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地下迷宮

「うーん完全に道に迷った」


「地図でも書いておけばよかったですね」


 俺のぼやきにノノミンが答えてくれる。やっと冒険者パーティっぽくなってきたが相変わらず詰めの甘い俺達は適当にモンスターを倒しながら進んできたため道に迷ってしまった。森のように思われた木々の中を歩いているとすぐ壁にぶち当たり、そこにあった扉を開けて中に入り、それを繰り返しているうちに迷宮の中に迷い込んでしまったのだ。


「まあリーダーである俺の失態だな。すまん」


 俺はみんなに謝ったが、シガシガが笑いながら冗談で返す。


「え、タカヤンさんリーダーだったんですか?」


「ま、まあ確かにちゃんとパーティのリーダー決めてなかったけど一応年長者だし」


「あ、歳の事いいますか……一応私のほうが歳上なんですけどね」


 シガシガがほっぺをぷくっと膨らませて拗ねてみせる。実際の所俺の1つ年上の32歳なのだが、ほっぺを膨らませた彼女はどう見ても10代後半か下手したら中学生くらいにしか見えないほど童顔だ。


「ちょっと待て、不味いな……」


 俺は声を潜めて3人に声をかける。


「あれヴァンパイア・ロードですよね」


 ミカリンが答える。今俺たちがいる場所は狭い通路がまっすぐ伸びており、遠くに微かだがヴァンパイアとおぼしき存在が数体待ち構えるようにして立っている。


「よく見えるなミカリン、やばい俺あれ倒せる武器持ってないや」


 正確に言うとあるにはあるのだが、武器を扱える技術LV(レベル)が高すぎて俺の今のレベルでは装備ができないのだ。高いレベルが当たり前になりすぎて特殊武器ばかりをストックしていて、低レベル用の武器なんてアイテム倉庫に入れてなかったのだ。


「ヘタレ戦士さんですねーじゃあ逃げましょうよ」


 ノノミンが答える。


「私達もレベルが低すぎて太刀打ちできそうにないですしね」

「後ろへ逃げるか、すぐ右前にある扉……」


 シガシガとミカリンが声を出すと同時に俺たちの後方で激しい音とともに天井が崩れ落ちた。その音を聞いて慌ててミカリンが言った。


「右前方の扉しかないです! 入ったらすぐノノミンさんに扉をロックしてもらいましょう!」


「よし、そうしよう罠だったらその時はその時だ」


 俺たちは一斉に扉に向かって駆け出す。扉はすぐ近くにあり、ヴァンパイアたちが俺たちを襲ってくるより早く扉に入れるのは間違いがない。


 俺は勢い良く扉を開け、その部屋に飛び込んだ。続いてミカリン、シガシガ、ノノミンの順に部屋に飛び込み、すかさずノノミンが『扉封鎖:アンチオープン』の魔法を発動させる。この部屋に入った俺はすぐ違和感を感じた。入ってきた扉以外何もないのだ。また同じ扉から外に出る以外に選択肢がない。すぐ「しまった」と思ったが3人に声をかける間も無く別の違和感に襲われる。あるはずの床が無かった。確かにさっきまでは足元にあった床が。


 誰かの「きゃっ」という小さな声が聞こえ5mか10mほど落下した感覚の後、足元に床の存在を感じた。他の3人を見ると何の不自由もなく見事なほど着地しており、転んだ女性は1人もいない。すばらしい身体能力だ。

 

「罠にかかちゃったな」


「そうですね」


「すいません。見抜けませんでした」


 ノノミンが皆に頭を下げて謝る。


「しょうがないよーあれは無理だって」


 シガシガがノノミンの頭を撫でて慰める。ノノミンも18歳だが子供に慰められているようにしか見えない。


「それにしても広い部屋だな。向こうがよく見えない」


 俺が喋ると同時にミカリンが叫ぶ。


「誰かいます!」


 ミカリンの声とほぼ同時に目の前の床からアンデッドの集団が湧き出てくる。俺達の後ろは壁で逃げ場がないため4人はほぼ同時に身構え、仲間を後ろに隠すように俺は1歩踏み出す。石の床がまるで泥で出来ているかのように柔らかくなり、床からアンデッドが湧いてくる。ゾンビ、グール、スケルトン、それらの集団に加え魔法が使えるほど知能が高いリッチまでが複数現れた。リッチは今の俺達にとっては強敵だ。が、出てきたアンデッドは俺達に目もくれず反対方向へと歩を進める。一瞬躊躇したが、下手に攻撃をして振り返られたら困る俺たちは攻撃をせず様子を見た。

 

『来たぞ! アンデッドの集団だ!』


『アンデッドを召喚しやがった』


『くそ、この数はきつすぎる。リッチもいやがるぞ』


 アンデッドの向こう側、暗くて見えないがアンデッドが襲おうとしている先から声が聞こえてくる。「これって俺たちが召喚したことになってないか……」俺がぼやくと同時に向こうから声が響く。


「皆さん落ち着いてください。私が対処します」


 聞き覚えのある可愛らしい声、忘れるはずがない、そうフール・ライアスだ、間違いがない。


「フー……」


 俺がアンデッドの先にいるであろうフールに声をかけようとすると同時にフールの魔法が発動した。


『超龍の爆炎:ドラゴニック・メガバースト』


 「ちょ、その魔法はやばいって」俺が言うとほぼ同時にミカリン、シガシガが自身の持つ最高の魔法防御壁を張る。だがフールの魔法に対しては防御魔法の効果はほとんどなく俺たちは全滅……するはずだったのだが、4つの「ぱりん!」という音とともに俺たちはHPの20%ほどを残し、かろうじて生き残っていた。『生命の宝石:ヴィクティムジェム』が砕けた音だった。これは死亡するほどのダメージを負った時に替わりに砕け散ってくれるアイテムで、念のため各自1個ずつ携帯することにした貴重なアイテムだった。


 フールの魔法の威力は強大だった。石の壁は大きくえぐられ、部屋が一回り大きくなるほど壁が削られた。アンデッドは姿形もなく、塵となって消え去ったがフールの魔法で何もかもが消え去るはずのその場所には俺たち4人が力なく横たわっていた。俺の鎧は無数のヒビが入り、ミカリン、シガシガ、ノノミンのローブ、神官服、レザーアーマーもボロボロだ。痛みは然程さほどでもないが、流石にすぐ立ち上がれないほどの衝撃があり、方向感覚がなくなってフールがどこにいるのか見失うほどだった。


「むう、この魔法で滅びないとは私に匹敵する強者と見た。かくなる上は……魔撃の……」


「ちょ、ちょ待って」


 俺は叫んだ。


「フールちゃんやり過ぎだって!」


 続けて、ミカリンが本気で叫ぶ。


「そ、その声は……あ、あ、もしかしてミカリン殿か!」


 やや低い声でフールが言った。


「そうだよフールちゃん久しぶり……」


 ミカリンがよろよろと立ち上がる。


「ミ、ミカリンさん……」


 フールが俺たちにゆっくりと近寄ってくる。フールの目は潤んでいるようにも見えた。


「ミ、ミカリンさんー会いたかったよー」


 急に子供っぽい甲高い声になったフールが俺たちに駆け寄ってくる。しかし俺達から数mの所でピタッと止まり、また口調を変えて低い声になる。


「ミ、ミカリンさんが悪の手下に成り下がるなんて……ミカリンさんといえどもこのフール、正義の鉄槌により滅ぼさなければなりません。ごめんね。ミカリンさん……精霊魔法、雷炎の輪舞曲:ライトニング・・・」


「ちょ、ちょと待って、誤解だって」


 ミカリンが慌てて否定する。


「何が誤解だ。今まさに貴様らはアンデッドを召喚し私達を襲おうとしたではないか。この大魔術師フール様の正義の裁きを受けよ」


 フールが右手の短い杖を上に掲げて今まさに魔法を発動させようとする。


 その時、


 「しょうがないな……」声と同時にフールが「がくっ」と膝を垂れる。フールを抱えるようにしてノノミンがそこにいた。


「気絶させただけだから大丈夫だよーー」


 ノノミンが俺たちとフールの仲間に向かって大きな声を上げる。


『上級回復:エクストラヒール』


 続けてシガシガが俺とミカリン、ノノミンに回復魔法をかけてくれた。


 「フ、フール様が……」「どうしよう、どうしよう」「よくもフール様を……」フールの仲間と思わしき集団が口々に声を上げるが襲ってこようとはしてこない。ノノミンを警戒しているようだ。


「ノノミンいったい何をしたんだ?」


 俺はノノミンに聞く。


「ん趣味で覚えたスキルだよ」


 ノノミンは軽く応える。


「アサシン(暗殺者)のね」


 シガシガがあっさり答えを言う。


「あーもうシガシガ、それナイショ設定なんだから!」


 ノノミンがぷんぷん起こっている。

 この辺で何となく想像はついていたが、ノノミンは薬師を偽装職とした暗殺を得意としたアサシンなのだろう。薬師を偽装職にするくらいだから毒殺なんかも得意なのかもしれない。


「まず彼らの誤解を解いておきましょう。それからフールちゃんを起こしたほうが良さそうね」


 ミカリンが提案して、俺達はフールの仲間と思われる集団にアンデッドは俺達が召喚したのではないことを説明した。半分は納得して半分は納得していない感じだったが、フールの身がこちらにある以上反撃するような素振りは誰も見せなかった。

 

 「ん……」フールが目を覚ます。「おお、フール様」「フール様」フールの仲間の集団がフールに声をかける。フールはキョロキョロと周りを見回し、自分の仲間と一緒にいる俺たちを目にし、首をかしげる。

 

 「久しぶり、フール」「フールちゃん久しぶり、いきなり強力な魔法ぶっ放すんだもんびっくりしちゃったよ」俺とミカリンはなるべく優しい声でフールに話しかける。

 

「どうやらこの者達、敵ではなかったようです」


 フールの仲間の1人がフールに説明してくれる。


「え?」

 フールが口を開く。


「完全に疑いが晴れたわけではございませんが」


 まだ疑われてるのか。まいったな、と俺は考えながらこう言った。


「いや誤解なんだって、俺たちはアンデッドなんて召喚できないんだよ」


 はっきりいって嘘だ。これより強いアンデッドを複数召喚できるアイテムを俺は隠し持っている。


「そうですか……う、うーん、でも私を殺す事ができたのにそれをしなかったって事は……本当なんでしょう。ミカリンさん……タカヤンさん……ごめんなさい」


 フールがゆっくりと起き上がり俺達にゆっくりと頭を下げる。


「ううん、仕方ないよ、アンデッド達がもしこっちに来たら私達が逆にあなた達を疑ったかもしれないもん」


「久々の再会がこんなことになっちゃって……」


 フールの眼が潤んでいる。


「あーんミカリンさん会いたかったよー」


 突然フールがミカリンに抱きついてきた。ミカリンも


「フールちゃん私も!」


 ミカリンの眼も潤んでいる。演技だとしたら主演女優賞ものだ。


「タカヤンさんもお会いできて嬉しいです」


 ミカリンのついでのようにも聞こえたが、俺も同じだとフールへ頷きを返す。


「ところでフール達はここへは何しに?」


 俺はフールに尋ねた。


「それはですね、」


 フールが俺の問いに答えてくれる。


「ここは邪悪なる魔導士と言われるデール・ラビアスのねぐらだと言われています。何度か王国を襲ってきたヴァンパイアの集団も彼の仕業ではないかと疑っています」


「フール様このような者達に国家機密を……」


 フールは片手を上げて配下の発言を遮る。


「まだ確証がないのですが、もしここがデールの塒であった場合、私達は彼を滅ぼし、ここを壊滅状態に追いやる必要があります。逆に聞きますがあなたがたはなぜここへ?」


 まさか遊びに来たなんて言えないし、どう言おうか迷っていたらミカリンが話しだした。


「私達も調査によりここが何らかの邪悪な存在が支配している場所だと確信しました。それがデールとやらの塒だなんて思いもしませんでしたが。今日はただ調査目的のために来ただけで深追いはするつもりはなかったんですが、実は罠にかかってしまって、下の階層に落とされてしまったんです」


 ミカリンの嘘の説明を完全に信じたのかフールは頷きながら返答する。


「そうだったのですか、私達と目的は似ているということですね。デールは私でも手こずるであろう相手です。ここには上級魔術師は私しかいません。ミカリンさんの助力を得られると本当に助かるのですがよかったらいっしょにデールを探してはいただけませんか?」


「もちろん! いっしょにデールを倒そう!」


 2人は手を取りにっこり笑って見つめ合った。眼を潤わせながら。


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