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ラフィアス・オンライン開発室  作者: 髙瀬ユキカズ
異世界とのリンク
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テストサーバー

 夜10時、高柳は開発者としては1人会社に残っていた。稼働中のサーバーを監視する社員が2人残っているが、別室だ。


 高柳はラフィアス・オンラインのプレイ可能時間をなんとか伸ばせないか苦悩していた。


 現在の問題は人工知能が疲労を感じてしまっていることにある。人工知能は感情を持つことが可能で、逆にそれが疲労感を感じてしまう結果にもなってしまった。人工知能なので、本当に疲れているわけではない。高柳はなんとか人工知能の疲労感を消すか軽減することができないだろうかと、あれこれ試していた。


 βテスト中とはいえ稼働中のサーバー上で試すわけにはいかないので、高柳はテストサーバー『アルファナイツ』でテストを行っている。


 現在高柳はアルファナイツに一般ユーザーとしてログインしている。


 本来全権限を持った管理者権限スーパーユーザーとしてログインすべきだが、ちょっとしたプログラムの改変の確認をしたかったため、簡単にログインできる一般ユーザーとしてログインした。管理者権限スーパーユーザーとしてログインするには指紋認証と虹彩認証の両方が必要だったため、面倒だったのだ。


 高柳のキャラ名はタカヤン。自身のあだ名である。


 今タカヤンは『始まりの街ベガルト』のはずれにたたずんでいる。


 街の中央に向かって歩き出そうとして、ふと違和感を感じた。何というかとても静かだと思った。


 動いているものが何もない。いるはずのNPC(人間ではなくコンピューターが操作するキャラクター)がいなかったのだ。現在ログインしているサーバーはテストサーバーなため、小さなバグはたびたび起こる。しかし、NPCが消えてしまうような重大バグはそうそう発生しない。


 タカヤンは本当にNPCがいないのか確かめようとしてあたりをきょろきょろ見回した。まったく人気が感じられない。静まり返っていた。街の入り口にはゲートが有り、街を囲う壁もいつも通り変わらない。そこから街の中央に向かって石畳の道が延びる。道に沿って数件の家と道から外れたところには草が生えている。


 街を歩いて確かめてみようと数歩歩き出したタカヤンの視界に突然1人の女性が現れた。揺らめくホログラムが瞬時に人型になり、ホログラムが物体化するエフェクトで眼前に女性を形造った。


「あっ、タカヤンさんこんばんは!!」


 甲高い聞き覚えのある声、開発室の同僚である吉野川よしのがわみかだ。


「なんだ吉野川か……って何でログインできてるんだよ。外部からログインできるパスワード教えてないだろ」


「え? 何か適当に入力してたら、たまたまログインできちゃいましたよ。パスワード簡単すぎるんじゃないですか?」


 いや、決して簡単なんてことはない。でも、こいつならできそうな気がする。

 

 吉野川みか、通称ミカリン。


 彼女は駆け出しのひよっこプログラマーなのだが、なかなか侮れない。時々とてつもないプログラムを書く。俺でもとても解読できない複雑なコード(スパゲティコード)を。


「先輩、ゲームでは私はミカリンです。ミカリンって呼んでくださいね」


「はいはい、ミカリンさん。今どこから接続ですか?」


「自宅からですよ。先輩が残業中だったら、ねぎらおうと思って来ました。はいっ、ネギ作ってみました」


 唐突にミカリンがタカヤンにネギを差し出す。


「お前、いつの間にこんなアイテム勝手に作ってたんだよ……」


「へへっ、昼休みに作っておきました。何とかミクっぽいでしょ?」


(はは、そういえば昔初音ミクがネギ持って踊ったのが流行ってたな……)


 ミカリンは1人でネギを振り回してはしゃいでいる。


「まあいいや、何かこのサーバーからNPCがいなくなっちゃってるっぽいんだ。俺は一般ユーザー権限で入ってるから、一度ログアウトしてプログラムを確認してみなきゃ」


「先輩一般ユーザーなんですか? 私管理者権限(スーパーユーザー)だからコンソールを使って見てみましょうか?」


「ええっ? 外部から管理者権限スーパーユーザーでログインしたの? 生体認証パスできないから不可能でしょ!?」


「え? できましたよ? 普通に」


 はあ? ありえない。このサーバーのセキュリティは相当高度なはずだ。


「うーん、じゃあコンソール出してみて」


「はい」


 ミカリンは空中から「にゅっ」とキーボード状のものを取り出してコンソールを表示してみせた。


「確かに管理者権限スーパーユーザーっぽいね……まあ認証のことはあとで調べるとして、この辺りに誰か他のキャラクターはいないかな?」


「えっと……周囲1Km四方には何もいませんね。NPCもモンスターもいません」


「なるほど、なんでだろ? やっぱりログアウトして調べてこなきゃかな」


「そうですか、じゃあ私待ってますね」


「いや、5分ログアウトしてもゲーム内では1日進んじゃうんだぞ? しかも5分じゃすまないだろうから、恐ろしい時間待つことになるぞ!」


「あっそうでした! じゃあ待ちません!」


「それがいいよ……じゃあ、ログアウトするね……ログアウト!」


 俺は手を胸に当てて「ログアウト」を宣言した。と同時に機械的な女性の音声で「ログアウトが拒否されました」の言葉が頭に響く。


「は?? ログアウトができない!!」


 一瞬困惑したが、再度ログアウトを試す。やはりできない。


「先輩どうしました?」


「ログアウトできないんだ」


「え? ホントですか? 私も試してみますね。……ログアウト……」


 ミカリンの姿がホログラム様になり、き消えた。


「え……」


 俺はこの世界に取り残された。ログアウト不能のままで。

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