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ラファイアス城内にて

 城に入った俺達4人はラファイアス王国の国王との謁見は許可されず、来賓の間にて待たされている。丁重にもてなされてはいるがやはりただの冒険者は国王の面前に出すわけにはいかないのかもしれない。今頃フールが国王に今回のデール討伐の一件を報告している頃だろう。

 

「それにしてもこの椅子座り心地いいねー」

「テーブルもすごい豪華」

「このお茶いい匂いー」


女性同士他愛もない話をしていて、俺は会話に入れないでいる。


 部屋は大きなテーブルの周りに20人分は座れる椅子があり、壁までの距離もとってある。広い部屋に俺達4人と入り口にはメイドが1人立っているだけだ。

 

「王様どんな人だろうねーかっこいいかな?」


 ノノミンが声のボリュームを下げて囁き、ミカリンが続く。


「王様見たかったねー、きっと服も豪華だよきっと」


 国民が聞いたら国王に敬意を払わない発言に眉をひそめるだろう。


「ふふふ、これ使っちゃいますか、私の秘密兵器」


 シガシガが入り口のメイドに聞こえないように声を潜め、こっそりとアイテムを取り出す。


「レアアイテムの希少水晶で作ったクリスタルモニターです!」


「さすがシガシガ、アイテムコレクターの名は伊達だてじゃないね!」


 ノノミンが感心する。


「でも城内が魔法による情報防壁がかけられている可能性があるぞ」


 俺が言う。


「ええ、でもこのアイテムは情報防壁を無視して使えるんですよ。レアアイテム使って作るだけあって効果はすごいですよ。欠点は……小さいし水晶の形に歪んで映ってしまうので見づらい!」


「いいよいいよ見てみようよ」

「早く早く」


 ノノミンとミカリンがうながす。


「はいはい、ちょっと待ってね。えっと、こうだったかな」


 シガシガがアイテムの効果を発動させると直径5cmほどの水晶玉の中に玉座の間と思われる部屋が水晶球に沿って歪んだ姿で映った。

 

「ちっさ!」

「しょうが無いじゃん。レアアイテム高いんだから! 大きいのなんか作れないよ!」


 ノノミンの文句にシガシガが言い返す。


 この大きさなら逆にメイドから見えなくていいかもな、などと考えながら俺も水晶球を覗き込む。国王と思わしき人物の前にフールが膝をつき顔を上げて何かを話している。後ろには廃墟でフールといっしょにいた配下の者達数人がひざまずいている。

 

「王様拡大して、王様」


 ノノミンが要求する。


「はいよー」


 シガシガが水晶球を操作すると国王の顔が大きく映る。


「お、かっこいいね、でも若すぎない?」

「20歳くらいかな?」

「背も高そうだね。それにしてもこのローブ高そう」


 女性達が口々に言う。俺はメイドに聞こえないかハラハラしながら聞いていたが、メイドまでは声が届いていないのか反応は無い。


 さすがに玉座の間の声までは聞くことができないのでフールと国王が何を話しているかはわからないが国王が近くの側近に声をかけフールに袋に入った何かを渡しているのが見えた。恐らく今回の報酬として金貨でも渡しているのではないだろうか。フールが側近からその袋を受け取ると再び膝をつき国王に頭を下げた。国王が何か一言言ったように見えたあとフールは立ち上がり一礼してきびすを返しフールの配下とともに玉座の間を出て行った。

 

「終わったみたいね。ここに戻ってくるかな?」

「どうだろうね、フールちゃんも偉くなっていろいろ大変そうだしね」

「私達に構う時間もなかなか取れないかもね」


 俺は何も言わずに3人の会話を聞いていた。30分位が経過しただろうか、「がちゃっ」とこの来賓の間のドアが開き、フールが1人で部屋に入ってきた。

 

「あ、フールちゃんおかえりー」


 俺は総魔術師長に「フールちゃん」で大丈夫かよ、と思ったがフールは気にする気配もなく応える。


「ミカリンさん、ノノミンさん、タカヤンさん、シガシガさんどうもお待たせいたしました」


 フールは左手にずっしりと重たそうな袋を手にしている。


「今回はあなた方にも非常にお世話になりました。私からあなたがたへお礼をしたいのですが……」


「ああそれなら平気だよ。私達も依頼主からちゃんと貰うことになってるから問題ないよ。お気遣いありがとう」


 ミカリンが答える。

 

「そうですか。ではせめて2年前のあの時の報酬くらいは受け取ってくれませんか?」


 フールは重たそうな袋をテーブルに置き、ごそごそと自分の懐を探る。


「少ないのですが、利子を含めて金貨5枚ずつ、あの時のアンデット討伐の報酬です」


 そう言ってフールは10枚の金貨をテーブルに置く。


「じゃあせっかくなので貰っておくね」


 ミカリンが金貨を手に取りその内5枚を俺に渡してくる。俺はうなずきながらそれを受け取る。俺達はラフィアス・オンライン本サーバーで所持している通貨と同じ額をそのままこの世界にも持ち込んでいる。それぞれ金貨にして数万枚にもなる。それに比べたらわずかな額ではあるがせっかくのフールの申し出を俺も断りたくはない。


「ミカリンさん、久しぶりにお会いできたのでお話したり、いろいろご案内したりしたいのですが、お時間は大丈夫でしょうか?」


「今回は大丈夫だよ。まったく予定がないからいくらでも居られるよ。あとよかったらもっと気楽に話さない?」


 にこっと笑ってフールが明るい声で返事をする。


「そうだね。よかった。私も総魔術師長なんてやりたくないんだよ。やだやだ」


 フールは椅子にどかっと座って突然子供っぽい口調で喋り出す。


「フールちゃんも大変だねー」

「もー大変。気楽に冒険でも出たいよー。久しぶりにフレイタムにも遊びに行きたいしね」


「そういえばラファイアス王国とフレイタム王国って仲がいいのかな?」


 俺がフールに問いかける。


「うん、ラファイアスのシルフィール3世様とフレイタム王国のネガル様はご兄妹だからね。ネガル様がシルフィール3世様の妹なんだ」


「へーそうなんだ」


「ネガル様の旦那だったガライアス国王は死んじゃってネガル様が今は女王としてフレイタムを統治してるんだよ」


 なるほど、ボロが出ないうちに早く周辺国家の情報を集めなきゃな。フール配下の魔術師には俺達がフレイタスから来たってことになってるけどその話はまだフールに伝わってないようだな。


「フレイタムってどの方角にあるの?」


 ミカリンがフールに尋ねる。


「もしかしてミカリンさん達この辺りのことをあまり知らないの? じゃあ私がいろいろ教えてあげるね」


 フールは俺達の知識の少なさにはあまり気に留めているようではなく、フールの方から周辺国家のこと、ラファイアス王国が抱えている問題、この国の武力や文化など気さくに教えてくれた。

 

 フールによるとフレイタム王国はラファイアス王国の真東に位置し、ラファイアスとほぼ同じ面積をもつ国家でラファイアスより魔法文化が進んでいるとのことだ。謙遜もあるかもしれないが、フールもフレイタムへ行くと中堅程度の魔術師だと言う。魔法だけではなく、剣術、弓術の研究も盛んで、高名な神官もおり、万が一フレイタムと戦争にでもなったら勝ち目はないそうだ。そのためフレイタム王国とは固い同盟を結んでいるとのことだ。

 

 ラファイアス王国の南東にはガイラス国という国が存在するようだか、アンデッドも出没する広大な湿地帯を挟んでおり、ほとんど交流がないそうでこの国の情報はあまり得られていないとのことだ。ラファイアス王国の西方には50kmほど離れてビグルム帝国という国があるそうだが、国としての体裁を保っているのかすら疑問で亜人が支配しているのではとの噂があり、昔は時々ラファイアス王国に様々なモンスターが侵攻してきたそうだ。今では2つの国の故郷付近に砦を築き、それからはモンスターの侵攻がピタリと止んだという。

 

 北方は完全に険しい山岳地帯となり、ドラゴンやエルフの住む高原があるとの噂があるが噂の域を出ていないそうだ。


 南方の山岳地帯はそれほど険しくなくフールも調査隊の一員として入ったことがあり、山奥へ進むと迷宮ダンジョンが存在し、フールは入ったことがないそうだが、地下3階層以上への探索では帰ってきた者がいないということだ。2階層までは探索しつくされ、すでにモンスターもいなく財宝も無いそうだ。3階層以降は危険だということで現在は迷宮の立ち入り自体が禁止されているとのことだ。

 

「そういえばさっきフレイタムに遊びに行きたいって言ってたけど、よく遊びに行ったりしてたの?」


 ミカリンがフールに聞いた。


「昔はね。お姉ちゃんがフレイタムに住んでるんだ」


「もしかしてそのお姉ちゃんもすごい魔法少女なの!?」


 ミカリンの期待を込めた高い声にフールは首をふる。


「ううん、お姉ちゃんは剣士なんだよ。そこらの兵士よりは強いけど、私の方がずっと強いの」


 鼻息荒くフールが答えた。


「へー、でもフレイタム王国に雇われてるんでしょ?」


「ううん、お姉ちゃんは冒険者でお金持ちになりたくて、たくさん仕事したいんだって。まだ私ほど稼げてないくせにさ」


 もしかして仲悪いのかな? でもよく遊びに行くって言ってたしな、と考えながら俺がフールに問いかける。


「フールもしかしてお姉ちゃんの事あまり好きじゃないの?」

「え、好きだけどお姉ちゃん私のことバカにするんだもん」


 フールは何かを思い出したようにぷんぷん膨れている。


「まあお姉ちゃんには魔法を教えてもらったしなーお姉ちゃんは昔天才魔術師とか言われてたんだよ。でも急に剣の学校へ行った後『私はお金持ちになるんだ!』とか言って冒険者になっちゃったんだ」


「剣の学校があるんだ」


「フレイタムには色々な学校があるんだよ。魔法学校もあるよ。ラファイアス王国でも学校を作ろうって話が出てるけど貴族たちが反対しているんだ。平民が力を持つのを嫌がってるってシルフィール3世様が仰ってたな……そうだ、みんなでフレイタムに遊びに行ってみない? あそこすごいんだよ。建物が大きくて立派で、女王様かわいくて。すごい武器とか防具とか宝石とかいろいろ売ってるし」


 すごい武器……ラファイアスよりそこで装備を揃えた方がいいかもな。

 

「そうだね、みんなでフレイタムに行ってみようか」


 俺の同意にミカリン、シガシガ、ノノミンの3人も同じ意見を示してくれる。


「じゃあ私の部下たちに国王様から頂いた金貨を渡してくるからちょっとここで待ってて」


 フールはそういうとテーブルの上のずっしりとした袋を手にとって部屋を飛び出して行った。15分位するとフールは戻ってきてこう言った。


「おまたせ! 裏庭から出発するね。ついてきて」


 早口でそう言うと彼女がすぐに部屋を出る。俺達はメイドの目つきがいつのまにか鋭いものに変わっていたことに誰も気がつかないまま慌ててフールのあとをついていった。


 

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