未知の世界
ラフィアス・オンライン開発室のメンバーは4人ずつ3グループに別れて、異世界へと直結してしまったテストサーバーにログインしている。決して異世界に迷い込んだとかではなく皆が自らの意志でこの世界へ来たのだ。3つのグループの内の1つ、男性4人で構成されたこのグループはこの世界のかなり西方に位置する集落の近くに出現していた。
紋別文康:重戦士LV20
上倉優:ダークエルフLV23
白岩剛毅:聖騎士LV25
三村友康:剣士LV26
の4人で構成されるグループだ。くじ引きで決めたとはいえ近接物理攻撃中心の、ものすごくバランスの悪いパーティであることは間違いがない。
「高柳さんのところに女性3人、藤沢のところに女性2人、それで俺達が女性1……じゃなくてゼロか、不公平だけどまあ男だけの方が気楽でいいか」
三村友康が上倉優をちらりと見て言う。
「今僕のこと見ませんでしたか?」
ダークエルフである上倉優がぼやく。ダークエルフである彼は銀色の短い髪で浅黒い顔に鋭く尖った耳、刺繍が施された高級感のある黒い服をまとっている。当然男性なので露出はほとんどないが女性のダークエルフの装備を纏っていたら間違いなく男性とは判断されないだろう。
彼は男性ながら美形の少し童顔でかわいらしい顔立ちをしている。それをわかっている彼は極力男性であることを強調するような鋭く張り出した肩当てや膝当てを備えた、少し動きにくいのだが、装備を身に纏うように意識している。
「でもまあ普段から俺たち男同士でばかりパーティ組んでますし、いいんじゃないですか? いつもの事ですよ」
白岩剛毅が口を開く。聖騎士である彼は白銀の装備で身を固め、フルフェイスのヘルメットからは彼の顔がまったく見えていない。美術品かと見紛うその装備は国王のそばにでも仕えているかのような気品すら漂っている。本来なら装備しているはずのロングソードやタワーシールドは今はアイテムボックスにしまっていて身につけてはいない。
「そうですね、いつもの事です。せっかくですし楽しんでいきましょうよ。ところでリーダーは三村さんにお願いしたいのですがどうでしょうか?」
重戦士である紋別文康が発言する。紋別の装備はかなり重厚だ。装備だけで300Kgはあるんじゃないかというくらい分厚く黒い金属の鎧を全身に纏っている。戦闘時ともなれば振り回すだけで一苦労しそうな斧やメイスをぶんぶんと振り回す。
それとは対象的な非常に軽量な装備で身を固めている光村が答えた。
「いやいや、俺無理ですって。この中では最年長だけどそういうのやったことないから」
「やはりここは紋別さんじゃないでしょうか?」
「そうそう、年齢より貫禄だって」
上倉と白岩が口を開く。
「なんか俺すぐ班長とかやらされるんですよね。えっと……じゃあ年齢の低い者から順に1週間ずつリーダー交代するってどうですか?」
「いいね、そうしようか」
「まあそれもいいですね」
「よし、それで決定、じゃあ紋別からな」
次々に口を開いて紋別の提案は簡単に受け入れられる。最初のリーダーは重戦士である紋別に決定した。
「では皆さんよろしくお願いします」
紋別が言うと最年長の三村が口を開く。
「あとこれからはタメ口でいかない? どうせ大した年齢差ないんだし」
「そうですね……じゃなくて、そうだね。気楽に行こうよ」
上倉優がそれに答える。
「リーダーはリーダーらしく偉そうに頼むぜ」
白岩剛毅が言う。
「わかりまし……わかった。ではみんなのキャラ名を教えてくれ。パーティ組むのが初めての奴もいるしな。俺は紋別、苗字そのままだ」
「僕はユウ。下の名前そのままだね」
「俺はシラゴウ。安易だけど苗字と名前から一文字ずつ取っただけだ」
「俺は……ライオット。俺だけ名前と何も関連がないな」
「じゃあ、リーダーまずはどこへ向かう?」
ダークエルフのユウが尋ねてくる。
「誰か地図を持ってる者はいないかな?」
「いや、あるはずないし」
「ラフィアス・オンラインの地図は役に立たないよな。こんな景色見たことないし」
「誰か地理を把握する魔法とか持ってないのか?」
まともに魔法を使えるのがダークエルフであるユウだけだが、バランスの悪いパーティであるこのグループでは地図を魔法で生成できる者はいない上、飛行などの魔法を使える者もいない。
「アイテムにも未知の地理を知る物ってのはなかったはずだしな。しょうがないみんな、足を使って探索をしよう。まずは街を探して地図を買う。森の中に街があるとは思えないし、まず向こうに見える高い山脈あれを右手に見るようにして草原を歩いて行こう。街さえ見つかればそこをマークしておけば後はアイテムで移動が自由にできるしな」




