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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

オリジナル

君と共に歩む

作者: 徳永 剣

 俺は最近、気になる奴がいる。そいつは明るくてかっこよくて女共がこぞって告白をする様ないい男だ。そして、そいつは俺の大の親友…いけないと分かってはいるが俺はあいつが好きでたまらない。

 「どうした? 今日のお前変だぞ?」

 声をかけられた時、俺は動揺してそっぽを向いた。

 「なんだなんだ? お前、俺に隠れて何考えてんだよ!」

 俺の肩に手を回して笑顔で俺を見た。まずい…これはまずい。自分の中の理性が飛びそうだ。

 「いや…なんでも…」

 まずい…まずい…これ以上は…。

 「とと、そういえば、今日は買い物を母さんから頼まれてたな。どうせお前暇だろ? 一緒に行こうぜ」

 「え? ああ」

 俺は無意識に了承していた。

 「よっしゃ! んじゃ俺の家の近くのスーパーまでレッツゴー」

 「って待てって!」

 …あいつにも好きな人っているのかな? いないで欲しいな。ずっと俺だけの親友でいて欲しい。

 「待ってたらタイムサービス品なくなるだろ!」

 全く俺の気も知らないで。

 「まっててー!」


 「ゼェゼェ…」

 「相変わらず体力無いなー」

 俺はお前と違って運動系じゃないからきついんだよ。つか、学校からここまで全力疾走で走るとか俺には無理だ。

 「うるさい…お前が速いんだよ…」

 俺は肩で大きく息をしながらゆっくり歩いた。

 「ちゃんとついてきてるかー?」

 こいつ…余裕な顔しやがって…俺だって凄い所見せつけて…ってこいつに威張れるとこなんて勉強しかないな。

 「ほら、行くぞ」

 俺の手を引いてスーパーに入った。思いの外、手が大きくて驚いた。そして、とても温かった。

 「どうした?」

 「あ、その…なんでもないからさっさと行くぞ」

 俺は火照った顔を見られない様前にでた。

 「変なの」

 全部お前の所為だよ。そう言いたかった。だけど、こいつのことを考えるとそんなことは言えなかった。

 「お、この魚割引だ…今日は焼き魚でいいか」

 「それよりこっちの魚の方がよくないか? 身も多いし」

 俺は隣の魚を指指して言った。

 「わかってないなー。今の時期は身のしまったこいつが美味いんだよ。今度、弁当作ってやろうか?」

 こいつの弁当? それはとっても食べたい。願ってもない申し出だ。

 「お前の弁当? 料理上手いのか?」

 「ああ、頼む」って言いたかったけど…やっぱりダメだ。そんな勇気が出ない。

 「おいおい、俺の腕を甘く見てるのか? これでも家族の晩ご飯をよく俺が作ってるんだぞ?」

 こいつの両親はいつも共働きで夜はいない。だから母親がわりに弟二人の世話をしている。全くいいお兄さんだ。

 「甘く見てるつもりはないけど、旨いのかなーって思うだろ?」

 遠まわしに遠まわしに…

 「そこまで言うなら作ってやんね」

 …みすった。話の持って行き方を間違えた…。折角、こいつの弁当を食べれるチャンスだったのに…。

 「だろうな」

 なんとか平然を装って答えた。けど内心悔しくて悶絶してる。

 「あ、そうだ。今度の日曜暇か?」

 思い出したかの葉にそう言った。

 急になんだ? いきなりそんな話をして。

 「何かあるのか?」

 「ああ、昨日母さんの知り合いの人から遊園地の割引券渡されてさ。行く相手いないからお前はどうかな?って思って」

 こいつと二人で遊園地?

 「ま、まぁ行く相手が居ないんだったら行ってもいいけど」

 本気で嬉しかった。こいつが俺とどこかに行こうなんて誘ってくれるなんて今までなかったから。

 「そかそか。なら、日曜の朝現地集合な」

 「わかった」

 嬉しそうに笑うと魚をレジに持っていった。

 「さて、買い物も済んだし、うちに来いよ。弁当は作ってやらんが、晩飯なら作ってやるよ」

 俺の手を掴んでそう言うとグイグイと引っ張った。

 「ああ、期待してる」

 結論、こいつの料理はかなり旨かった。



 とうとうこの日がやってきた。あいつとの遊園地で遊ぶその日が。楽しみ過ぎて今日は寝れなくて体が重い。

 「あいつ来ないな…」

 俺はあいつを待ってかれこれ三十分が過ぎていた。まぁ俺が早く来すぎたって言うのもあるんだけど。集合時間一時間前に来るとか…。それだけ嬉しかったんだって思うけど。

 「…あー! 俺が一番だと思ったのになー!」

 おっと来た様だ。集合時間三十分前に来た様だ。俺はあいつに大きく手を振った。

 「ああ、今日はちょっと早く目が覚めてな」

 俺は嬉しいのを我慢しながら冷静に言った。これじゃあ、まるでこれはデートだ。相手は俺が好きな男…。

 「そかそか…で、いつからいたんだ?」

 こいつ…ニヤニヤしながら…。

 「お前が来る少し前だよ」

 本当は集合時間一時間前からだけどな。

 「へぇー…まぁいいか。そんじゃ行くか」

 俺たちは遊園地の入口についた。

 この遊園地はなかなか有名で開場三十分前なのにもう人手溢れかえっていた。

 「これはすごいな…さて並ぶか」

 列に驚きながらもすごいなーで終わらせるとは…相変わらずマイペースだな。

 「そう言えばなんで男二人で遊園地なんだ? お前なら女を連れてくるのは簡単だろ?」

 何を期待してるんだろう? お前との方が良いって言ってもらいたいような質問を。

 「ん? いやー、女は嫌だな。うるさいし、何より…」

 後ろを振り返って

 「…はぁ。やっぱりついてきてる」

 俺も振り返るとクラスの女子が俺たちを見ていた。

 「ああいうのと遊園地とか嫌なんだよ。面倒だし。それならお前との方が気が楽だし。何より楽しいからさ」

 そう笑顔で言うと俺の手を掴んだ。

 俺の心臓が跳ね上がって飛び出るかと思った。

 「ほれ、お前の分の割引券」

 俺の手には遊園地の半額券があった。

 「ああ」

 普通に手を握られたと思ってドキッとして損した。

 「さて、フリーパスを買うか」

 俺たちは受付でフリーパスを買った。そして

 「さて女子達が俺たちに近づく前に走るぞ」

 そう言うと俺の前を走った。俺は見失わないよう後に続いた。

 「もてるのも考え物だな」

 俺は皮肉を込めて言った。

 「全くだ…ってあいつらも走ってきた!」

 女子二人が俺たちの姿を見てダッシュで追いかけてきた。

 「まったくもう!」

 これじゃ落ち着いて遊べない!

 「ハハハハ、ほら、お前も全力走らないとと追いつかれるぞ」

 「ハァハァ…ちょっときつい…どこかのアトラクションに行こうぜ」

 こいつの体力について行ったらまず持たない。俺は近くのアトラクションに逃げ込んだ。このアトラクションは…ガラスの迷宮? 流石に男二人じゃつらいな。

でもここは出口がいくつもあるから逃げるにはもってこいだけど。

 「いやー、ここかー懐かしいなー。覚えてるか? 昔、遊園地に一緒に行ったろ?」


 ああ、小学校の頃か…懐かしいなー。この頃からだっけ? こいつのことが好きになったのって。

 「ああ、お前が迷子になって泣いてたよなー」

 「って! お前もだろ!」

 「え? そうだっけ?」

 確かにそうだ。あの時迷宮から出れないで二人泣きながら出口を探したっけ。

 「そうだ!」

 俺はムキになって言った。

 「悪い悪い」

 あいつは笑いながら迷宮の奥に進んだ。

 「いやー、やっぱりすごいなここ。ゴールに着くまで三十分はかかるって評判だっけか?」

 そういえばそんな噂を聞いたこともあるな。ここの遊園地はとりあえずアトラクションの長さが半端じゃないって。

 「まぁそんだけでかけりゃあいつらもまけるだろう」

 不意にこのアトラクションから出たくないと思った。今はこいつと俺の二人だけの空間…外に出てしまえば女子と出会うかもしれない…そんなことを思うとこの時間がずっと続いてくれたら…。

 「さて、とっととここから出ようぜ!」

 まぁこいつはそんな事思ってないだろうけど

 「そうだな。ってゴールどこだよ」

 「そんなの適当に歩き回ってれば抜けるだろ」

 ニヤリと笑うと走り出した。

 「って! お前!こんな所で走ったら」

 俺がそう言うと案の定、鏡の壁に衝突した。

 「おいおい、大丈夫かよ」

 俺は手を差し出してこいつを起こそうとした。

 「ハッハッハ! やっぱ方向感覚狂うな」

 笑ってる場合かよ。俺は引き上げようとした。けど、思いの外こいつが重くてそのまま倒れた。

 「イテテ…、お前なー。起こすならもっと力入れろよ」

 …あれ? 俺今どう言う体勢だ?

 「ん? どうした? 重いからどいてくれって」

 俺はこいつに覆いかぶさるように倒れていた。

 「え? あ、悪い」

 俺は勢い良く立ち上がると先に進んだ。

 「おいおい、今度は放置かよ」

 やばい心臓が止まりそうだ。あいつの顔が俺の目の前にあって。あいつの体温を全身で感じて…

 「ん? どうした? 大丈夫か?」

 気がついたらあいつの顔が真隣にあった。

 「え?」

 「顔が真っ赤だぞ?」

 俺は慌てて顔を触った。すごい熱っぽくなっていた。

 「えーっと…」

 何か何か言わないと

 「あー、やっぱ男同士抱き合ったから恥ずかしかったか。いやー仕方ないよなー」

 「え? あ、ああそうだな。いやー驚いた。まさかお前があそこまで重いなんて」

 よし、これで誤魔化せる。

 「いやいや、お前が非力すぎるんだよ。言うてもまぁ軽い方だからな」

 「そんなことねぇよ」

 俺たちは笑いながら歩いた。心臓は今にも止まりそうなほど早く鼓動していた。

 「おっと、出口か」

 目の前の大きな扉があった。そこには出口とだけ書いてあった。

 「みたいだな…」

 ああ、夢のような時間ももう終わりか。

 「さて…絶叫系いくぞ!」

 俺の手を引いてダッシュで外に出た。

 「絶叫?」

 そう言えば、俺…絶叫系苦手だったの忘れてた。

 「あ、お前苦手だっけ?」

 ニヤリと笑うと俺の手を強く引っ張った。

 「なら、なおさら行かないとな!」

 「いやいや、普通そういう奴いたら辞めにしないか?」

 俺は無意味だとわかっていてもつっこまずにはいられなかった。

 「苦手なもんは克服しないとな」

 ああ、やっぱり逃がす気ないな。

 「はぁ…」



 俺は今とある絶叫マシーンに乗っている…フリーフォールという高いところから落っこちるあれだ…。

 「たけぇ…」

 高さは六十メートルって書いてあったな…。とりあえずここにある者は長い…ジェットコースターも乗ったら十分は帰って来れない。

 「なんだ。あんまし大したこと無いな」

 ケラケラと笑いながら下を眺めてる…こいつに恐怖心ってものはないのか?

 「いやいや、十分高いだろ。人が米粒みたいに見えるぞ」

 「そんくらいなきゃ絶叫系って呼べないからな。もう少し高めでもよかったな」

 これ以上高く? 想像したら意識が遠のきそうになった。

 「お、始まるぞ」

 開始の合図の音が聞こえる…もう少しだけ待って欲しい。心の準備が…。

 そう思った瞬間俺の体から重さが消えた。

 「オオオオオォォォォォーーーーーー……」

 俺は絶叫しながら地面に吸い込まれるように落ちていった。

 「ハハハハハ!」

 となりで笑ってる…こいつ…。


 「ハァハァ…」

 俺は息を荒らげてベンチに座っていた。

 「大丈夫か?」

 「大丈夫なわけあるか…ってあれ?」

 あまりの恐怖に気付かなかったけど俺のコンタクトレンズがない。

 「どうした?」

 「コンタクトが無い?」

 「何?」

 さっきのフリーフォールの時だ! そう言えば叫んでる時目から何かが取れる感じがしたのを思い出した。

 「てか、お前コンタクトだったのか」

 驚いた様に俺を見た。

 「うっうるさい!」

 こいつには黙っていたが。高校に上がる時に俺はコンタクトを付けていた。

 「はぁ…こんなこともあろうかとメガネを持ってきておいてよかった」

 どうせこいつのことだから絶叫系に乗るだろうと思ってメガネを持ってきておいた。コンタクトを落とすと分かっていたからだ。

 「うわ…」

 なんだ? 俺の顔を見て…

 「お前ってさ」

 「なんだよ」

 「メガネかけると女みたいだな」

 うっ…だからメガネはかけたくなかったんだ。俺は昔から童顔でメガネをかけると「可愛い」とか「女の子に生まれてきたらよかったのにね」と家族から言われたから俺はコンタクトを付けていたんだ。

 「うるさい! 俺だってこんな顔に生まれたくなかった!」

 「おまけに声もそこまで低くないから少し声を調整すれば完全女だな」

 笑いながらそう言うと

 「いやーまさかこんなところでお前の秘密も見れたとは…さて次行くか」

 俺は手を引かれてズルズルと次の乗り物へ…勿論こいつの大好きな絶叫系だ。

 「ちょっと乗る前からそんなしんどそうな顔するなよ」

 「お前が俺のが苦手物ばっか乗るからだろ」

 俺は肩を落としながらそう言うとジェットコースターの階段を上った。一歩一歩がすごく重い。

 「そんなしんどそうな顔してたら折角の可愛い顔が台無しだぞ」

 クスクスと笑いながらそう言うとジェットコースターに乗った。

 「かわいい…ね…」

 俺は小さくそう呟いた。人から可愛いと言われるのはあんまり嬉しくはないがこいつからそう言われるのは悪くないな。

 「全く、鈍感って奴はいいよな。人のことを気にしなくていいんだから」

 俺はそう言うとこいつの隣の席に乗った。

 「鈍感…あー良さそうだな。なんせ気づかないって幸せの事だからな」

 お前のことだけどな…まぁいつもいろんな女子に告白されていればそう思うのも仕方ないか。

 「お!」

 ジェットコースターの発信のアラームが鳴った。そして、コースターは前に進む。

 「そう言えば」

 俺はふと気づいた。

 「このジェットコースターって」

 「ああ、乗ったら最後十近くは戻ってこれないな」

 こいつが可愛いなんて言うからうっかり忘れていた。そう考えてるうちに目の前のレールが見えなくなった。

 「俺の…ウワーーーーー!」

 ジェットコースターは俺の悲鳴と共に高速で走りだした。地獄の十分だ。



 「ハァハァ…」

 「大丈夫か?」

 心配そうに声をかけるなら最初から乗せないでくれ。

 「大丈夫な…」

 「よし、大丈夫そうだな。次行くぞー!」

 「おい!」

 そう言うとまた手をつないで俺をズルズル引っ張った。全くこいつは卑怯だ。こいつに手を握られると言うことを聞いてしまう。

 「今度は…」

 俺は少し安心した。そして凍りついた。

 「ええと…」

 「おう、一度でいいからここ行きたかったんだ」

 ここっていわくつきの建物を使ったお化け屋敷…。ここは遊園地から少し離れた位置にある廃病院。オーナーが趣味で購入してお化け屋敷に改造したらしい…。本物も出ると噂で、マニアが良く来る反面、一度入ると三十分は出て来れず。脱落者は多数。時給はかなりいいのに誰もバイトが来ないという恐ろしい場所である。

 「おい…お前まじか?」

 「え? 何が不満なんだ?」

 ウキウキした顔でそれを言うか。全く霊感零はいいよな。まぁ俺も怖がりなだけで霊感というのはないんだけど。

 「いいじゃん。見ろよこの行列。面白そうじゃん」

 「はぁ…」

 俺は大きくため息を着くと列に並んだ。

 「まぁこれ人数二人まで行けるから別に怖くないだろ」

 二人か…まぁこいつとならまぁいいか。

 「ああ」


 そして、俺たちの番が来た。

 「次俺らか」

 「あ!」

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。俺はゆっくり後ろを振り返った。そこにいたのはさっきまいたはずのうちの学校の女子だった。

 「やっと見つけたー!」

 「あちゃー、見つかったか」

 残念そうにそう言うと女子に手を振った。

 「はぁ…」

 俺は大きくため息を吐いた。こいつとの二人だけの時間は終わりか…。

 「やっと見つけたー!」

 女子が近づいてきた。

 「なんで逃げるのよー! 探すの大変だったんだから」

 「んー、なんとなくかな?」

 あいつははぐらかしながらそう言うと俺を見た。

 「ああ、そうだな。まぁ」

 俺も流すようにそう言った。

 「…だれ?」

 女子が俺の顔を見てそう言った。どうやらメガネをかけると別人に見えるようだ。

 「ん? ……」

 口元が笑ってる…何を考えてる?

 「こいつは俺といつも一緒にいる○○なんだぜ?」

 女子の顔が一瞬固まった。そして、俺を囲むと

 「何なに、○○君? うっそ! ここまで変わるものなの!」

 「可愛いー!」

 女子が俺にそう言うと俺の体をベタベタと触り出した。

 「ちょっとまて! 触るな! ってそこは横腹!」

 これだから女子って嫌いなんだよな。

 「あのお客様」

 ふと誰かに声をかけられた。

 「え?」

 俺たちは声のする方を見た。困った顔でスタッフが俺たちを見ていた。

 「ああ、すいません今行きます」

 俺はそう言うと前に出た。

 「そんじゃ私は○○君と一緒に」

 女子が俺の肩を掴んでそう言った。

 「ほんと! なら私は」

 あいつの腕を掴むとあいつを引っ張って病院の中へと入っていった。

 「なんで俺なんだ?」

 少し不思議に思って俺は聞いた。まぁこのアトラクションを抜けてからこれからのことを考えればいい。とりあえずは現状分析だ。

 「なんでって…なんでだろう? ○○君が予想以上に可愛くなったからかな?」

 「可愛いねー」

 なんだか少しだけ不快感を覚えた。あいつに言われたときは心臓がドキドキしたのに。


 「うん、まるで女の子みたい」

 全然楽しくない…。やっぱりあいつと一緒にいたほうが楽しい。

 「そうかい」

 俺は適当に答えた。

 「二人のこと気になる?」

 彼女はそう答えると俺の右腕を掴んだ。

 「なら二人に追いつかないとね」

 …彼女は何を考えているのだろう? なんで俺とあいつが一緒にいたいってわかるのだろう?

 「お兄さん。待つの面倒だから行くね!」

 俺の手を引きながら彼女はお化け屋敷に入っていった。

 「ちょ! ちょっと君!」

 スタッフさんの声が後ろで聞こえた。

 「そうと決まれば合流合流!」

 なんだろう? なんでこんなに楽しそうなんだろうか?

 「なんで?」

 「だって…楽しいじゃない。こういうのって」

 何が楽しいんだろうか?

 「何が…」

 俺が言い切る前に彼女は俺の口に指を当てて

 「いいの、私が楽しいんだから」

 「訳が分からない」

 俺は小さくそう言うと彼女に強く引っ張られて前に進んだ。オバケとかそういうのは全部無視して。

 「きゃーーー!」

 この声はあいつと一緒に言った女の声だ。

 「お! これは近いね」

 彼女はそう言うと俺をさらに強く引っ張った。ドンドン前に進む彼女はなんでそんなに楽しそうなのだろうか? 自分とじゃ楽しくないと言われているようなものなのに。

 「なんであんたは楽しそうなんだ?」

 俺は聞いてみた。

 「なんで? んーそうだなー。二人が一緒の方が好きだからかな?」

 俺とあいつが一緒にいるのがいい?

 「それってどういう?」

 「あ! 見つけた!」

 彼女が指さすとその先に二人がいた、あいつの腕にしがみつく女の姿…非常に不愉快だった。

 「二人とも仲良さそうだね…ってどうしたの? 怖い顔して」

 俺は彼女を無視して二人に近づいた。

 「ん? なんだ。もう追いついたのか。普通に進んでたつもりだったんだけどな」

 あいつはケラケラ笑いながら俺を見てそう言った。

 「ん? どうした?」

 俺は無言で女の腕をあいつから引きはがすとこいつの手を引いて奥に進んだ。

 女もこいつも惚けて俺を見ていた。

 「ちょっと! 今二人きりで遊んでるんだから邪魔しないでよ!」

 女が我にかえってそういうとあいつの手を引っ張った。俺も負けじと引っ張り返した。

 「うるさい! 最初から俺とこいつで遊んでたんだ。後からノコノコ入ってきて邪魔なのはお前らの方だ!」

 「イダダダダ!」

 悲鳴を上げながらあいつは俺と女の引っ張り合いに耐えていた。

 「ちょっとまて! 落ち着け! 良いから!」

 そう言いながらあいつは何とか俺たちの引っ張り合いから逃げようと腕を振った。

 「「やだ!」」

 俺と女は同時にそう言った。

 「おおーい! お前も見てないで助けてくれー!」

 「え?」

 彼女は俺と女の取り合いをニヤニヤしながら見ていた。こいつは何を考えているのだろうか?

 「んー…どうしよっかな?」

 明らかに助ける気はないようだ。

 「もう、いい加減にしろー!」

 俺と女の手を振りほどいてあいつは一人先に進んでしまった。俺は何も考えずあいつの後を追った。

 「待ちなさいよ!」

 女も俺の後を付いてきた。

 「はぁ…」

 あいつがため息をつくのが聞こえた。そして、強く走り出した。

 「あ!」

 女はそういうと走ってきた。こいつだけには負けない。

 やっぱりあいつは速い。俺たちの足の速度じゃ追いつけない。けど、離されているわけではない。わざと速度を合わせているようだ。

 「ハァハァ…」

 俺は肩で息をしながらあいつを追い続けた。

 女は俺の少し後ろで走っていた。俺は追い抜く様にもっと力強く走った。



 気がついたら俺はお化け屋敷の外に出ていた。いわくつきなんて大したこと無いな。

 「はぁ…全く、お前どうしたんだよ?」

 あんだけ走ったのに息一つ乱してない…さすがというべきか。

 「何って…俺はお前とあいつが一緒にいるのが気に入らなかっただけだ」

 「…んー、なんでそう気になるんだ?」

 なんでって…そんなの決まってる…。

 「俺はお前が好きだからだ!」

 「…え?」

 勢いで言ってしまった…あいつも動揺して目が点になってる。

 「もう一回いいか?」

 こうなればヤケクソだ!

 「何度でも言ってやるよ! 俺はお前が大好きだ! この世の誰よりもお前のことが大好きだ!」

 「…あんたそうだったの?」

 後ろから声が聞こえた。二人が俺たちに追いつた様だ。

 「……」

 もう一人は黙って俺を見ていた。

 「…そうか。お前…俺のことが好きだったのか」

 少し恥ずかしそうにあいつは言うと

 「よかった。俺もだ」

 俺は予想していない答えに戸惑いを覚えた。後ろの二人もそうだ。ボーッとして俺たち二人を見ていた。当たり前の反応といってしまえば当たり前なのだが。

 「いやー、俺も悩んでたんだよなー。同性を好きになるなんて思ってなかったし。まぁでも両想いなら問題ないか」

 そう言うと笑顔で俺を抱きしめた。

 「よかったよかった」

 俺もあいつを抱きしめた。嬉しかった。こいつが俺の事が好きで、親友の域を超えることができるなんて。

 「…私じゃだめなの?」

 女がそう言うと自分の思いを言った。

 「私だってあなたのことが大好きなのに!」

 知ってる。俺は良くこいつのことを好きだって友人達に話している事を。

 「…そうだなー」

 俺を離して女の方に近づいていた。

 「俺ってさ。友達がいないんだよ」

 少し感傷に浸りながら話し始めた。

 「自分で言うのはなんだが。俺は女にもてる」

 もてすぎて何度ヤキモチを焼いたかわからないけどな。

 「おかげで男子にかなり嫌われた。もてるから女と話しとけっていつも言われてた。いつも一人だった。だけど、こいつだけはいつも傍にいてくれた。何があっても一緒に居てくれた。俺はそれだけで嬉しかった」

 「でも…でも…」

 涙目になってあいつを見ている。

 「まぁ俺はお前の事は嫌いじゃないし、どちらかというと好きの分類だし」

 そう言うと優しく女を抱きしめた。

 「まぁあいつほどじゃないけどな」

 「うぅ…」

 泣きながらあいつを抱きしめていた。少しむかつく。空気を読むならここは耐えるべきなのかもしれないけど。これは我慢できない。

 「お前の言い分はわかったから離れろ!」

 俺は二人を離しながら言った。

 二人が抱き合ってる姿はとても不愉快でならなかった。

 「こいつは俺のものだ!」

 俺はそう言うとあいつの唇に俺の唇を重ねた。初めてのキスだった。

 「ムグッ」

 あいつも少し驚いた顔をしたが、俺を抱きしめてくれた。

 「キャーーー!」

 後ろで歓喜の声が聞こえた。一瞬悲鳴かと思ったけど続いた言葉で歓喜だとわかった。

 「いい! それいい!」

 「「え?」」

 俺たち二人は抱き合うのを辞めて後ろを振り返った。

 「いやー、やっぱり二人はお似合いのカップルだよ! あー、やっぱりそうだよねー」

 俺達は呆然と立っていた。

 「はぁー…普段は妄想だけで我慢してたけどこれが現実になるなんて…」

 一人で大興奮してる…。

 「…グスッ、始まった」

 「え?」

 俺たちは彼女を見た。

 「あの子は…ちょっと変わっててね…薔薇が…好きなの」

 薔薇? ええと、ああ、俺たちの事か?

 「いつも…二人が…付き合わないかな…って…言ってた」

 ああ、だからあの時俺とあいつが一緒にいるのが楽しいって言ってたのか。

 「おまけにキスまで見れて…ウヘヘヘヘ」

 涎までたらしてる…これは本物だな。

 「……」

 俺はあいつに目で逃げるぞと言った。そうするとあいつも頷いた。

 「行くぞ!」

 「おう!」

 俺たちは彼女たちから逃げるように走り出した。

 「ああ! 待って! もっと二人のラブラブな姿を見せてーーー!」

 やっぱし追いかけてきた。

 「なぁ」

 俺は声をかけられあいつを見た。

 「このまま同性愛を受け入れてくれる国に行くか?」

 「それもありだな」

 俺たちはクスリと笑うとと遊園地をあてもなく走っていった。



   完

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