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トゥライト・テイルズ  作者: タクミンP
第二章・蒼の勇者
11/29

11・宿場町


 宿の町タルデ。

 学園のあるフレイベルドから、ホロロの森を挟んだ場所にあり、王国都市グレンベルと港町ブンゼン、そして湿地地帯へと続く三叉路の中継点となる宿場町である。逆に言えば、それ以外に特に筆頭するもののない町だ。

 昨日、湖で一夜を明かした一行は、オークキングの情報がある森から直接抜けるのは不自然だと考え、この町から垂直方向に歩を進めて、一度街道に出てから町へと到着した。


「ジャオメイ! お前ぇ無事だったのか!?」

「ほえ?」


 町の入り口に入った直後、近くから野太い声が響き、名を告げられたジャオメイが、呆けた返事をする。

 其方を見れば、銀色の鎧に身を固め、背中に大剣を(たずさ)えた、無精髭を生やした黒髪の男が、此方を――正確にはジャオメイを見て驚いている。

 男の両隣には、皮鎧を着けた軽装の青年と、青い宝玉の付いた杖を持った魔道士姿の若い女性が、同じような表情で彼女を見ていた。


「何日も帰って来ねぇから、オレぁてっきり……良かった。本当に良かった」

「え、え~と……」


 此方に近付き、ジャオメイの肩を抱いて(あたま)を垂れる男に、彼女は反応に困った様子で視線を泳がせる。


「良く無事だったな。みんな心配していたんだぜ?」

「全くです。でも、ご無事で何よりでした」

「あ、あはは~……」


 三人から次々と送られる言葉に、乾いた笑い声を上げて、気まずそうに頭を掻く彼女を後ろから観察しながら、リリエラは小さく首を傾げた。


「何だろ?」

「ひょっとしたらだけど、前にジャオが言ってた、探索の依頼を一緒に受けた人たち、かな」

「もしかしてジャオさん、今まで忘れてたの?」


 以前に話を聞いた限りでは、問題はないように軽く流していたが、よくよく考えればオークキングと対峙した状態で、撤退の殿(しんがり)を受け持ったのだ。彼女の強さを知らない者がその場に居れば、それは大層心配する事だろう。


「何でぇ、後ろの連中は?」


 呆れ顔で、挙動不審な鬼娘を眺めていた二人に、ようやく気付いた三者の視線が送られて来る。


「僕はフイセ、この娘は僕の妹で、リリエラといいます。訳有って、彼女と旅をする事になりました」

「よろしくお願いします!」


 自己紹介と共に腰を折るフイセたちを見て、髭の男はその行儀の良い仕草に眉をしかめる。

 若くして礼儀が正しいという事は、それなりの教育を受けられる立場だという事。詰まりは荒事に関係の薄い場所から来たか、まだ慣れていない初心者の可能性が高いからだ。


「なよなよしてんなぁ。ちゃんと肉食ってるか? 坊主。オレはゲクラン、隣に居るのは連れのニッカとリコー。全員が冒険者ギルド、「未踏の木靴(ワンダーワンゲル)」所属だ」

「よろしくな」

「どうぞ、お見知り置きを」


 ゲクランの紹介を受け、皮鎧を着けた優男のニッカと、魔道士姿の女性リコーがそれぞれ軽く挨拶をする。

 ニッカは軽装と腰の長剣から見て、素早さ重視の剣士。リコーの方はローブに杖の典型的な「魔道士(マジシャン)」姿なので、後衛の補助職辺りだろうか。

 重装備の盾役兼突撃役だろうゲクランを加えれば、十分にバランスの取れたパーティーだと、フイセは分析する。


「五大ギルドの構成員ですか」

「下っ端だがな」


 「未踏の木靴(ワンダーワンゲル)」は、傭兵ギルド「四剣双獣(キャンサーソード)」と並ぶ一大ギルドだ。所属者は実に数十万人にも上り、主に名前の通り、未踏破地域への進行や、危険地帯への調査等がその活動内容となっている。


「三人とも、ひょっとしてアタシ待ちだった?」


 ジャオメイの質問に、首を振るゲクラン。


「いや、確かにそれも一つだが、オレたちが出合ったオークキングがこっちに攻めて来る可能性も有るからな。ギルドに報告した後、戦闘要員として契約してるのさ」

「今朝出立した斥候からの新しい情報では、キングは「森羅の庭」から「万象の(その)」に居場所を移動し、オークたちを集めているそうです。早ければ二、三日中に何処かへ進行を始めるかもしれません」

「え? でも……」

「他に、何か情報は有りますか?」


 説明を引き継いだリコーに、何かを言い掛けるジャオメイを制し、フイセが質問を重ねる。


「後他に、お前たちが知らない情報って言やぁ、昨日この町に「勇者」が来た事ぐらいだな」

「「勇者」?」


 ゲクランの口から出て来た単語に、疑問符を上げるジャオメイ。

 「勇者」は、ゲーム中においても実在したNPCの一つで、エルダー教の総本山である聖教国が掲げる、ある種の特権階級であり、同時に最大戦力でもある集団の事を指す。

 主神がこの世界に最初に使わした使徒、オリヘンの意味を併せ持つその言葉を受け継いだ者たちは、他国でも聖教国の大使として、ある程度の権限が与えられており、凶悪な犯罪者を取り締まったり、街を襲う大型の魔物の討伐を請け負ったりする、この世界における「英雄」の体現者たちなのである。


「フレイベルドの学園に用事が有るそうで、偶々この町を通ったみたいですね」

「これでもし、奴らがこっちに攻めて来たとしても、オレたち勝ち戦は決まったようなもんって訳だ」

「ふぅん」


 リコーとニッカの説明に生返事を返すジャオメイ。彼女が今何を考えているかは、フイセとリリエラにも想像が付く。

 フイセたち三人は、間違いなく昨日オークキングを討伐して此処に居るのだ。斥候が今朝出発したのなら、既にその身は崩壊していた筈であり、「何も見付けられなかった」と報告がないとおかしいのだ。


「とりあえず、僕らも近くのギルドで契約して、一時は宿で待機しておこう」

「なんだぁ、そんな細腕で戦えんのかよ、坊主?」

「馬鹿にすんなよぉ、フイセ君は私と同じ位つおいんだから。妹ちゃんだって、もうレベルは二十なんだじぇい?」

「へぇ、見掛けに寄らないってやつだ」

「それは頼もしいですね」


 線の細いフイセの身体を見て、鼻を鳴らすゲクランに、ジャオメイがフォローを入れた事で、三人の見る目が変わる。

 妹がレベル二十ならば、恐らく兄はそれ以上。ジャオメイの実力は一緒にクエストを受けて知っているだけに、信用が出来ると判断したのだろう。

 最も、ゲクランたちと共に行動していた際、彼女がかなり手加減していた事や、フイセたちの戦闘力が規格外である事等、三人は知る由もない。


「ま、今は一人でも戦力が必要なんだ。人数が増えるなら、大歓迎ってもんよ」

「防衛戦力としての契約は、総合ギルドが一括して行っているそうです。このまま中央の通りを行った所にありますので、迷う事はないでしょう」

「オレたちは、「森の梯子亭」に泊まってる。何かあったら、連絡してくれよな」

「ありがとうございます」

「じゃあな。ジャオメイ、無事で良かったぜ」

「あんがとー。じゃあねー」


 離れていく三人に、リリエラは大きく頭を下げ、ジャオメイは手を振って彼らを見送った。


「良い人たちだね」

「まぁね。でも、いきなりでびっくらしちゃったよ」

「忘れてるジャオさんが悪いんでしょ」

「すいましぇん」


 リリエラの指摘に、素直に頭を下げるジャオメイ。


「でも、どういう事? ちゃんと倒したよね、アタシたち」

「それも含めて、詳しい情報を聞く為に、総合ギルドに顔を出そうか」

「「はーい」」


 唸るジャオメイに、フイセが提案すると、女性二人は諸手を上げて賛成の意を示した。







 通い慣れたフレイベルドのそれから、随分と狭い印象を受ける総合ギルドの中で、三人はギルド嬢に促されるまま、契約書にサインを記す。


「はい、ありがとうございます。これで有事の際、戦力として活躍して頂ければ、その戦果に応じて報酬を支払わさせて頂きます」

「僕たちは今日町に着いたばかりなんです。詳しい情報が知りたいのですが」

「そうですか……」


 フイセの言葉に、受付嬢は申し訳なさそうに視線を下げる。


「此方としても、二日前に報告を受けたばかりで、今日帰って来た斥候からの情報以外、ほとんど存在しないというのが現状です。そちらに関しては掲示板に張り紙をしてありますので、それをご覧になられて下さい」

「そうですか、ありがとうございます」


 受付嬢に礼を言い、その場を離れる三人。


「対応、遅くない?」

「平和な地域だからね。魔物の強さもそれほどじゃないし、こんな大騒ぎは本当にまれなんだと思うよ」


 声を小さくしたジャオメイの苦言に、肩をすくめるフイセ。

 近くに学園が設立されている事からも解るように、この辺りは比較的大きな脅威の存在しない、安全な地帯だ。フイセの言うように、オーク族がこの近辺での最強の魔物であり、しかも彼らは森の奥地に引き篭もり外には出て来ないので、脅威という点では、最弱の亜人であるゴブリンたちの方が被害が多い程だ。

 結果、この辺りは初心者冒険者が安心して鍛えられる格好の狩場であり、今回のように十年に一度も起こらないような、不測の事態に対する用意など、する必要がなかったのだ。


「まずいかな?」

「どうだろ。そもそもゲームでのオークキング戦は、森の中で決着が付くイベントだったからね。彼らの進撃がどの程度の規模なのかなんて、全く解らないし」

「そかー。ま、なるようになるって感じかなかーな」

「お兄ちゃん、掲示板ってこれかな?」


 リリエラが示した先にある、大きな木板に張られた一枚の紙には、やはり先程ゲクランたちから聞いた情報以上の事は、記されていなかった。


「むぅ、特に新しい情報もないっぽいね」

「仕方ないさ。とりあえず、宿を取ろう。その後は状況見て臨機応変に、だね」

「それって結局、流れ任せって事じゃない?」

「今の所はね。「(キング)」が森から何処に進行するかも解らない以上は、様子見しか出来ないよ」

「大丈夫かな、お母さんたち……」

フレイベルド(あっち)方面に行ってくれれば、戦力も十分だろうし、助かるんだけどなぁ」

「もう、ジャオさん!」


 不安に顔を(かげ)らせていたリリエラは、ジャオメイの不謹慎な発言に、すぐさま顔を膨らませた。

 ジャオメイの発言は、正鵠を射ている。

 剣士職最高位、「豪剣士(グラディエイター)」のグレイシアに加え、魔法職の最高位である「大賢者(マスターセージ)」たる学園長が居る他、学園長が各地から集めた優秀な教師たちと、未熟ながらも切磋琢磨を繰り返している生徒たちが布陣する都市に、心配の必要など皆無だ。

 だからといって、肉親を心配しないというのも、リリエラには到底出来ない相談だった。


「すみません。貴方がたも、防衛に参加して頂けるとお伺いしましたので、挨拶に参りました」


 そんな三人の、後ろから不意に声が掛けられた。

 振り向けば、蒼空の鎧を身に(まと)った一人の美しい女性が、此方に向かって微笑掛けてくる。

 青空の色をそのまま溶かし込んだような、建物の中であっても輝きを保つ、蒼く美しい長髪。同色の瞳をした、その線の細い顔立ちの整いは、最早造形美とさえ言って過言ではないだろう。

 腰に挿す長剣は、明らかに一般の品とは一線を隔す装飾と、肌で感じ取れる程の濃厚な魔力を放ち、その武器と紺青の鎧の中央に大きく刻まれた、聖教国の紋章を見て、フイセとジャオメイは彼女が「勇者」であると即座に確信する。


「私は聖教国教皇直下、「勇者」ウルティエラ・L・シンクレアと申します」


 深く腰を折る女性、ウルティエラ。

 学園長からこの世界の情報を与えられていたフイセには、当然彼女の名前も耳にしていた。


「「最優の勇者」……ですか」

「お恥ずかしながら、教皇様からは「水月すいげつ」の二つ名を頂いております」

「かぁっくいぃ~」

「ありがとうございます」


 洗練された動作にか、はたまたその「二つ名」か――ジャオメイが尊敬に近い眼差しで、ウルティエラを見下ろす。


「もしオークキングが此方に進行して来た際には、この町を守る為、皆様方のお力をお借りしたいと思います」

「は、はひっ。こ、ここ、此方こそ、「勇者」様と共にた、戦えるだなんて、こ、光栄ですっ」

「妹ちゃん、緊張し過ぎ……」

「だ、だってぇ」


 三人の中で、唯一此方の世界の住人として、等身大の目線で「勇者」を見るリリエラは、見るまでもなくがちがちに緊張している。最も、彼女がここまで緊張する理由は、それだけではないのだが。


「面白い方々ですね」


 ジャオメイの指摘に、半泣きになって振り返るリリエラを見ながら、上品にクスクスと笑みを浮かべるウルティエラ。


「すみません。妹は、貴女のような「勇者」に憧れている所がありまして。特に「水月」と「十戒(じっかい)」の「勇者」には熱心なファンで、二人の映像クリスタルを購入して、旅の持ち物に入れて来る程なんですよ」

「まぁ、それは光栄ですね」

「お、お兄ちゃん!?」


 無神経に自身の秘密をばらされ、真っ赤になって抗議の声を上げるリリエラ。


「貴女の誇れる「勇者」であれるよう、より一層の努力に励みたいと思います。貴女もどうか、己に誇れる人と成れるよう、頑張って下さいね」

「は、はい……」


 満面の笑顔で差し出された右手を、呆然と握り返すリリエラの顔は、大人の女性として一身の憧れが篭っている。


「では、失礼致します」


 そう言って、再び頭を下げた「勇者」は、そのままギルド会館の奥へと消えていった。


「ほぅ……」


 その凛とした後姿を見送り、恍惚の溜息を吐く栗色髪の少女。


「妹ちゃんは、ああいうのが憧れかぁ」

「今のままでも、十分可愛いと思うんだけどね」

「解ってないなぁフイセ君。可愛いより美人でありたいってのは、何処の少女も一度は思う願望なんだよ?」

「そんなものかな。ジャオもそうなの?」

「アタシの身体見たら解るっしょ?」

「あぁ、この身体、作ったアバターと瓜二つだもんね。まぁ、僕も人の事は言えないかな」


 両手を広げて自分の身体を見せ付けるジャオメイに、フイセも己の身体を見下ろして苦笑した。

 成長する毎に、自身が作成したアバターに近付いていく身体に、恥ずかしさを覚えなくなったのは、何時頃だっただろうか。


「お兄ちゃん!」

「あいた」


 そんな感傷に浸ろうとするフイセを、彼の足を踏み付けて現実に引き戻したのは、先程の暴露に怒り心頭の妹だった。


「何であんな恥ずかしい事教えちゃうの!? 酷いよ!」

「お陰で憧れてた「勇者」と握手出来たから、良かったと思うんだけど」

「良くないよ! 握手出来たのは嬉しいけど、嬉しいけどぉ……うぅ~」

「解る、解るよ妹ちゃん。ほら、唐変木のお兄ちゃんなんか放っといて、アタシの胸でお泣きよ」

「ジャオさ~ん」

「おー、よしよし」

「?」


 二人の熱い抱擁を見ながら、首を傾ける事しか出来ないフイセ。

 彼が妹の機微に気付くのは、或いは永遠にないのかもしれない。


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