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4 私の家

「ここが、家?」


 流に連れてこられた先は病院の目の前だった。

 今まではリハビリとかで病院を出たことはなかったけど、まさか近くにこんな建物があるなんて。


「ああ。俺の――俺達の家だ」


「家って、これ完全に……」


 城だ。歴史の教科書に載っていそうな城だ。

 周りを見てみると、家というより屋敷と言った方が正しいだろう建物の数々。


「本当に流って何者なの……」


 聞いても答えてくれないことは分かっているので、呆れたよう視線を送ってから改めて外の景色を眺めてみる。

 こんなに和風な建物がたくさん建っているのに、病院だけがどこか異質な感じ。

 初めて見る風景に心を奪われていると、隣から声がかかった。


「ここの景色に見覚えは?」


 初めて病院の外に出たのだから思い出すことはないのか。

 そう聞いてきた流に私は首を横に振った。

 残念ながら見覚えはない。異様な景色に感動してしまったくらいだ。


「そうか」


 流に落胆した様子はない。

 ホッとしつつ歩き出した流を追う。

 が、


「ちょっと、お城はこっちだよ」


 お城と屋敷の間を歩いて行く流。てっきりお城に入るものだと思っていた私は突然の事に着いて行けなかったのだ。


「誰が城だと言った。そこはこの国の皇族が住む場所で、お前とは一切関係ない」


「なっ」


「それとも俺が大層な人間に見えたか? そりゃ光栄だ」


「なっ、なっ」


 フンと偉そうに鼻を鳴らしてくる流。スタスタと先に行ってしまう流は人を待つことを知らないらしい。


「何なのよ…」


 気づかうように私を見上げてくる白ちゃんの頭を撫でて流を追った。



   ***


 城を通り過ぎ、高級そうな屋敷の間を暫く歩くと一際大きな屋敷が見えてきた。


「あそこだ」


「あれ?」


 城が家だと勘違いした後だから、今度は間違えないように注意深く屋敷を観察する。良く見ると門のところに看板が立てかけてあった。そこにはこう書いてある。



   『陰陽師学校』



「全然家じゃないじゃない!」


「家みたいなものだ。全寮制だから実家がなくても大丈夫だしな」


 流は本当の家のように門をくぐってズカズカと敷地に入っていく。こんな場所で置いて行かれるのも嫌なので慌てて着いて行くものの、色々心配な事がある。


「だって学校ってことは生徒じゃなきゃダメなんじゃないの?」


「晃が手続きをしてくれたから、希望は今日からここの生徒だ」


 何という事だ。


「え、私記憶喪失なんだよ? 学校なんか通って大丈夫なの?」


「それも問題ない。この学校には理解者がいるからな。俺から話を通しておく」


 何を言っても聞いてくれなさそうだし、凄い勢いで歩いて行くからもう入り口は目の前だ。

 ガラリと開けて何の躊躇いもなく中に入る。

 今は学校の時間なのか人は疎らにしかいなかった。

 中は外観とは違い、バリアフリーがきちんと整備されエレベーターまであった。どう見ても一階建てだったのに、一体どんな造りをしているんだろう。


「ここは3階建てで、向かって右が女子、左が男子部屋。ロビーや食堂は共同で使っている」


 言われた通りに顔を動かしてみると、確かに左右にエレベーターと階段がある。


「これ、一体どんな造りになっているの?」


「今から学校で勉強すれば分かるだろ」


 これは教えてくれる気がなさそうだ。どうも流は人に説明するのが苦手らしく、病院にいるときから朱堂先生とか他の人に投げている節があった。誰もいなかったら説明してくれるかとも思ったけど、やっぱりダメらしい。


「俺も普段はここで勉強をしている」


「え?」


 でもちょっと落胆する気持ちも、流の言葉が掻き消してしまった。


「待って、勉強? 流が?」


「ああ」


 変な事でも言ったか、と首を傾げる流。


「変なって……流ってもう成人してるんじゃないの?」


 どう見ても学生には見えない。拾っただけの私の面倒を見てくれる経済力もそうだが、流の雰囲気も大人を思わせるものだ。


「失礼だな。俺はまだ16才だぞ」


「はっ!?」


 病院で目を覚ましてからこれが一番驚いたことかもしれない。流は心外そうな顔を隠しもせず私を見てくる。

 唖然として完全に動きを止めてしまった私を現実に引き戻したのは女の子の声だった。


「おい、道のど真ん中で立ち話などするな。迷惑だ」


 明らかに子供を思わせる甲高い声なのに、口調は男っぽい。違和感に後ろを向くと、そこには赤い眼鏡をかけてブレザーの制服を着た――小学生の女の子が立っていた。


「菊花、もう着いたのか」


 小学生に普通に話しかける流。その様子に彼女は苛立ったのか、私達を壁側に追いやった。


「私が来たらまずかったのか? お前が私を呼んだくせに」


「いや。俺が連絡を入れたのが遅かったから、単純に驚いただけだ」


「待って、ちょっと待ってって」


 何が何だかさっぱりだ。一体なんの話をしているんだ?

 というよりも取りあえず、


「流、この子を紹介してくれる?」


 私が彼女の目線に合わせてしゃがみ、頭を撫でようとするが、


「私は子供じゃない!」


 バシッと手が払われてしまった。


「私はこれで18才だ。そこにいる流よりも年上だ!」


「18!?」


 記憶喪失以前にここでは私の常識がまったく通用しないことがよく分かった。まるで違う世界から来てしまったみたいだ。


「……流から記憶喪失だと聞いていたが、反応を見る限り本当のようだな。話し方や必要最低限を忘れなかっただけでもましだと思おう」


 彼女は子供みたいな手を私に伸ばしてきた。ちらりと流を見ると微かに頷いている。

 私は恐る恐る彼女の手を取った。


「私は井上菊花。年齢など気にせず菊花と呼んでくれて構わない」


「希望です。苗字とか年齢とか分かんないんですけど……」


 よろしくお願いします、とは言えなかった。


「希望は俺と同じ16歳で、苗字は朱堂だ」


 流が私の知らないうちにプロフィールを追加したらしいく、言葉を遮ってきたからだ。


「朱堂……なるほど、彼女の設定はそういうことにしたわけだ」


「ああ。病弱で今まで学校に通えず、やっと過保護な兄の許可が下りてここに来た、晃の妹という設定だ」


「私が先生の妹!?」


 思わず叫んだ私に二人が諌めるような視線を送ってくる。確かに声は大きかったが、流はもっと私に説明をしてくれるべきだと全力で思った。


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