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二、主導権はどっちが?

 それから理也と陽奈子は恋人となり、週に三回は共に昼をとって一緒に帰宅し、二週間に一回デートをする。そんなきまりを作って実行していた。

「ひな、今日は先輩と?」

「うん。そう、ごめんね」

「気にしない、気にしない」

 突然降ってわいた、陽奈子の恋人宣言。友人たちは、最初こそ驚いたもののその相手があの、有名な奥佐と知り。二人が一緒にいるところを想像して、「お似合いだね~」と声をそろえて言った。

「それにしても羨ましいよね。あの、奥佐(おうさ)先輩と付き合えるなんて」

 そう口々に友人たちがきゃいきゃいと騒ぐのをしり目に、陽奈子は友人達が言うほど嬉しそうではなかった。


 友人たちと別れ、階段を上がり屋上の扉を開ければ、いつも通り既に理也が地べたに座って待っていた。

「先輩、お待たせしました」

 名前を呼んで駆け寄っても理也は振り向かない。屋上に吹く風もそんなに強くはないが、聞こえていない様だ。

「先輩?」

「……」

 真横に座って呼んでも、それででも振り向かない。さすがに聞こえていないということはないと思うが……。

 っと、陽奈子はある可能性に辿り着いた。

「り…理也、先輩」

「うん、いらっしゃい」

 名前で呼ぶと、やっと理也は振り返り笑顔を浮かべて返事をしてくれた。

「……名前で呼ばないと無視するって、本気だったんですね?」

「そりゃあもちろん。だって俺たちは恋人同士だよ?普通恋人なら相手のことは名前で呼ぶはずだろう?」

「そ、それは…そうかもしれませんけど……」

「よし、なら文句はないね?さ、早くご飯食べよう」

「はい……」

 横暴…いや、俺様と言った方が相応しい言い分だが。きっと恋人同士ならするだろう事だから否定も出来ない。

「お、今日は随分華やかだね。どうしたの?」

「あ、いえ。特には……。と、とりあえず食べてみてください!」

 目線を少し泳がせながらも、ぐいっとお弁当箱を差し出す陽奈子の様子に何かあるな、と思いつつも笑顔で受け取った。

「うん、じゃあいただきます」

 パクっと、とりあえずいつも必ずお弁当に入っている玉子焼きを頬張る。程よい塩加減で、いつも通り美味しい。

「うん。美味しいよ」

 素直にそう言えば、陽奈子は今までならハニカミながら「良かった」というのだが。今日はやけにくいついてくる。

「本当に美味しいですか?」

「いつも通り、ちゃんと美味しいよ」

 彼女が望む答えでもあり、自分の正直な感想を告げればやっと彼女は安心したように息をはいた。

「良かったぁ……」

「どうしたの?」

 あくまで爽やかな笑顔でそう聞くと、陽奈子は満面の笑みを浮かべて楽しそうに言う。

「全部食べてくれたら、教えてあげます」

「まあ、美味しいから食べるけど」

 陽奈子が何をたくらんでいるのかわからないけれど、とりあえず表だって害があるようなことはないようなので理也は彼女のお手製のお弁当を次々口にしていく。それを自分の分のお弁当を食べながら、陽奈子は本当に嬉しそうに、楽しそうに微笑みながら見守っている。



「ごちそうさまでした」

「お粗末様です」

 綺麗にお弁当を平らげ、手を合わせる。

「ちゃんと全部食べてもらえて、良かったです」

「うん。今日も美味しかったよ、ありがとう」

 いつもと見栄えは違っていたけれど、料理の味そのものはいつもと同じで美味しかった。

「それで、今日はどうしたの?」

「え? えへへ……」

 にやにや、いや、ヘラヘラ?と笑いもったいぶって中々言おうとしない。そんな陽奈子に苛立つこともなく、理也は穏やかな笑みを浮かべて微笑ましく見守っている。

「あのですね……。今日のお弁当には、理也先輩の大っ嫌いな食材を三つ使わせていただきました!」

 陽奈子のその爆弾発言に、理也は笑顔のまま凍りついた。

「ああ、本当に良かった。途中で気づかれたらどうしようかって、ひやひやしてました。全部食べてくれて、本当にありがとうございました。理也先輩」

 本当に、ほんっとーに、憎らしくなるほど良い笑顔で、陽奈子はお礼を言う。

「――してやられた」

 怒る気力もなくなり、脱力しゴロンと陽奈子の膝に頭を乗せて寝転んだ。

「何を使ったか聞きますか?」

「――聞いてみたいが、聞いたが最後、寝込みそうだからやめておくよ……」

 目をつむれば、穏やかな風の音が聴こえてくる。

「ふふ、理也先輩の髪。すごく柔らかくて、触ると気持ちいいですね」

「そんなことないよ。陽奈子の髪のほうが柔らかくて、滑らかで、綺麗だよ」

 そう言って理也は太陽の光に照らされて、黄金に輝く陽奈子の髪を一房つまんで指を滑らす。

「気持ちいいですね」

「そうだね」

「秋になったら、紅葉狩りに行きましょうね」

「いいね……」

「それまでに、苦手を克服させてみますからね。理也先輩」

 にっこり笑って下を向けば、気持ちよさそうに眠っている無防備な理也の姿があった。

「もう。――でも、こんな可愛い顔を見せてくるぐらいには、気を許してくれているんですよね」

 つんつん、と頬をつついてみる。すると、少しまゆをひそめた。

「ふふふ」

 そんな反応が面白くて、可愛くて。いたずら心がはやる。

「先輩、いつか先輩の本音。見せてくださいね。私も頑張りますから」

 そう静かに呟いて、陽奈子は燦然と輝く太陽を見上げた。



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