潜入調査と帰還
現在4人は魔王リュクンヘイムの城へと乗り込んで来ている。『透明化の外套:インビジビリティローブ』の欠点はお互いの位置の確認ができないことだ。何の合図も決めずに来てしまったが、それでもささやき声で話せば互いの位置が確認できるので何とかなった。
4人は城の地下5階まで降りてきた。地上7階までの調査を終えてどこにも魔王がいなかったのを確認し、地下へ降りてきたのだ。
大した苦労もなくここまでこれたのはモンスターの数が少なかったからだ。それに強さも大したことがなさそうだった。せいぜいレッサーヴァンパイア、レッサーデーモンくらいのもので、推定LV40〜50、レベルだけ見ると今の4人では強敵だとは言えるが強力な装備を持つ4人で倒せない敵はいない。これでは魔王も大したことなさそうだ。
城の地下、その最も奥の部屋は霊廟であった。1つの巨大な棺があり、そこに眠っているのが魔王リュクンヘイムか、あるいはここにいなければ魔王は留守なのであろうか?
いつでも逃げ出せる体制を取り、リーダーである紋別が思い切ってその棺を開ける。
「空だ」
「ああ、空だな」
「どこにもいねーなー」
「しょうがない帰るか」
5時間かけて城を捜索した一行は魔王の存在を確認できないままダークエルフの村、ダークハイト村へ帰還することにした。
――――
ダークハイト村へ帰還した彼らがそこで見たものは想定外の光景だった。無残に破壊しつくされた村。力なく横たわるダークエルフら。そして魔王の配下と思われるモンスター達の死骸。
明らかに何者かに襲われた後だった。
そこにエルムの死体は見当たらず、ダークエルフの死体の総数も100人分には満たない。大雑把に数えてみたが、70程度だろうか。
「何人か逃げ出したのかもな」
「恐らくな」
「死体からはぎ取るってもの気が引けるけど、貸した武器防具は回収しておかないとまずいだろうな」
4人は無言で装備の回収を行った。
「ダークエルフに内通者がいたってところかな」
「ああ、タイミング良すぎるしな。魔王討伐の準備をしてて俺達がいなくなった途端の襲撃っぽいしな」
「ちょっと舐められすぎだな」
「ああ」
「本気で頭に来た」
「全力で潰すか」
「でも俺達じゃ力不足じゃないか?」
「あれ、使うか」
聖騎士のシラゴウが切り出す。
「ちょっとチートっぽいから使うつもりなかったんだが、お前らも持ってるだろ? モンスター召喚のクリスタル。俺は500個くらいあるぞ」
「俺も最近使ってなかったけど数十個は残ってる。けどあれ弱すぎないか?」
「今ならそんなことないだろ、確かLVで10〜50位のが召喚できるはずだ」
『モンスター召喚クリスタル』。地面に叩きつけて割ることでランダムにモンスターを召喚するクリスタルだ。どんなモンスターを召喚できるかは完全に運まかせだが、稀にLV50のモンスターも召喚される。召喚されたモンスターは勝手に行動し、勝手に攻撃を仕掛けるためモンスター狩りには余り役に立たないので完全にお遊びアイテムと化している。
狭い部屋にモンスターを大量に詰めてみたり、ふざけてPVP(プレイヤー対プレイヤー戦)で戦う際に相手の行動の邪魔をするために大量召喚してみたりなど、遊ぶには1度に大量召喚する事が多いためにたくさん持っていたりする。
今回の場合、『透明化の外套:インビジビリティローブ』と『モンスター召喚クリスタル』の組み合わせで面白いことができるかもしれない。
「あと、あれも使うか」
そういって剣士のライオットが取り出したのが、レーザーソード。壁を切ることのできる剣という設定だが一時的なもので、切った壁は一定時間後に元に戻る。人が通れるほどの大きさは切れないことになっているので、壁の向こうを物理的に目で確認したい時などに使う。ちなみにモンスターへの攻撃力は皆無である。
「じゃあ魔王城モンスター部屋作成計画を立てようか」




