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トゥライト・テイルズ  作者: タクミンP
第三章・ブリキの街
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外1・勇者二人

どうあがいてもエタりそうなので、申し訳ありませんが打ち切ります。

「失礼する」


 オウス・アーカー学園の学園長室から、一人の女性が一礼の後に退席する。

 ウェーブの掛かった銀の長髪に赤色の鎧を身に着けた「勇者」、オルテンシア・ラヴィニスその人だ。

 その後、十分に時間が経過するのを待って、学園長は書類を眺めながら肩を揺らした。


「ホッホッホッ、あの三人は元気でやっとるようじゃね。便りがないのは元気な証拠と言うが、便りがあれば更に元気、といった所かの」

「あの阿呆共が……」


 朗らかに笑う学園長とは違い、傍に立つグレイシアは普段から眉間に寄っている皺が更に増え、米神には大きな井桁が張り付いている。


「事情を聞く限り、どちらもあの子らが手を出さざるを得ない状況だったようじゃがね」


 学園長が手に持つ書類に書かれているのは、オルテンシアが遭遇したグレンベルでの事件の概要だ。館に封印を施した本人である学園長への確認と、事件に対する意見を聞く為に、彼女たちは教会からの使者としてこの学園に来訪していた。

 過去に封じたあの心の砕けた魔女が、知らぬ内に復活していたと耳にした時は肝が冷えたが、どうやらあの優秀な卒業生たちが上手く尽力してくれたらしい。

 先日同じように、タルデで起こったオークキングとの防衛戦に関する件も含めた複数の案件を持って訪れているもう一人の「勇者」、ウルティエラ・L・シンクレアの報告にも、同様に彼らの影が見え隠れしている。


「関係ない。その為に自身の存在を世に晒すなど、愚の骨頂だ」

「一応誤魔化してはおるようじゃが……はてさて、どうなる事やら」


 苛立つ母親とは違い、彼らの足跡を如実に語る書面を見ながら、これから先もこういった報告書が続くのだろうと無意識に納得してしまい、小さく苦笑する学園長。


「幾ら力ばかり強くとも、運ばかりは鍛えようがないからのぉ」

「知るか、自業自得だ」


 書類を机に置き、ぽつりと漏らした学園長の言葉を、グレイシアが切り捨てた。







「流石に年の功か、あの狸……否、カボチャ爺め、わざと情報を小出ししているな」


 自主訓練をする者のみが残っている時間帯だという夕暮れ時。殆ど人気のなくなった学園のテラスで、私は久方ぶりの再会を果たした女と机を共にしていた。


「魔道士にとって、己が編み出した秘術は千金に値するもの。仕方ない事ではないでしょうか」


 紅茶の入ったカップを片手に、無駄に整った顔と同じく、どこか澄ました声音で反論を返してくるのは、縁が腐る程度の間柄である同僚の「勇者」、ウルティエラだ。

 半年振りに会うこの女は、やはり何も変わらない。


「はっ、お前は相変わらずのお人好しだな」


 人という者を信じる為に、より良い解釈で物事を判断しようとするのは、こいつの悪癖だった。

 「勇者」という集団は、名目としては教皇直属の一団となっているが、その実ただ能力が高い者が名を連ねただけの役職に過ぎない。

 その責務にさえ反しなければ、余計な束縛もなく自由な行動が許されるので、協調性も薄い。

 こいつの様に、教会の仕事をあくせくこなす者も居れば、私の様に風来坊をしている者、一つ所に留まり、その土地を守護する者など、肩書き以外での行動は統一性すらないのだ。

 同じ「勇者」同士が、一度も出会わずにその役目を終える事とて、さして珍しくもない。

 しかしそんな中で、旅人という共通点で繋がっている私たちは、それなりの頻度で度々こうして出会う事もあり、互いを愛称で呼ぶほどには長い付き合いとなっていた。


「貴女は、またそのような事を……そういえば、今日は貴女の従者が傍に居ないようですが」


 どこか呆れを含んだ口調の後、周囲を見渡すエル。


「旧友に会うと言っていたので、行かせてやった。あいつは真面目だから、たまには息抜きをさせてやらんとな――もしそれが終わっているなら、時間潰しにその辺りの学園生でも口説いているんじゃないか?」


 そんな彼女に私が軽口を飛ばせば、エルは口に運びかけた紅茶を再び皿に戻し、深い嘆息を吐いた。


「……言いたくはありませんが、あの方は「勇者」の従者として相応しいとはとても思えません」

「お前が言うと、重みが違うな」

「――っ、そうですね、失言でした。話題を変えましょう」


 自分の急所を抉られ、言葉を濁すエル。きっと未だに未練がましく持ち続けている、あの「お守り」を思い浮かべているに違いない。

 さして浅くもない間柄だ。興味本位で調べた部分も含め、お互いの情報は少なからず共有している。

 私にとって、「勇者」は生きる糧を得る為の職業に過ぎないが、こいつにとって「勇者」とは、自身の根幹に根付く絶対の誓約だ。

 完璧な「勇者」でなければならない――そんな悲壮にも似た覚悟は、一体誰に対して誓ったものだったのか。


「(業は深いな……とはいえ、私も人の事は言えんか)」


 アルフォードがあの様な人物になった原因は、実は私にある。

 当時の私は若かった――今でも若いが――嘘と欺瞞に満ち溢れる教会内の駆け引きに嫌気が差し、真実のみを語る者が欲しかったのだ。

 もの心付いた時から、既に私の付き人として共に居たあの従者に、ある時私は「嘘を吐くな」と命令した。

 まさか本当にあんな馬鹿げた命令を真面目に聞くとは思わなかったし、その結果、あんな内面が暴露される事になるとは、露とも考えていなかったが。

 そして、アルフォードは今日に至るまでその命令を愚直に継続してくれている。

 「勇者」という役柄故に、人の醜悪な部分は見飽きるほど見てきた。

 こんな小娘の我侭でさえ、忠実に答えてくれるあの正直者の従者が、どれほど私の救いとなっているか――悔しいので、その感謝はこの先も絶対に口に出す事はないだろう。


「先日話した、タルデの事件で出会った旅人の情報をお聞きしたいのですが――」


 軽く物思いに耽る私に、また面倒な話題を振ってくるエル。再開時に笑い話として語った、グレンベルでの一件に出て来た三人の旅人の事が、酷く気になるらしい。

 どうもタルデで起こった防衛戦時にも、同様の人物らしき三人組を目撃しており、その時に起こった不可解な乱入者との関係を疑っているという。


「またそれか……私の出会った三人が、お前の出会った者たちと同一人物である確証はないし、そもそも黒尽くめとネコ、だったか、そんなふざけた格好もしていなかったと言ったろう」

「ですが、私たち二人が巻き込まれたトラブルの際に、同じ人物と出会っているのなら、どちらも「勇者」である私たちの目を欺いて行動を起こしている信憑性は上がります」

「だから教えろ、と? 前にも言ったが断る。そのような理由で、共に戦った者たちに迷惑を掛ける訳にはいかんのでな」

「確かに理由の一つはそれでしょうね。ですが貴女の事です、「その方が面白い」などという下らない理由で、口を噤んでいるだけなのでしょう?」


 のらりくらりと避けようとする私に、まるで蛇か鷹の如く食らいついてくる。

 確かに情報の共有は有益なのだろうが、私自身も思う所がある以上、この案件を彼女に譲る気は毛頭ない。


「お前は、何時までも頭が硬いな」

「貴女は、何時までも自由過ぎます」


 蒼と銀――水と炎――性質と主義は反目し合いながらも、私とウルは互いに一定の信頼とライバル意識を持ち続けているのだ。


「あ、あの!」


 お互いの目線で火花を散らせていると、不意に隣から声を掛けられた。

 目を向ければ、そこには黒いローブに青い魔石を付けた杖を持った、如何にも新人魔道士といった少女が、緊張した面持ちで立っている。


「私エリーシアって言いますっ。「勇者」様ですよね!? その、あ、握手して下さい!」


 初々しく顔を真っ赤にしながら、お辞儀と同時に右手を前に出す少女。


「えぇ、よろしくエリーシア」


 エルはそんな少女の願いを、然したる戸惑いもなくあっさりと笑顔で応じた。本人の性格もあり、「勇者」としては大変模範的な行動だろう。


「一人と出来れば十分だろう。私は面倒だ」


 とはいえ、私には関係のない事なので、きっぱりと断らせてもらう。


「あ……」

「シアっ」


 私の拒絶に、少女の顔が沈むと同時に、エルが咎める様な声と視線を送って来る。

 残念だが、私はお前と違って赤の他人に優しくする趣味はない。


「ごめんなさい。彼女は恥ずかしがり屋ですので」


 少女の顔を覗き込みながら、エルは誰も信じないだろう酷い捏造と共に謝罪する。いや、幾ら好意的に見たとしてもそれは絶対にありえないと、言われた少女ですら断言出来るだろう。


「……いえ、何時も何時も私みたいなのを相手してたら、疲れますよね」


 少女は小さく苦笑しながら首を振った。しかし笑みには力もなく、どこか儚げな印象を受ける。

 私に断られたショックからではない、もっと根深い事情から来る落ち込みようだった。


「どうしました?」

「え?」

「元気がないように見受けますが」

「え、と……」

「話して楽になる事もあります。どうか、私に聞かせて貰えないでしょうか」


 また始まった、と私は肩を竦めてしまう。

 他人の傷をいち早く見抜く業は、「勇者」として旅を続け、人々を救っていれば自然と身に付くが、彼女はそこから更に躊躇いもなく事情に踏み入ろうとする。

 それは優しさ故か、それとも救われない自分への投影か――


「(「最優の勇者」か……これほど皮肉の効いた言葉もあるまい)」


 優秀であれど、完璧には届かない。そんなものは存在しない。だから、彼女の望みは叶わない――

 エル自身、それは内心解っているのだろう。解っていて、それを否定する為の努力を繰り返している。正直滑稽としか言いようのない迷走ぶりだ。


「少し前に、学園の友達が卒業しちゃったんです。異変があって、森の入り口でオークに襲われた時、あの娘が命懸けで助けようとしてくれたのに、私何にも出来なくて……次の日、その時助けてくれた人に誘われて、その娘のお兄さんも一緒に旅に出るって……」

「そう、それは辛いでしょうね」


 ぽつぽつと語る少女を相手に、親身になって相槌を打つエル。

 要は命の恩人である友人に、恩返しをし損ねたという話しらしい。確かに落ち込む話しではあるが、時間が経てばそれも何れ思い出となるだろう。


「学園から出て行く前に、どうしてもって呼び止めたんです。でも、私の方が逆に励まされちゃって……旅に出てから少ししか経っていませんし、もしかしたら、勇者様たちも近くで出会っているかもしれませんね」

「えぇ、本当に。どのような子たちなのですか?」

「えと、その子は栗色の髪をした「冒険者ノービス」の女の子で、とってもお兄ちゃん子なんです。お兄さんの方は、灰色の髪をしてて……」


 身振り手振りで特徴を教えようとする少女を見ながら、私は全く別の事に考えが移っていた。

 栗色の髪をした少女、灰色の髪をした兄、三人目の勧誘者。

 確信にはほど遠いが、疑念を抱くには十分な情報だ。そして、恐らくこれは当たりだと私の勘が告げている。

 フレイベルドから出発し、タルデ経由でグレンベルを訪れたのなら、時系列も合う。

 こんな形で彼らの身元が舞い込むなど、奴らの運が悪いのか、エルの運が良いのか――これが俗に言う「日頃の行い」というやつかと、内心妙な納得を覚える。


「おい」

「えぇ」


 私に声を掛けられるまでもなく、エルも表情を引き締め、少女の両肩に手を置いていた。


「その話、詳しく聞かせて貰えますか」


 奴らの尻尾を掴んだ事で浮かんだ私の表情見た少女が、その顔を徐々に青ざめさせていく。

 失礼な奴だ。私はこんなにも満面の笑みだというのに。

 私としては、別に迷惑を掛けられた訳ではないので、さして奴らに対する嫌悪はない。だが、受け取らなかった報酬を含め、一度私を出し抜いた礼だけはしておきたいのも事実。

 ――さぁ、追跡劇おにごっこの始まりだ。


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