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トゥライト・テイルズ  作者: タクミンP
第二章・蒼の勇者
16/29

16・宴―後

「おう、こんな所に居たのかよ、探したぜ」


 宣言通り自棄酒を続けたジャオメイが、確保していたジョッキを全て飲み干し、それでも飽き足らずに、給仕から拝借した追加分も最後の一つとなったその時、今度はゲクラン一行が、フイセたちに近付いて来た。


「ぐぇっぷぃ、お疲れー」

「うぇ、きったねぇなぁ、おい」


 げっぷと共に出迎えたジャオメイに、嫌そうに顔を歪めるゲクラン。


「ジャオメイさん、貴女は一応女の子なんですから、はしたない真似はいけませんよ」

「一応って、お前の台詞の方が酷くないか? だが確かに、女の子のする行為じゃないな」


 ゲクランの後ろに立つ、リコーとニッカからも、女子にあるまじき行為に非難が集中する。


「いいんだもーん。アタシゃ今、フイセ君に振られーの、妹ちゃんに振られーので、傷心中なんでーす。ぷーい」

「おい坊主、どんだけ飲んでんだよ、コイツは」

「取りあえず、此処に見える分は大体ですね」


 テーブルに積み重ねられた、両手足の指を超える数のジョッキを指差して、苦笑するフイセ。ゲクランは酔っ払い少女を見ながら、疼痛を抑えるように額に手を置き、盛大に溜息を吐く。


「ったく、折角ギルドに勧誘しようってのに、これじゃあ話が出来やしねぇ」

「ジャオを、ですか?」

「おう、なんなら三人一緒でも構わねぇぜ。そっちの嬢ちゃんの啖呵も良かったし、坊主はあんまり見掛けなかったが、あの乱戦の後でその余裕なら、足手纏いにはならねぇだろうしな」

「特に目的もなく旅をしているのなら、未知への探究心は強いと思います。ご一緒にクエストを受けていれば、きっと素敵な仲間になれると思いますよ」

「俺らのギルドに入れば、特区や危険地帯に入る許可も簡単だぜ?」


 冒険者ギルド「未踏の木靴(ワンダー・ワンゲル)」は、基本的に入会試験のようなものを行い、合格者を登用する形式を取っているが、同じギルドの所属員からの推薦ならば、試験が免除な上に、そのままギルドの一員として、推薦者のパーティーに同行する事が出来る。

 自分の命を預ける相手を、自身の目で選ぶのだ。今の言葉だけで、ゲクランたちのフイセたちへの評価は、相当に高いと解る。


「前の探索クエ、一緒に受けた時にも言ったっしょー? それはぜったいお断りー」


 遂に、追加分の最後の一杯すら腹に収め終えたジャオメイが、空のジョッキを片手に、胡乱げな視線をゲクラン一行へと向ける。


「聞いてたのかよ」

「そりゃー酔ってないからねー」

「聞いてねぇよ」

「アタシは旅がしたいのー」

「それは聞いたな。だが、俺らのギルドに入ってクエストを受けてても、旅は出来るだろ」

「違うんだなー、これが」


 空になったジョッキを傾け、滴る水滴を舌で受けながら喋るジャオメイに、ゲクランが眉を寄せる。


「何が違うってんだ」

「おっちゃんらがやってんのはー、ギルドのし・ご・と。「旅」ってのはねー、義務なんかじゃなくてー、自由じゃなきゃあ嘘でしょー?」


 へらへらと笑いながら、尚もジョッキを傾け続ける少女の言葉の意味を、ゲクランはしばし考え、次いで盛大に笑い声を上げた。


「あっはっはっ! 成る程な、ちげぇねぇ!」

「あら、振られてしまいましたね」

「しょうがないな。流儀が違うんだ、今回は諦めようぜ」


 ゲクランに続き、残りの二人もあっさりと勧誘を諦め、互いに肩を竦め合う。


「お前ぇらもそうかい?」

「えぇ、まだ旅を始めたばかりです。しばらくは、彼女と一緒に行きたいと思います」

「ごめんなさい」

「ま、気が変わったら何時でもギルドの門を通ってくれ。お前らなら、優秀な冒険者になれるだろうさ」

(いず)れまた、機会があれば何処かでお会いしましょう」

「頑張れよ」


 勧誘を断られた事に気を悪くするでもなく、三人は笑顔のまま、その場を去って行った。

 或いは、ある程度断られる事を前提にしていたような、そんな節もあったのかもしれない。


「良かったの?」

「んー」


 少し意地悪な口調で問い掛けるフイセに、手に持つジョッキを離し、べしゃりとテーブルに突っ伏しながら、ジャオメイは喉を鳴らして返答する。



「正直さー、結構嬉しかったんだよー? 「仲間」何て言ってくれてー」

「?」

「こんな変てこな世界に飛ばされてさー、訳わかんない内に入ってた孤児院は最悪でさー、そこから逃げ出した後もー、結局子供一人に出来る事なんて、何にもなくてさーあ」


 顔を上げず、二人から顔を逸らして、突然脈絡もなく愚痴りだすジャオメイ。


「フイセ君に会った時にねー、羨ましいってのとー、妬ましいってのがあってー。でもさー、妹ちゃんはとっても可愛いしー、ママさんは本当にママさんだしー、ちゃんと家族しててさー。素敵だなー、なんて思うわけよー」


 頭が回っていない為、整理出来ていない言葉の言い回しが、若干支離滅裂になりつつあるが、彼女の言いたい事は、フイセには十分に理解出来た。

 此方の世界で新しく生まれ、軽く聞いただけでも決して幸福とは言い難い人生を送った彼女が、同じ境遇でありながら、母と妹に囲まれ、今まで平穏に過ごして来た彼を見た時の羨望と嫉妬は、フイセの想像を絶するものだったのかもしれない。

 それは単純に、運が良かったか悪かったの違いだ。自分自身ではどうしようもない、巡り合わせの縁が連なり、二人の――そして、この地に生まれた「プレイヤー」たちの人生を分けた。

 そもそも、自分たちがこの異世界に存在する事自体が、理不尽極まりないのだ。その中で、自分より幸せを享受する者がいれば、羨み嫉妬するのは、当然の行為だろう。


「最初に会えたアイツは変人だしさー。それでさー、フイセ君はアイツと違って、アタシの事子供扱いしないしさー、二人ともあったかいしー、短い付き合いなのに、アタシの事「仲間」とか言ってくれちゃうんだよー――嬉しくない訳ないじゃんかー」

「ジャオ……」

「ジャオさん……」

「ちゃんと解ってるよー、いろいろー。フイセ君の目的がー、実は聖教国に行きたいだけでー、観光にはあんまり興味ないのかなーとかー。妹ちゃんを付いて来させたのがー、アタシらが妹ちゃんに合わせて自重するようにーとか、ママさんが考えてたとかねー。でもさー、そういう気遣いとかも全部含めてもー、一緒に居れて嬉しいって思えるんだー」


 テーブルに頬を乗せたまま、つらつらと酔いに任せて真摯な言葉を紡ぐジャオメイに、フイセは彼女の頭に触れ、自分の妹にするように、優しく丁寧に髪を梳かしながら、段々とまどろみ始めた紅髪の少女に、自分たちの気持ちを告げる。


「僕とリラが、ジャオと一緒に旅がしたいって思ってるのも、本当だよ?」

「解ってるよー。だから嬉しいんじゃーん」


 即座に返って来た返答と共に頭を転がし、溶けるようなだらしない笑顔を、フイセたちへと向けて来るジャオメイ。


「三人でさー……いーっぱい……「旅」、しようねー」


 その台詞を最後に、静かな寝息を立て始めた少女の頭をしばらく撫でてから手を離し、フイセはリリエラと視線を合わせて、お互いに小さな笑みをこぼす。


「お兄ちゃん。私、ジャオさんに会えて良かった。たくさん思い出に残る「旅」、したいね」

「うん。一緒に、ね」


 星が瞬き、宴は続く。

 冷め遣らぬ宴会の熱を、何処か遠くに感じながら、眠りこけた紅髪の少女の隣で、兄妹は何時までも笑顔を交し合っていた。







 明けた朝。昨日の騒ぎが嘘のように、町は普段と変わらぬ日常へと戻っていた。


「おはよう、ジャオ」

「おはよう、ジャオさん」

「おあよー……ふ、あぁ~あ……」


 学園に通っていた習慣からか、起床時間が早いフイセとリリエラが、ようやく起きだしたジャオメイと挨拶を交わす。

 兄妹は既に着替えも終わっており、後は寝ぼけ眼で顔を擦る少女の準備待ちの状態だ。


「何か昨日……昨日……っ!?」


 ぼんやりと、何処ともなく視線を彷徨わせていたジャオメイは、時間と共に顔をみるみる高潮させ、ベッドの上で勢いを付けて起き上がる。


「わ、忘れてー!」

「ジャオ?」

「どうしたの? ジャオさん」


 突如叫び声を上げてあたふたと挙動不審になった彼女に、怪訝な表情をする二人。

 どうやら昨日の出来事を、完全に思い出してしまったらしい。自分の髪と同じ位顔を赤くしたジャオメイは、フイセたちに向かって必死に言い訳を捲くし立てる。


「あ、あれは酔った勢いっていうか、全然本心とか、そういうんじゃなくてね! いや、全部嘘って訳でもないかもしれないんだけど……そう、その場のノリみたいな、ね!? 解るよね!?」

「落ち着いて、ジャオ」

「ジャオさんって、意外と照れ屋なんだね」

「何その生優しい目付き。こっち見んなー! もー!」


 全く話を聞く気のない二人の反応に、ジャオメイは顔を染めたまま、シーツを頭から被ってベッドの中へと潜り込んでしまう。

 何時もとは違う、彼女の女の子らしい反応に、フイセとリリエラは、驚きの余り目を(しばたた)かせる。

 或いは今のように、自分の痴態に恥ずかしがっている姿こそが、本来の彼女なのかもしれない。

 結局、彼女をベッドから引き摺り出し、準備を整えさせるまでに、昼近くまで時間を費やす事になってしまった。

 既にこの町で知り合った人たちは、次の目的地に向けて旅立っており、部屋に訪れてくれたそれぞれと、軽い挨拶を交わし終えている。

 その間も、ジャオメイはずっとベッドの中で閉じこもったままだったので、挨拶に来た面々は、その様子に終始首を傾げていたが。


「ぐすんっ、フイセ君と妹ちゃんに弄ばれた……」

「最初から最後まで、ただの自爆だと思うよ?」

「ジャオさん、良い子良い子」

「やめろ妹ちゃん! 今その慰めは逆効果だー!」


 背伸びしても届かない頭の変わりに、彼女の背中を撫でるリリエラに、再び悶え始めるジャオメイ。

 彼女が黒歴史を忘れるのは、しばらく後になりそうだった。







「では、エイドオーブを此方の水晶に近付けて下さい――はい、結構です」


 指定された水色の水晶に、自身のオーブを近付けると、双方が交互に輝き、次いで水晶にオーブから送られた情報が、文字の羅列となって表示される。

 エイドオーブには、討伐した魔物の数を記録する機能が備わっている。記録は四、五日程で白紙化されるので、討伐系の依頼を受けた者たちは、依頼を達成した後は出来るだけ早めにギルドに報告する事が、暗黙の了解となっている。

 今回の契約内容は、戦士職は討伐数に応じて報酬が増加し、魔法職はレベルに応じた報酬と、攻撃の魔法技能(マジックスキル)を使える者は、同じく討伐数によって報酬が追加される。

 回復職と補助職は、活躍の基準が設定し辛いので一律だが、報酬自体が若干高めに設定されている。


「討伐数二十七――此方が今回の報酬となります」

「ありがとうございます」


 ギルドの受付嬢から、報酬の入った袋を両手で受け取り、深々と頭を下げるリリエラ。


「どんなもんだった? 妹ちゃん」

「討伐数二十七だって」

「おー、結構多いね。良く頑張った!」

「えへへ」

「ジャオは行かないの?」

「フイセ君と同じく自重。結構適当にやったけど、それでも何匹倒したとか、数えてないしね」


 フイセの質問に、肩を竦めるジャオメイ。

 リリエラ以外の二人は、今回の報酬を受け取るつもりはなかった。

 フイセはそもそも、オークキングを自身の手で討伐してしまっているので、水晶にそれが乗れば、確実に「勇者」や義母の耳に、その情報が入ってしまう。ジャオメイの場合は、単に他者より異常に活躍していた場合を危惧しての辞退だ。

 二人にしてみれば、旅費を含む金銭的な問題もなく、自分たちの実力ならば、大きな街の総合ギルドにでも行けば、クエスト依頼で簡単に稼ぐ事が出来るので、金銭に固執する必要はない。


「よーし、お小遣いも手に入ったし、次の目的地に向かってレッツゴー!」

「おー!」


 ジャオメイが拳を振り上げると、リリエラも同じように硬貨の詰まった袋を両手で抱えて高々と持ち上げる。

 次の目的地の名はグレンベル――古代文明の跡地に築かれた、闘争と娯楽の街。

 宿の町で起こった騒動が終わり、三人は次の街へと「旅」立った。


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