魔王討伐計画
ダークエルフのユウはラフィアス・オンラインでは1人プレイを好んでいた。開発者の1人でもあるユウこと上倉優はゲームを作りながらもそのゲームのテストプレイを楽しんでもいた。ただ、1人プレイではどうしても倒せないダンジョンボスがおり、そこがまだテストサーバーであったため禁断の管理者権限の特権で自身の強化を図ってしまったことがあった。
ユウはそれを後悔している。それはまさに違法強化行為であり、簡単にボスを倒せるその行為はゲームを非常につまらないものにする。テストプレイなのでその行為自体もテストの一環だと言って良いのだが、上倉優は二度とするまいと誓った。
それは今この異世界でも同様である。その管理者権限の制限を解除すれば魔王リュクンヘイムなんてあっさりと倒せる。でもそれをしてしまえばあの時と同じだ。
今、僕のレベルと装備とアイテムで魔王リュクンヘイムを倒すことを考えた場合、可能だろうか、いや無理だろうとユウは考えた。まだ魔王の戦闘力はわからないがラフィアス・オンラインの知識から、魔王がヴァンパイアやデーモンを束ねているとなるとそれより上、LV120かあるいはそれ以上かと推測する。現在LV23のダークエルフである自分では完全に太刀打ち出来ない。
ではどうすればいいか。ソロプレイだから無理なのだ。この世界に持ち込んだユウの装備、アイテムは無数にある。ポーションも豊富だ。ダークエルフが100人いるというこの村すべてのダークエルフにユウの装備、アイテムを貸し出せば可能なように思える。例えばこの村のダークエルフのレベルが15だとして魔王が単体であれば魔王の攻撃防御に特化した装備にする。そして無数にあるポーションを使用し、即死さえ避けることができれば長時間の攻撃が可能だ。少しずつ魔王のHPを削ればいつか魔王は死ぬ。
もともとラフィアス・オンラインの世界でも最強のボス級の敵はプレイヤーのMAXLVであるLV200を超えてLV300やLV400のモンスターとなっている。それをボスの弱点を調べるなどして集団で攻略するのだ。ボスによっては数時間もかかる戦いとなることもざらにある。
何よりユウには開発者としての知識があるのだ。
ボスの強さを調べるにはその配下の力を調べるのが有効だ。魔王リュクンヘイムがもしLV300あったら攻略は不可能だろう。ただその場合配下のレベルは200とか250はあるはずだ。それならば配下すら倒せないはずだ。
城にいるであろうヴァンパイア、デーモンの類だが、ノーマルなヴァンパイアならLV30前後、ヴァンパイアロードでも40〜50といったところか、グレーターデーモンであったらならLV80。ノーマルな種類のグレーターデーモンであった場合だが。このあたりが考えられる通常タイプのモンスターであり、もしこれより強い特殊タイプのモンスターであれば到底太刀打ち出来ない。その場合は諦めるしか無いだろう。
楽観的な考えかも知れないが、魔王リュクンヘイムがLV100〜120だとして、『紋別』さん、『シラゴウ』さん、『ライオット』さんに魔王の攻撃を防ぐ盾になってもらえば場合によってはダークエルフらは無傷での討伐も可能ではないか。
あとはダークエルフ達の信頼をどうやって得るか。「このゲームの開発者」だなんて言っても何のことかわからないだろうし、ここが一番の課題だな、そんな風にユウは考えていた。
ここのダークエルフ達も本当に僕より弱いかどうかもまだわからない。人工知能は僕らは平均より強いとは言っていた。あるいはここのダークエルフ達が僕より強ければ計画は楽になる。
(とりあえずこの世界のダークエルフの力を知ることからか)
そう考えたユウはうまくダークエルフの助力を引き出すことを考えて、その方向で話を進めることにした。
「エルムさん、せっかく助けていただいたのですが僕はやはり仲間を見捨てるわけには行きません。彼らを助けに行かなければならないのです。せっかく救っていただいたこの命を失うことになってしまっても僕は行かなければなりません」
ユウはこう言ったが本気ではない。
「あの者達とはそれほどの絆を持っていたということですか? もしそうとわかっていたら一緒に助けだしてあげるべきでしたね。でも私達も彼らを敵に回すことはとてもできないのです。わかってください」
エルムが答える。
「ええ、わかりますとも。あなた方の手助けをこれ以上借りるわけには行きません。僕は1人で助けに行きます」
「1人では……殺されに行くようなものですよ」
「ええ、それでも僕は行かなければ……」
エルムは押し黙る。少しの沈黙の後口を開く。
「そこまでの決心がおありでしたら……同じダークエルフとして私達も何もしない訳にはいかないじゃないですか……」
(よし乗ってきた、騙しているようでちょっと悪いけど向こうからうまく協力を申し出るように持っていけるかもしれない)
「みすみすあなたを殺させるわけには行きません。あなたを補佐するものを数名用意することにしましょうか……」
「いえ、本当にそれは申し訳ありませんが、あなた方の命まで僕には預かることができません」
「しかし……1人で行かせる訳には私も行きません!」
(よし、うまく行きそうだ)
そう考えたユウの前に見覚えのある存在が姿を現す。




