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トゥライト・テイルズ  作者: タクミンP
第三章・ブリキの街
20/29

20・再来

 フイセたちと道を別れた、ジャオメイ、リリエラ、アルフォードの三名は、五日後の一大イベントに向けて、普段以上に盛況しているであろう大通りを散策していた。

 両手に握る、屋台で買った香ばしい匂いを漂わせる、焼きたてのから揚げや、たっぷりとソースとチーズの乗った、棒巻きピザなどを、幸せを噛み締めるように、次々と頬張るジャオメイ。


「やっぱ、こういうお祭り時の屋台は、雰囲気込み込みで味が違うよねー。おっちゃん、肉串二本!」

「あいよ! いい食べっぷりだ、おまけしてやるよ!」

「わぁお! おっちゃん愛してるー!」

「がははは!」


 快活に笑う屋台の親父から、代金と共に熱々に焼けた、肉汁の溢れる串焼きを受け取り、満面の笑顔で口へと運ぶ。


「もぅ、食べ過ぎだよ」

「いいじゃんさー。別にこれぐらいの買い食いで、痛む懐事情な訳でなし。おぉ、あれってタコヤキモドキじゃん! 一遍食べてみたかったんだー。おばちゃーん!」


 隣で、底までクリームの詰まったクレープを食べるリリエラの苦言にも、本人は至って気にした様子もなく、祭りを堪能している。


「朝食をあれだけ食べておいて、まだ入るのですか?」


 その、胃袋の体積を無視した健啖振りに、アルフォードもかなり呆れ気味だ。


「アル君。全ての女の子にはね、時に常識を覆す、「別腹」という希少技能レアスキルが存在するんだよ」

「成る程。そして後日身体に出来る、無駄な肉に悩む訳ですね」

「君はホントに素直だねー」

「いたたたた、これはお嬢様以上の握力ですね」


 不在であるオルテンシアの変わりに、嬉々として制裁を加えるジャオメイの顔面握りを受け、何時も通り平然としながら、脂汗を滲ませてもがくアルフォード。


「んで、アタシらはこっから何すりゃ良いのかなかーな?」


 しばらくそうして、屋台を楽しみつつ大通りを歩き続けた後、ジャオメイが串肉を噛み千切りながら、甲冑の騎士へと簡潔に問う。


「強いて上げるならば、私たちを尾行している方々に、お話しをお聞きするぐらいですね」

「え?」


 然して驚きもせず、淡々と告げるアルフォード。唯一人気付いていなかったリリエラだけが、慌ててきょろきょろと周囲を見回す。

 そんな栗髪の少女の頭を数回撫でて、ジャオメイが不敵に笑う。


「アタシら込みで餌って訳ね。妹ちゃん、危なくなったら、アル君盾にして良いよ」

「勿論、全力でお守り致します」


 ジャオメイの振りに、金髪の騎士が略式の礼として、胸元に拳を軽く打ち付け、その顔だけ見れば大抵の女は頬を染めるだろう、美しい微笑を少女たちへと浮かべた。







「何でアンタがそっちに居んのさ?」


 襲い易く、また市民への被害を抑える目的で訪れた、人気のない通りで、周囲を囲む粗野な男ばかりの集団の中に、見知った顔を見かけたジャオメイが、思わず声を掛ける。


「決まってんだろ。金で雇われたからだよ」


 昨日、酒場で一蹴した筈の禿頭の大男が、周りから文字通り頭一つ抜きん出た形で、彼らの前へと進み出た。

 隣には、昨日も見かけた相方らしい鶏がら男もちゃんと、ゴロツキたちと違和感なく混じっている。


「昨日、負けたんじゃなかったの?」

「あぁ、負けたさ。だから今、こうしてリベンジに来てる」

「何それ、サイクル早過ぎっしょ。山篭りして修行する期間とかない訳?」

「そんな悠長な事なんざしてたら、お前ぇら何処かに行っちまうじゃねぇか。渡り歩いてまで、女の尻を追いかける趣味はねぇ」


 昨日と違い、皮鎧に狼の頭部を模した禍々しい手甲と、完全に戦闘準備を整えた大男の弁に、ジャオメイの表情は喜びと少しの苦味が混じった、複雑な面持ちだ。


「お前ぇらは手ぇ出すな」

「おいおい、勝手に盛り上がってんじゃねぇよ。今から全員で――はがっ!?」

「死にたくなきゃ、黙って見てろ」


 横合いから肩を掴んだ、空気の読めないゴロツキの下顎を握り、目線の高さまで軽々と持ち上げると、一睨みして後ろへと放り投げる大男。

 そんな様子を眺めながら、ジャオメイは背中の棍を地面に突き刺し、自分の連れに向かって目配せする。


「二人は応援よろしくー」

「頑張って、ジャオさん!」

「もし敗北をきし、お帰りにならなかった際は、このアルフォードが責任を持ってリリエラさんを私好みの女性に育てる事を――いたたたた、割れます割れます」

「アタシが行ってる間に妹ちゃんにセクハラしたら、一回毎に左手の小指から順に捻じ曲げるから」

「滅相もない、どうかご武運を」


 ふざけた発言をする青年に、きっちり制裁と共に釘を刺した後、片手を振って歩き出す。

 突然始まった決闘に、戸惑いを浮かべる周囲を他所に、大男と紅髪の少女は、通路の中央へと歩み寄って対峙した。


狼牙ろうが流、「蛮拳ばんけん」、バスク・ゲーラだ」

「ふはっ、良いね、格好良い。アタシは無敵流、「三桁鬼かくれんぼう」のジャオメイだよ」


 両腕を前に垂らした、前傾姿勢の構えと共に名乗りを上げた大男、バスクに対し、その口角を吊り上げ、ゆっくりと左足を後ろに下げ、両手を目の前で上下逆さまに構えて、名乗り返すジャオメイ。

 彼女の口から出た自らの二つ名が、ゲーム時に名乗っていたものである事を理解出来る人間は、この場には居ない。


「得物は?」

「いらない」

「そうかい!」


 開始の宣言もなく、駆け出したバスクの豪腕が、唸りを上げて繰り出された。


「ほっ――づっ!?」


 挨拶代わりの一発を、ジャオメイが片腕で防いだ後、一拍置く形で紅髪の少女の表情が歪み、振り抜かれる拳に連動して後ろへと飛ばされてから、距離を離して停止する。


「え? 今、何か……」

「どうやら相手の装備に、特殊な効果が付与されているようですね」


 接触の瞬間に起こった違和感を見て、疑問符を上げるリリエラに、アルフォードが「勇者」の従者としての慧眼で、男の武器へと視線を促す。


「たたた、防御貫通なんて、また珍しい武器持ってんねぇ」

「お前と戦う為に、わざわざ引っ張り出して来た闇市の一品さ」


 攻撃を受け止めた腕を振るジャオメイに対し、自慢げに自らの手甲を掲げて見せるバスク。

 特定の装備品に、最初から追加要素が付いている例は、珍しい事ではない。それは属性であったり、状態異常効果であったりと様々だ。

 バスクの装着している手甲は、攻撃の補正値こそ極端に小さいものの、ダメージを軽減する相手のDF(防御力)を無視し、装備者のATK(攻撃力)をダイレクトに伝えるという、俗に「貫通かんつう属性」と呼ばれる、希少度の高い装備品だった。


「素の強さじゃあ、お前ぇが確実に上だろうがな。だからって素直に負けてやる気はねぇぜ!?」


 付与技能エンチャントスキル――牙獣憑依がじゅうひょうい――


 手足に、獣の爪を彷彿とさせるオーラを纏わせ、怒涛の攻勢に出るバスク。

 レベル差という、残酷な強弱が発生する以上、各上相手に正々堂々など挑んでも、結果は決まっている。

 装備で、場で、罠で、自分の納得の行く勝利が得られるのであれば、それら全てを総動員してでも、相手を倒すという結果を求める事は、バスクという武人にとって、当然の行為なのだ。


「よ、ほっ。速い速い」


 受け止める事を止め、繰り出される拳打と蹴撃を、上体を動かしてかわしつつ、避け切れない分は、両の手の平を相手の打撃に添えて、器用に身体から逸らすジャメイ。

 その顔には笑みが浮かび、口から漏れる言葉も、余裕そのものといった調子だ。


「その余裕が、油断にならなきゃ良いが――なっ!」


 攻撃技能アクションスキル――双鉄爪撃そうてっそうげき――


「ほいっ、はっ!」

「がはっ!」


 両手の指を牙に模した、バスクの突きを真上に蹴り上げ、ジャオメイの正拳が、がら空きの胴へと突き刺さった。


「っ、がぁ!」

「つっ」


 拳を食らって吹き飛ぶ直前、がむしゃらに繰り出されたバスクの裏拳が、ジャオメイの額に偶然当たる。手甲の効果もあって、その打撃はしっかりと彼女の頭を揺らし、顔に薄い痣を付けた。


「いったたー。ったく、乙女の顔になんて事してくれてんのさ」

「随分と、粗野な乙女も居たものですね」


 顔をしかめて額を擦るジャオメイに、遠くから観戦していたアルフォードが、またもや表情を変えずに、余計な発言を口に出す。


「アル君、後で裁判」

「リリエラさんを、弁護人として希望します」

「え、わ、私ですか?」

「じゃあ、オルちゃんが裁判長ね」

「それでは始まる前から、死刑が確定ではありませんか」


 三人のやりとりの最中に立ち上がったバスクが、腹の底から雄叫びを上げて大地を蹴り出す。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 攻撃技能――双鉄爪撃そうてっそうげきはばみ――


 先程と同じ格好ながら、更に威力と勢いを付けた二つの豪爪が、ジャオメイへと迫る。


「ふんっ!」


 圧倒的な体格差を持ちながら、彼女は一切怯む事なく、迫り来る巨体の突撃を、前に突き出された両腕を掴み取る事で、後退りもせずにしっかりと受け止めた。


「残念」

「お前がな――」


 しかし、笑みを深めたのは、攻撃を止められた筈のバスク。


「おらぁ!」

「っ!?」


 攻撃技能――奥義・裂牙烈光撃(れつがれっこうげき)――


 両の拳から吐き出された、巨大な狼のアギトと化したオーラの塊が、ジャオメイの腹へと決まる。

 至近距離で、防御する暇もなく食らった極大の閃光に、彼女も堪らず後方に大きく吹き飛び――


「――ったいなー、もう」


 止まった後、不快そうに腹を撫でるジャオメイの姿に、バスクは両手を構えたまま、顔を引きつらせる事しか出来ない。


「今のが痛いで済むのかよ……」


 自身の中では最大の威力を誇る、渾身の一撃を与えても、何一つ変わらない態度を見せられた瞬間、バスクは自らの敗北を確信した。


「ほんじゃあ、今度はこっちの番だねー」

「断る!」


 だからといって、それを決闘の最中に認められるほど、彼のプライドは安くない。

 負けるのは良い、日和ひよるのもありだろう。だが、諦めてしまえば、目指す先は閉ざされる。

 再び接近し、全力で振り切られたバスクの突きを、半身でかわした紅髪の少女が、その懐へと滑り込む。


「遠慮しないの――はっ!」

「ぐぅっ!」


 衝撃が突き抜ける程の、ジャオメイの右拳を受け、口から軽く血を流しながらも、バスクはその場に踏み止まった。

 重た過ぎる打撃だが、来ると解っていれば、一撃は耐えられる。己の歯を砕ける寸前まで噛み締め、彼はその一撃を耐え凌ぐ。


「があぁぁぁ!」


 血を吐きながら、気合ですらない叫びと共に、反撃として放ったのは、ただの全身全霊を込めた、左の鉄拳。丸太のように太いバスクの巨腕が、ジャオメイの無防備な脇腹を全力で貫く。


「っく~」


 当然、一撃が耐えられるのは、彼だけではない。犬歯を剥き出しにして、互いに笑みを浮かべる双方の視線が、自然と絡み合う。


「今度はこっちの番」


 攻撃技能――崩拳ほうけんあたり――


 流れるような動作で振るわれた、オーラを乗せた中段突きが、バスクの鳩尾へと叩き込まれた。


「ごほぉっ!」


 細腕からは想像も付かない、壮絶な威力で放たれた一撃に、バスクは肺の空気を全て吐き出しながら、盛大に撥ね跳んで、遠くの壁へと激突する。


「悪いね。一応「無敵」名乗ってるんで、負ける訳にはいかないのよ」


 白目を剥いて崩れ落ちる禿頭の大男。一流同士の攻防に、言葉を失っていた周囲がざわめきを取り戻した中、ジャオメイが己の勝利を宣言をした。


「――ホントにゴメン。こんなズル女相手に、本気で喧嘩何てさせちゃってさ」


 その後に漏らした小声の独白は、誰にも聞かれる事なく、虚空へと霧散する。


「兄貴!」


 鶏がら男が、血相を変えて倒れたバスクの傍へと走り出すと同時に、ジャオメイの背後から、一つの影が躍り出た。

 表情のないその男は、一直線に通路の中央に立つジャオメイへと走り、その隙だらけの背中に向けて、右手の凶刃を突き出す。


「ジャオさん!」


 突然の出来事に、悲鳴を上げるリリエラ。


「あー、満を持して登場してくれた所、悪いんだけどさぁ――」


 しかし、彼女を貫く筈の刃は、背中に回された彼女自身の指に挟まれ、その直前で停止していた。


「アタシ、不意打ちって効かない体質だったりして」


 受動技能パッシブスキル――超直感シックスセンス――


 彼女が取得している、索敵に関する技能スキルは少々特殊で、その範囲は彼女の身長の倍程度の、極狭い領域でしかないが、その内部であれば、例えどんな隠蔽や偽装などの隠蔽技能ハイドスキルや、転送や空間跳躍などの転移技能ジャンプスキルでさえも察知出来るという、感知系では最上級の性能を誇る技能スキルなのだ。

 彼女に対しては、あらゆる不意打ちの類は通用せず、一対一の戦いであれば、確実に正面からの戦闘に持ち込む事が出来る、対決に特化した技能スキルと言えるだろう。


「ふんっ!」

「ぎっ!」


 決闘を汚した罰として、ジャオメイは少々強めの肘打ちを、男の顔面へと叩き込む。


「ん?」


 だが、殴打した際の奇妙な感触を感じ取り、彼女は眉を寄せて振り返った。


「ぎっ……」

「なにあれ」


 吹き飛んだ男を見れば、その顔には無数のひび割れが起こり、良く観察すれば、右手の直剣も手ではなく、肘辺りから直に生えているものらしい。


「どうやら一般の方に混ざって、別の方々が居らっしゃるようですね」


 明らかに異様な男を観察し、腰に差す幅広の剣を引き抜きながら、油断なく周囲を見渡すアルフォード。

 リリエラも雰囲気の変化を理解して、無言でショートソードを抜くと共に、左手の盾を構えて腰を落とす。


「ば、化け物だ……!」

「やってられるか!――な、何だ?」

「ぎっ」

「ぎぎっ」


 起き上がろうとしている、無機物染みた男に恐れを抱き、逃げ出そうとしたゴロツキたちから、別のどよめきが起こる。


「おいおいおいおい」

「どうやら、あちらが敵の主力と見て良いようですね。無法者を使ったのは、逃げ場をなくし、場を混乱させる為かと」


 見れば、壁の役割を果たしていた彼らの背後から、その軽く倍は超えるだろう、黒尽くめの集団が、両手から鉤爪を生やして通路を塞いでいた。


「や、やめ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」

「た、助け、あがあぁぁぁぁぁぁ!」

「ぎっ」

「ぎぎっ」


 ゴロツキの中に居た、先程の男の同類だろう。両腕を武器へと変形させた、無表情の何人かが、動揺する男たちへ向けて、冷徹にその刃を振るう。


「っ、我が手に赤を!」


 付与技能――属性付与エレメントレースファイア


 事態が把握出来ないまま、次々と大地に倒れていく男たちを見て、リリエラは自分の剣を強化して、直ぐさまその惨状へと走り出した。


「来ます」


 リリエラを追うアルフォードの声に連動し、周囲の黒尽くめが一斉に押し寄せ、ゴロツキたちの蹂躙を開始する。

 敵味方すら定かでない、狂騒の極みに達した状況のまま、最悪の混戦が幕を開く。


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