仲間
「やあ、ユウ」
眼前にユウの同僚である『紋別』、『シラゴウ』、『ライオット』が何の脈絡もなく突然現れる。
「お前に手紙書いてたら、お前が位置情報をマークしたから『天使の翼:エンジェルズウィング』の方が早いと思って飛んできたよ」
手紙というのは恐らく『通信スクロール』のことだろう。スクロールに文字を書いてアイテムを使用すると、そのスクロールごと対象のアイテムボックスへ送ることができる。
「みんなぁ、あ、そうか俺のマークはパーティで共通なのか」
普段1人プレイが多いユウはパーティを組んでいる間の自分のマーク、位置情報の記録がパーティに共有されることが頭から抜けていた。
「この方々はもしかしてあなたと一緒に捕らえられていたというお仲間の方々ですか?」
突然の来訪者にもエルムは動揺を見せず静かに尋ねる。
「ええ、突然もうしわけありません。私達も仲間であるユウが突然消えてしまって探していました。彼女は誰かな? ユウ、状況を説明してもらえるかな?」
リーダーである紋別が話すとユウがここまでの経緯、そしてエルムとの会話の内容を説明する。
「そうでしたかエルム殿。ユウを助けていただき誠にありがとうございました」
紋別がエルムに深く頭を下げると、シラゴウ、ライオットも慌てて真似をして頭を下げる。
「いえ、とんでもございません。それよりあなた方は城の牢からここへ転送してきたとでもおっしゃるのでしょうか?」
「ええ、まさしくそうですね」
「と、なるとあなた方は簡単に牢から抜け出すだけの力を持っているということですね。つまり私達がユウさんを助けるまでもなかったと」
「いえ、ところがそうでも無いんです。あなた方がユウを外に連れ出してくれたおかげで私達もユウの元へ転送する手段が使えるようになったのですから。つまりあなた方がユウを外に出してくれたおかげで私達までもが助かったのです。だから本当に感謝をしております」
「そうなんですよ。エルムさんは僕達全員を救ってくれたようなものなのです」
ユウはエルム達の働きを強調するように付け加える。
「そうでしたか。お役に立てたのでしたら幸いです。しかしあなた方が脱走したと知ったら彼らはどうするでしょうか……私達のことは気づかれていないとは思うのですが」
「そうだな。こっちから乗り込んでいって魔王とやらを退治するか」
聖騎士のシラゴウが口を開く。
「あなた方はそれだけの力をお持ちということなのでしょうか?」
エルムが尋ねてくる。
「どうでしょうか。魔王の攻撃の盾くらいにはなるんじゃないかな?」
そう話す紋別の発言を聞いてユウはさっき考えていた作戦をみんなに話した。
――――
「確かに魔王の動きを抑えこみさえできれば後は大量のダークエルフ動員で倒せなくもなさそうだよな。ラフィアス・オンラインの感じであれば時間さえかければ少しずつHPを削る作戦が取れるな」
「問題は魔王の特殊能力ですね。もし広範囲に発動する魔法でもあると一気にダークエルフ全滅もありえますよ」
「確かに魔王ならそれくらいできるだろうな。ちょっと今はまだ戦うのは危険そうだ」
「私はどう考えても無茶だとしか思えません」
エルムが口を挟む。
そのエルムの回答を聞いているのか聞いていないのか分からないまま4人は会話を続けてしまう。
「軍隊を作るってのは悪い考えじゃないと思うぞ。俺達のアイテムを使ったらかなりの強化ができそうだしな。軍隊で魔王を攻め落とす。面白いのかな?」
「うーんどうだろうね」
「まあ魔王の強さ次第だね」
「やっぱり大事なのは面白いか面白く無いかそこなのか?」
「そこでしょ。絶対」
急に魔王討伐会議が始まってしまった。
「とりあえず城に偵察にでも行くか。アイテムですぐ戻れるし」
「誰かあの城の城門マークした奴っているか?」
「俺がしといたぞ」
「お、さすがリーダー」
「じゃあいつでも牢から出れたんじゃん」
「それにしても戦わないと相手も強さがわからないのは不便すぎる」
「ところで偵察に行ったとして逃げ帰る時に『天使の翼:エンジェルズウィング』が使えなかったらどうするんだ?」
「牢の中は使えたから大丈夫じゃないか?」
「楽観的だな。使える保証ってないぞ」
「ラフィアス・オンラインなら、使えないのはボス部屋くらいだっけ?」
「それ以外にも使えない特殊な部屋ってのがあるけど一部だけだな」
もうみんなすっかり魔王を倒す気でいる。
「あと出立の前にここのダークエルフさん達の戦闘力を知りたいな」
軽量装備の剣士であるライオットが言う。
「方法はあるぜ」
聖騎士のシラゴウがそれに答える。
「俺達の持っている武器のうち高レベルでないと装備できない特殊武器があるだろ、あと一部のレベル制限のかかった武器、それらを装備できるかどうかで判断できると思うぜ」
「なるほど。そのレベル制限がこの世界の住人にも有効だったらだけどな」
「まあ試させてもらおうよ」
――――
そこでエルムに頼んでこの村にいるダークエルフの協力をお願いした。エルムは何をするのかよくわかって無い風だったが快く協力をしてくれた。そしてこの村で最も強いという1人のダークエルフを連れてきてくれた。彼に頼んでユウの持っていた特殊装備を装備してもらう。すると。
「うお!」
と一言だけ言うと彼は剣をその場に落としてしまう。
剣を持つことはできたのだが、剣を振ろうとすると手に強い電流のような痺れを感じて持っていられないのだという。
(これでほぼ確定か)
4人は思った。
次に低レベルでも装備できるがレベル制限のある武器を幾つか持ってもらった。次々に武器を変えて試したその結果このダークエルフはLV18前後ではないかと推測することができた。これは予想より高かったが、エルムにもお願いしたところおよそLV16前後、他のダークエルフ数人に頼んだところやはり予想に近いLV15前後が平均といったところだった。
各自のLVが数値化されたのは大きな収穫だ。次にレベル制限はないがそれほど強くない通常武器を装備してもらった。すると自分が強くなった感覚があるという。それも驚異的な水準だということだ。圧倒的な力が体のうちから溢れてくるのを感じるそうだ。
実際戦闘に使ってみたわけではないが、ダークエルフ達が模擬戦を行ったところ、これらの武器により確実に戦闘力が高くなったのはわかるそうだ。ただこの戦闘力の増加は感覚的なものでしかなく、武器の攻撃力の数値そのものと判断して良いのかはわからない。
特に目覚ましい効果を発揮したのが威力と命中率を魔法で高めたロングボウの類だった。遠方の小さい的を狙った矢の走射では100mくらいの距離でも命中率がほぼ100%に近いものになった。この武器を使う前は10%程度の命中率であったことを考えると効果は著しいものだといえる。
彼らダークエルフの村の者達にとって、これら神がかり的な装備を持つ4人は尊敬に値する存在だった。彼らに試してもらったそれらの武器、防具、アイテム類によってダークエルフらの信頼が得られる結果となった。エルムはいったいそれらのアイテムをどこから取り出したのか不思議がってはいたが。
さてこれから魔王リュクンヘイムのいる城へ偵察に乗り込むのだが、こちらには秘密兵器がある。通称透明マント、『透明化の外套:インビジビリティローブ』だ。
超レアアイテムであるこのアイテムを貸し出すのは流石にためらわれるので、ダークエルフの村の住民には貸し与えた武器に慣れるよう訓練してもらって、その間に開発室の4人だけで魔王の城へと偵察のために乗り込むことにした。




