な複数の石の彫像が気になる。翼の生えた鳥のような悪魔のようなその像。恐らく近づくと動き出して襲ってくるガーゴイルのたぐいだろう。

 

「(この部屋じゃ少し広すぎるな。これじゃ俺達のモンスター召喚クリスタル全部使ってぎりぎりだな)」


 今一行は玉座の間の入口近くに入り込み、透明化のアイテムを使って潜んでいる。打ち合わせにより、この扉がモンスター達により閉められた時が作戦決行の合図となっている。モンスターの出入りが少なくなってきたのでその時が迫っているのだろう。そう思っていた時魔王と思わしき存在が口を開いた。

 

「ではゴミの掃除も終わったことだし、私は再び眠りにつこう。お前たちは引き続きこの城の警護を怠るなよ」


「畏まりました。魔王様」


 ヴァンパイアロードとラフィアス・オンラインでは見かけたことのない知的そうな悪魔風の人間型モンスターそれぞれ数体が跪いて答えた。

 

 魔王は玉座から立ち上がるとすぐ後方にある隠し扉を開け部屋から姿を消した。

 

「(あんな所に隠し通路があったのか)」


 リーダーである紋別は作戦変更を決断し、透明化されている仲間の体を2回小突き作戦変更の合図を送る。

 

 急いで部屋を出て地下の霊廟へ向かう。もしあの部屋へ向かっているならば、それほど広くないためこちらとしては好都合だ。しかも魔王の下僕がいなければなおのこと。

 

 霊廟の扉の近くまで先回りする。魔王がここへ入るのを見届けなければならない。少し遅れて魔王が1人で霊廟の前まで来る。そして霊廟へと入る。


 仲間に作戦開始の合図を告げ、聖騎士のシラゴウが霊廟の扉が開かないように押さえる。剣士のライオットがレーザーソードを使って扉の横の壁に30cmくらいの穴を開ける。それと同時に紋別とユウが、遅れてライオットがそこに向かって次々にモンスター召喚クリスタルを投げ込む。

 

 クリスタルが割れる音が辺りに響き、その霊廟の部屋にはモンスターが溢れだす。

 

「な、何だ!?」


 部屋から声が聞こえるが。魔法を発動させたらしくモンスターが焼け死んで焦げる匂いが外にいる紋別らのところまで届く。


 こんな作戦で魔王が倒せるなんて考えていない。これは魔王のMPを削り、あわよくばHPが削れたら幸運、その程度のものだ。配下がいればそれを減らそうと思っていたが、幸運にも魔王1人だ。

 

 魔法による抵抗により部屋のモンスターの数が一気に減るが紋別らのクリスタルは次々投げ込まれる。

 

「へぎゃっ」


 という声とともにモンスターが急に減らなくなる。まさかこの程度で魔王が死んだのか? と考えもしたが、手を休ませることなくクリスタルの投入を続ける。

 

 モンスター部屋が出来上がった。召喚されたモンスターは同士討ちをしないため、殺す者のいなくなったその部屋は天井までモンスターがぎっしりと詰まっている。レーザーソードで開けた壁の穴は制限時間を迎え塞がった。

 

「魔王を倒せちゃったのかな?」

「うん、弱すぎるね」

「このあとの作戦も考えてたんだけどな」


 クリスタルが尽きた後、魔王のMPが残っていたら流石に倒すのは無理と判断して撤退。魔王のMPが無いようなら肉弾戦に突入するが、こちらは回復ポーションが無数にあるため有利である。『攻撃はできないが一時的に防御を飛躍的に増加』するアイテムなど手持ちの様々なアイテムを総動員すれば肉弾戦で倒せると判断していた。


 魔王をあっさり倒したと思い込んでいた4人の背後から突然声がかかる。


――――


「魔王様が弱い? そんなわけないでしょ」


 背後から声がした。


「あんたらの作戦聞いてたからね」


 聞き覚えのある女性の声。


「エ、エルム?」


 ユウが声を上げる。


 その彼ら4人の背後にいたのは確かにエルム。にやっと笑ったエルムが嫌な事を口にする。


「モンスター部屋ってこんなのもあるのよ」


 エルムがそういうと透明化した4人とエルムの間に鉄格子が天井から落ちてくる。霊廟を背にしておりの中に閉じ込められた形だ。

 

「じゃあねーバイバイー」


 そう言ってエルムは背後の扉を開けて出て行く。それと同時に天井や壁から赤、青、黄色、その他何色とも形容しがたい様々な色のスライムが湧き出てくる。スライムは透明化している紋別らを識別できないらしく辺りをうごめいている。後ろは自分たちの召喚したモンスターの詰まった霊廟、前は檻、逃げ場がないまま。スライムが足元から徐々に増えていく。

 

 『天使の翼:エンジェルズウィング』を発動……当然できない。足元から徐々に満ちてくるスライムの海になすすべもない。透明化してはいるがスライムがこの通路を充満する頃には溶かされる。

 

 スライムが膝の高さにまで達した頃、軽量装備のライオットとダークエルフのユウは透明のまますでにダメージを受けている。透明化を解除したらスライムは一斉に向かってくるのではないだろうか。


 もし、そうだとしたらスライムに目があるのか? 何らかの視覚情報を感知する能力でもあるのか? などと無駄なことを考えるうちにスライムが通路に充満していく。

 

 紋別の重装備とシラゴウの白銀の装備もスライムにより溶かされつつある。檻はスライムによって溶かされていないところを見ると特殊な金属なのだろうか。

 

「な、何か使えるアイテムは……」


 そう言いながらライオットとユウはポーションをひたすら消費している。今のところ回復がダメージに追いついてはいる。

 

 ユウはスライムを倒せる炎系の魔法は弱いものしか取得していなかった。透明化しているとはいえ魔法を発動させるとスライムに感知される恐れがあるが、ユウは魔法を発動させてしまう。


『火球:ファイアーボール』


 ユウの周りのスライムが若干焼かれて減ったが、それはユウにとって致命的な行動だった。一斉にスライムが透明化したユウがいるであろうその魔法の発生源に集まる。すでに増えすぎているこの量のスライムを1人で引き受けるユウはひとたまりもなかった。死亡しても復活できるアイテム『生命の宝石:ヴィクティムジェム』が自動的に発動したが、HPがゼロから20%まで回復するだけでスライムの侵攻がそのまま続く。ユウは2度溶け、絶命した。

 

 仲間にはユウのHPが無くなる前にユウの姿が一瞬見えた。『透明化の外套:インビジビリティローブ』が溶かされたのだ。

 

 このままでは『透明化の外套:インビジビリティローブ』が溶かされた瞬間に自分達にもスライムが襲ってきて終わる。

 

「『無限の防御石:インフィニットディフェンス ストーン』を使うんだ……」


 紋別がそう言うとアイテムを発動させる。同じアイテムを持っていたライオットも発動。

 

 『無限の防御石:インフィニットディフェンス ストーン』は100%の物理防御を発揮する。一見無敵状態に思えるが、一歩でも動いたり発言したり、魔法攻撃によりすぐに解除されるイマイチ使い道のないアイテムだ。しかしここでは一時的な延命には使える。

 

「ごめん俺持ってないんだ」


 聖騎士の装備がすでにだいぶ溶かされたシラゴウが悲痛な声で呟く。

 

 スライムの投入が急に早くなり、急速にスライムは天井まで達しようとしている。すでに通路は天井までほぼスライムで満たされてしまっていた。

 

 霊廟をモンスターで満たしていなかったらそこへ逃げ込む手段もあった。今更悔やんでも仕方ないが。


 スライムで満たされた今となっては透明化していようがいまいが関係ない。シラゴウは溶かされていく。シラゴウの運命もユウと同じであった。2度溶かされ、絶命する。

 

 かろうじて紋別とライオットが生き残ったまま時間だけが過ぎていく。

 

(このまま待っていればエルムや魔王らが俺たちの死を確認しにやってこないだろうか)


 そんな期待も虚しく何も起こらないまま数時間が経過していった。訪れたのは空腹……だ。

 

(こんな時に腹が減るなんて……)


 食料は無数に所持しているが、食べようとして動いた瞬間に『無限の防御石:インフィニットディフェンス ストーン』が解除され終わりだ。しかし空腹が長時間続けばやがて死が訪れる。

 

(もう諦めるか……)


 リーダーである紋別がそう思った時、


「ごめん、俺もう無理……」


 ライオットの声が聞こえ、『無限の防御石:インフィニットディフェンス ストーン』の解除とともに人型に透明の空間ができていたその場所までスライムで埋まる。ライオットも溶けてしまった。

 

(何か他の開発メンバーに残せるものはないか?)

 

 最後に残った紋別はここで終わることを覚悟していたが、他の2グループに自分たちの死を伝える手段が何かないか考えた。そうは行っても少しでも動いたら溶かされるまで時間がない。できることとしたらほんの僅かな時間でできること。


 やがて睡魔による能力の大幅減少が訪れる。その前にやっておきたい。

 

 鉄格子の金属はスライムにより溶かされていない。するとダンジョンの一部で破壊不能と設定されているものはモンスターによる影響はないのか?

 

 破壊不能のアイテムを残そう。そう考えて取り出したのは、ゲーム内で購入した家などに飾る派手に装飾されたアイテム、『聖なる木:クリスマスツリー』。


 この不自然に置かれたアイテムを見て気がついて欲しい。

 

 アイテムを取り出した後、『無限の防御石:インフィニットディフェンス ストーン』が解除されてしまった紋別はツリーを残して溶かされた。


――――


 魔王の前に跪くエルムがそこにいた。


「ダークエルフの何人かに逃げられたのが残念ですね」


 そう目の前の魔王に語りかける。エルムにはエルムの計画があった。人間どもへの復讐。そのためには同胞の命が奪われることもいとわなかった。

 

 もちろんエルムには人間達の王国へ侵攻する力など無い。魔王リュクンヘイム、『こいつ』を使ってエルムは自分の個人的な恨みを晴らすつもりでいた。

 

 そのためにエルムはダークエルフ村の内通者として魔王と通じていた。どこから来た馬の骨とも分らない者達になぞ自分の計画を台無しにしては欲しくない。

 

「ダークエルフ達が人間と組んで反旗を翻そうとしている」


 そう密告したのはエルムだった。同胞を売ってまで魔王につく。何人かのダークエルフには逃げられてしまった。


 彼らにこのことが知られれば恨まれることだろう。だが知ったことではない。私は人間に復讐する、そのためだけに生きているのだ、エルムは自分を納得させる。


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