最強の魔法少女
「さて、ここまでは私の作戦通りに事が運んでいる」
「流石デール様でございます」
「あとから入ってきた4人の力は知れている。フールの攻撃であの4人が死ななかったのは疑問が残るが恐らくフールが手加減したのであろう。あの者達なぞはいてもいなくても同じミジンコどもだ。しかしフールの力の一旦は見ることができたぞ。フールが連れているゴミどもも何の力もない。しかもあんな華奢な女の一撃で気絶するなどフールも大したことがないな。魔力こそ強大だが物理防御は皆無に等しい。そのことが分かっただけでこの一件には大きな価値があった」
「私が出ればフールなぞ一捻りですね」
「お前が出るまでもないぞ、メイジデーモン。私の配下を使うまでもなく奴らは生き埋めだ」
「畏まりました。では早速準備を致します」
――――
「フールちゃん、フールちゃんて今何歳?」
「15歳です」
ミカリンの質問にフールが答える。あれから約2年も経ってるのか。そういえばフールも心なしか背が高くなっている気がするな、でも2年にしてはあまり成長していないななどと考えているとミカリンがフールに話しかける。
「そうかー2年位会ってないってことかな」
「そうですよ。2年半くらいでしょうか」
フールが懐かしげにミカリンと話している。俺達とフールは1日いや、数時間しかいっしょにいなかったのにも関わらずフールは懐かしんでくれる。
「そうだミカリンさん達にはあの時の報酬を渡していませんでしたね。それに……」
フールが何かを言いたげに目を伏せる。
「それに……何かな? フールちゃん」
「それに、ミカリンさんにはこ、これを返さなければなりません」
フールはもの悲しげな声で話したあと、そろそろと右手をミカリンに差し出した。
「あ、これはフールちゃんにあげた指輪だね。これはあげたんだよ」
「いえ、ミ、ミカリンさんはこの指輪の力を知らないんです!」
フールが声を荒げる。
「知ってるよー。魔力増強の指輪でしょ? 私たくさん持ってるから大丈夫だよ、ほら」
言いながらミカリンはフールと同じ指輪を一つ取り出してフールの目の前に差し出す。
それを見て目を丸くするフール。
「じゃ、じゃあ何でミカリンさんは、そ、それを身につけないんですか?」
おどおどしたようにフールは問いかける。
「ああ私は指輪は余り好きじゃないんだ。私はネックレス派だよ」
と言いながらミカリンが自分が身に着けているネックレスをフールに見えるように装着したまま取り出す。そこにはフールが着けている指輪と同じような赤い石が小さいながら30個ほど簡易な装飾とともにチェーンに沿って埋め込まれている。
「ミ、ミカリンさん。そ、それ……見せてもらうわけにはいかないかな?」
「いいよー、はい」
ミカリンは軽く答えて自分が身に着けているネックレスを外してフールに差し出した。恐る恐る受け取ったフールはそれを身に着け驚愕の表情を見せる。
(こ、これは指輪の比じゃない。な、なんなのこれ?)
「ミ、ミカリンさん。こ、これすごい……」
フールが絞りだすように小さな声を出す。
「ほんと? もし気に入ったのならあげるよ! 再会記念だよ!」
「え、でも……」
フールはネックレスを手放したくない気持ちを押し殺し断ろうとした。
「あ、大丈夫だよ同じのもう一つあるし」
そういってフールに渡したものと同じネックレスをミカリンは取り出して身に着ける。
「え、ミ、ミカリンさん、あなたっていったい……」
その声ににこっと笑顔で返すミカリン。
「お揃いだね♪」
明るく声をかけるミカリンに、「う、うん」と自分も明るい声を無理して出そうとしているフールを俺は横で微笑ましく見ていた。
――この日フールは強大な魔力を持つ魔導士デール・ラビアスをも遥かに超える力を手にした。
「じゃあ、そろそろデールとやらを探しますか!」
ノノミンが声を上げ、その声にフールが答える。
「はい、でもデールがどこに潜んでいるのかはまだわかっていません。ここの探索にはまだ時間がかかりそうです」
「うん、私に任せてよ! アサシンだってみんなにバレちゃったし、もうスキルの出し惜しみは終わりだよ!」
アサシンという言葉にフールの連れの一団が動揺の声を上げた。
この世界ではアサシンは相当恐れられているのだろうかと考えていると、ノノミンはスキルを発動させたらしく、
「じゃあ、フールちゃん達私についてきてください。あ、フールちゃんは出てくる敵の掃討をお願いしていいかな?」
フールの返事を待たずにフールと腕を組み、フールを引っ張って何もない壁に向かって突然歩き出すノノミン。
「え、え、」フールが戸惑う。
「あ、私ノノミンね。よろしく」
明るく言うノノミンにフールが答える。
「ノ、ノノミンさんですね。よ、よろしくおねがい……」
フールの答えを待たずノノミンは何もない壁の石をぐいっと押しこむ。ただの石と思われたそれはノノミンが手を離したあとも奥へと動きを止めない。ががががが、という激しい音とともに右手前方の石壁の一部がせり上がり、さらに地下へと続く階段が姿を現す。
「私のスキルだよ。隠し扉とか通路を発見できるんだ♪ さ、フールちゃんいくよ」
ノノミンがフールの腕を引っ張り地下へと降りていく。
「あーん私の魔法少女ちゃんなんだよ。待ってよ」
と言いながらミカリンが後ろを続く。
俺とシガシガは目を合わせて、しょうがないなという顔をお互い浮かべたあと2人について行く。遅れてフールの配下と思われる者たちがあとを追う。
ノノミンはフールと腕を組みながら何も迷いがなくどんどん進んで行く。途中現れるアンデッドはフールが魔法で掃討しながら俺たちはここが最終目的地ではないかと思われる豪華な部屋へ入る。
「フール・ライアスとゴミどもよく来たな。歓迎しよう」
低い声が部屋に響き渡る。
恐らくこいつがデールとかいう奴なんだろう。いかにも悪の魔導士ぽい格好をしているのですぐわかる。周りには配下のモンスターを侍らせ悪の統領を気取っているかのようだ。
「メイジデーモンよ。作戦を開始せよ」
「メ、メイジデーモンだと! くっ」
フールがノノミンと腕を組んだまま声を荒げる。顔を引きつらせたフールとニコニコ笑顔を浮かべたままのノノミンの絵面はなんかシュールだった。
恐らくはこいつがメイジデーモンだと思われるモンスターが動く。メイジデーモンは何らかの魔法を発動させようとしていた。
「さあ、やれ、メイジデーモン」
デールの声に答えたメイジデーモンの言葉はデールの予想を裏切るものだった。
「糞デールが……このような化物を私の前に連れて来おって」
メイジデーモンの魔法が発動を終えたと同時にその姿が掻き消える。
「に、逃げたぞ!」フールが叫ぶ。
「……は?」
デールの間の抜けた声が響く。
ああ、メイジデーモンはフールの能力を看破して逃げたのかもな、そんな能力があったなと俺は考えていた。あのネックレスでたぶんフールはさっきアンデッドの集団を掃討した時の2倍は魔力が増強してるだろうしな。
ノノミンの腕を振り払い本気を出したフールの前にデールはもはや敵ではなかった。1分とかからないうちにデールを含むその場にいるモンスターをフール1人で全て掃討してしまった。
そして俺達とフールの一団は共に今回の一件の報告のためにラファイアス王国の首都へと向かうことにした。




