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トゥライト・テイルズ  作者: タクミンP
第一章・邂逅と旅立ち
6/29

6・会合―前


 リリエラの友人を念の為に医者に預け、フイセたちの自宅に帰り着いた一同。

 疲れているだろうリリエラに、今日の所は休むように伝え、三人はリビングで机を挟んで向かい合った。


「妹ちゃん大丈夫かな? 何か元気なかったけど」

「気にするな。この阿呆が悪いだけだ」

「えぇ?」


 鎧を脱いで、普段着姿に戻っている母の理不尽過ぎる回答に、隣に座っているフイセは疑問符を上げる事しか出来ない。


「道中で軽く聞いたが、お前がこいつの同胞か――レベルは?」

「百だよ。っていうか、あのゲーム発売されて結構長いから、全体の三割位は百台だと思うよ?」

「頭の痛い話だ」


 以前も義息から聞かされたその事実を改めて確認し、疼痛を鎮めるように額を押さえるグレイシア。

 「クイン・リブレ・オンライン」は発売から五年以上経過している老舗MMOだ。

 このゲームの売りは、エイドオーブを成長させて行う育成の幅にあった。

 初期八職から始まり、中位、上位に転職する過程で、様々な試行錯誤が可能となっており、例えば技能(スキル)でいえば、四の倍数毎にスキルポイントを獲得し、そのスキルポイントを消費する事で、職業毎の「選択技能(スキル)」から希望のスキルを取得したり、任意のステータスを上昇させたり出来る。

 ここで面白い点が、その職業のスキルポイントを全て注ぎ込んでも、「選択技能」の全てにはポイントが足らないという所だ。同じ職業であっても、育成次第では全く別のキャラクターが出来上がったりする。

 他にも、転職時に別系統の職業に転職する事で発生するステータス調整や、職業の「選択技能」扱いである個別の攻撃モーション、「流派」・「型」。その技能を鍛える事で体得する「攻撃技能(アクションスキル)」。

 更には初期七種の人種選択と、特殊なクエストをこなす事で可能となる、他種族や上位種への「転生」など、様々な要素を絡ませ合う事で、プレイヤーたちは多種多様なキャラクターを創造していった。

 エイドオーブには「初期化(リセット)機能」が備わっており、もし育成に失敗しても、レベル十単位で取り消しを行う事も可能なので(当然、一度取り消してしまうと、レベルは上げ直し)、一つのキャラクターで、何度も育成のやり直しが出来る。

 その想像力を掻き立てる育成の自由度は、古参のプレイヤーから、「このゲームは、レベル百までがチュートリアル」とまで云わしめたほどである。

 勿論、その自由度故にネタに走る人も多く、ゲーム時代では、「物理攻撃の方が強い、無駄に頑丈な魔法使い」や、「守って補助して回復もこなす、体力(HP)皆無の盾職(タンク)」、「魔法スキルを捨て、ステータスの上昇にスキルポイントを注ぎ込んだ回復職(ヒーラー)」など、意味不明で愉快なキャラクターたちが跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)としていた。


「まずは森の異変に関して、知っている限りを話してくれ」

「おけーい。っていっても、アタシが当事者なんだけどね」


 グレイシアに(うなが)され、その前に座るジャオメイは、軽い調子で事情の説明を始めた。







「――オークキング、か」


 ジャオメイが説明を終え、グレイシアは小さく呟いた。

 幾ら狩ろうと、魔物は絶滅しない。その理由が、殆ど全てのフィールドの最奥に存在する、魔脈だ。

 葉脈の如く大地に(あまね)く広がる魔力の間欠泉、魔脈からこの世界に充満する「魔」を核として産まれいずる者たちこそが、魔物なのだ。

 魔脈はそれが有る限り魔物を生み続け、しかし潰せば、魔物と魔力の消失と共に、自然の発生を司るその土地の精霊たちすらも絶滅させ、土地の全てを枯れ果てさせるという、生命の根源も同時に担っている。

 人は、魔脈の存在によって魔物の脅威に晒されながら、反面その恩恵により大地の恵みを享受しているのだ。

 そして魔脈は十数年、或いは数十年単位で、しばしば通常よりも遥かに強い、亜人種の「キング」を産み出す。

 生み出された「キング」は、同属を率いて辺りを蹂躙(じゅうりん)して生命の間引きを行い、他の種族に討たれる事でその大量の(むくろ)を大地の糧へと返し、周囲に刺激と豊穣(ほうじょう)を促す。

 魔脈の存在と共に繰り返されてきた、この世界のサイクルの一つだ。

 ゲームであれば、クエストのイベントの一つとして起こっていた事象が、ここでは連綿と続く事実として認知されていた。


「正直焦ったよ~。行って帰るだけの楽勝な探索クエの筈だったのに、いきなりボス戦とか、サプライズ過ぎだって」


 自らの不幸を、からからと笑い飛ばす紅髪の少女。彼女にしてみれば、普通の冒険者が絶望するような状況も、だだの笑い話でしかない。


「明らかに足手まといだったから、一緒に依頼を受けた連中はさっさと逃がしてさ、アタシ一人で相手したんだけど……思ってたよりしぶとくってねぇ」

「その戦闘で興奮したオーク族の一部が、中央から外へと飛散し、今回の件に繋がった――という訳か」

「多分……ごめんなさい」

「仕方ないよ。「(キング)」が生まれてた以上は、遅かれ早かれ森の外への侵略は起こってた事なんだし。(むし)ろその前に対処出来て、助かったんじゃないかな」

「リラに何かあっていたなら、同じ台詞は吐けんだろうがな」

「う゛……まぁ、それはそうなんだけど……」


 フイセのフォローを、一刀に伏すグレイシア。


「だが、こいつの言っている事も間違いではないか――今回の件は事故として、ギルドに処理させよう」

「ありがたーやです。ほんと、すまんこって」


 椅子に座ったまま、ジャオメイはグレイシアに向かって深々と頭を下げた。


「結局、オークキングは討伐出来たの?」

「いんや、フルボッコにしただけー。依頼が出る前に倒してもお金に成んないしねぇ。街に着いたら何処かのギルドにでも報告して、依頼を出して貰おうかなぁ――とか考えてました。ごめんなさい!」

「不謹慎だが……それも稼業だ。街の事を思えば非難も出来るが、今回は「キング」の早期発見の情報を得られた事で目をつむろう」

「ははぁ」


 僅かに眉を寄せる、街の安全を担う警備隊の相談役に、再び平伏すジャオメイ。


「じゃあ、次は僕たちの話だね。ジャオもこっちに来た時は赤ん坊だった?」


 森での事情を聞き終え、三人は話を本題へと移した。


「うん。あぁでも、多分同じとは思うけど、来た時期はちょろっと曖昧かなぁ。拾われたの孤児院だし、そこを追い出されてから一時は、正直日付とか気にする余裕なかったから」

「追い出された?」

「仕切ってた神父が最悪でさぁ。ロリはおろか、ショタまでいけるというど変態。しかも職権乱用してて、入って来た綺麗所(きれいどころ)は、とりあえず試食するど外道」

「うわぁ……」


 神に仕えている筈の、その余りな聖職者の所業に、思わず声を上げてしまうフイセ。


「アタシにまで手ぇ出そうとしてきたから、顔面ぶっ飛ばして裸に引ん剥いた後に、「コイツは幼ければ何でもいけます」って書いた紙貼って、孤児院の屋根から吊るしてやったら、なんか追い出された」

「そりゃ追い出されるよ……」

「そいつはどうなった?」

「さぁ? 追い出された後の事だから、(なん)も知らない。外面だけは良い奴だったから、まだ神父やってるんじゃない?」


 最早興味もないといった調子で、首を振るジャオメイ。

 彼女にとっては、「自分に手を出そうとした事」が罪であり、「犯罪を犯している事」に関して正義感を振りかざすほど、善人を気取るつもりはないのだろう。


「でまぁ、その後は貧民街(スラム)っぽい所で同じ境遇のガキたちと一緒に何とか生き伸びて――多分それが三・四年位になった頃かな、もう一人のプレイヤーに拾われたの」

「もう一人、プレイヤーが居るの?」

「そうそう、ソイツがまたかなりの変人でさぁ――仲間だったガキたちも一緒に後見人になって貰う代わりに、色々と無理難題吹っかけられて――そんななんやかんやを全部片付けて、三ヶ月位前かな? 折角のリアルファンタジー何だし、色々旅してみようかな~って思い立って、今はその最中ってわけ」

「何ていうか、波乱万丈だね……」

「ふふふ、凄いっしょ? アタシのサクセスストーリー」


 感嘆とも呆れとも付かない声でフイセが感想を述べると、ジャオメイはさも自慢げに笑みを作ってみせた。


「何処かに仕官しようとは思わなかったのか? お前のレベルなら、引く手は数多だろう。実際、お前たちプレイヤーの中には、そういった者の情報も入っている」

「まさかぁ。王宮とか大手ギルドの中央って、めっちゃドロドロじゃん。しかもアタシらが強いって言っても、最強って訳でもないしね」


 グレイシアの質問を、鼻で笑うジャオメイ。

 彼女の言う通り、彼女たちの強さは確かにこの世界において規格外ではあるが、決して最強ではない。

 そもそも、元のゲームはMMOだったのだ。インターネットを介し、多数の人間とのコミュニケーションを前提として作られていたこのゲームでは、同レベルであれば少なくともステータス上では互角の数値であり、更にはプレイヤー以外でならば、彼らより強い者などざらに存在していた。

 レベル百帯用に用意されたモンスターは、当然パーティー戦を想定された強さを持っていたし、NPC――ノンプレイヤーキャラと呼ばれる、ゲームのプレイヤーではないキャラクターたちの中にも、五大ギルドの(おさ)や王国最強の騎士、時には国王自身でさえも、イベントで敵対した際には、プレイヤーのパーティーを圧倒するに相応しい実力を持っていた。

 NPCの強さに関しては、魔剣の効果や神魔(しんま)の憑依などと、様々な理由が存在したが、それでも一介のプレイヤーでは到底敵う相手ではない者たちが待ち受ける魔窟に、自ら進んで入る気は彼女にはないらしい。


「さささ、次はフイセ君の番だよ」

「ジャオの話よりは、随分短いし面白味もない話になっちゃうね」


 フイセ側の質問を終え、ジャオメイに(うなが)されるままに、今度は灰髪の少年が話し出す。


「ボクが拾われたのは、さっきまで居たホロロの森。拾ってくれたのはお母さんだね。それから一年も経たずにリラが生まれて、その後はお母さんの伝てを頼って、この街にある学園の学園長に、他のプレイヤーの情報と、元の世界へ戻る方法を探して貰ってる」

「で、帰還の方の目論見は、見事に粉砕されてる、と」

「はは、そうだね。自分の足で探す事も考えたけど、傍に居るってリラと、妹と約束しちゃってたから――」

「あ~、今ので妹ちゃんの反応の理由が解ったわ。お兄ちゃんさいてー」

「そう……なのかな?」


 呆れたようなジト目で此方を見るジャオメイに、上手く事情を理解する事の出来ないフイセは、首を傾げるだけだった。


「今はばれると面倒だから、能力(ちから)を隠しつつ学園に通って、時々学園長から情報が入る状態かな。リラも学園に入って随分経つし、もうそろそろ卒業して、僕も旅に出ようとは思っているけどね」

「なるほろ」

「こんな所。今はもう、元の世界に戻るのは半ば諦めちゃってるけど……やっぱり、未練は残っちゃってるかな」

「えー、そう? 親とか知り合いとかは気になるけど、アタシはこっちの方が断然ありだなぁ。向こうじゃバイトとゲームばっかりで、先の事とか全然考えてなかったし」

「僕も、そう考えられれば良いんだけどね」


 ジャオメイの開き直りともとれる言葉に、苦笑を返すフイセ。

 同じ異世界に飛ばされた者同士でありながら、二人の意見はやや食い違ったものだった。

 だが、相手を咎めたり、自分の意見を主張するつもりは、両者にはない。結局、何処の世界でも変わらず、生きている以上は自分なりに生きるしか方法はないのだ。

 二人の会話が止まった所を見計らって、グレイシアが次の質問を問う。


「お前が会った事のあるプレイヤーは、故郷の一人とこいつで二人というのは、間違いないのか?」

「うん、フイセ君で二人目。実はそんなに数居ないんじゃない? ママさんはアタシらの事調べてるって言ってたけど、今どん位見付けてるの?」

「此方が把握しているのは、およそ十五人程度だな」

「少なっ。あの時のイベントでログインしてた人数って、万人単位だよ? (こう)レベル帯だけで考えても、もし全員来てたらその数はありえないって」

「確かにな。だがお前たちは、下手をすればたった一人で数百人規模を相手取れるんだ。それが集団でも作れば、大都市クラスの防備でも攻略が可能だろう」


 だから楽観視する事は出来ない、とグレイシアはプレイヤーの危険性を断言した。


「あーそかー。陰険な奴が来てないと良いんだけどねー。PK(ピーケー)とか」

「コイツから少し聞いているが、やはり危険か」

「ここでやったら、青髭真っ青の殺人鬼なんだもんねー。その辺解んない奴だって居るだろうしなー……」


 PKとは、プレイヤーキラーの略であり、魔物やNPCではなく、同じプレイヤーを標的に攻撃を仕掛ける者たちの総称だ。

 「クイン・リブレ・オンライン」では、PKは容認されていたし、ハラスメント行為になるような悪質なものには、当然罰則が発生していた。

 だが、ゲームという枷を失ったこの場所で、彼らが本当にPKという名の殺人に目覚めた場合、それはこの世界に住む人たちにとって、最悪の事態へと発生する事を意味しているだろう。


「こんな所か。すまないな、尋問のような真似をして」

「いやいやー。こっちも(おんな)じプレイヤーとお話出来て、嬉しいからおけーいだよ」


 話し合いを終え、空気を和らげたグレイシアに、ジャオメイは笑顔で答えた。


「でさ、フイセ君。ものは相談なんだけど――」

「?」


 席を離れ、喉が渇いただろうと三人分の紅茶を()いで来たフイセに、紅髪の少女は頬杖をつきながら、何気ない調子で提案した。


「アタシと一緒に旅、する気ない?」


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