第1話:光の檻と、汚れた背中
ゴールデンウイーク中に執筆しました
「魔法少女になりたい」
そんな、どこにでもある子供の純粋な憧れが、全ての地獄の始まりだった。
星野聖良がその「契約」を交わした時、彼女はまだ十四歳の少女だった。街を襲う異形の怪物、泣き叫ぶ人々、そして目の前に現れた神秘的な光の使者。 「君にしかできない。君なら、みんなを救える」 その言葉は、正義感の強い少女にとって、至高の福音のように聞こえた。
だが、聖良が手に入れたのは、輝かしい英雄の座などではなかった。
「セイラ、悪いんだけど今日のパトロール、私の分も代わってくれない? 塾の夏期講習があって……」 「聖良ちゃん、この間の怪物の討伐報告書、私の名前で出しといていいかな? ランクを上げないと、親がうるさくて」 「セイラなら、一人でも大丈夫でしょ? 私たちは体力が持たないから、先に戻るね」
魔法少女チーム「エトワール」。 仲間であるはずの美咲、詩織、蘭、未来。彼女たちが口にするのは、いつも「自分たちの都合」と、聖良に対する「最強への依存」だった。
聖良は、誰よりも強かった。誰よりも魔力の適性が高く、誰よりも戦いのセンスがあった。だからこそ、彼女は断れなかった。自分が少し無理をすれば、大好きな仲間たちが笑っていられる。みんなが傷つかずに済む。 それがリーダーの、そして「救世主」の務めなのだと、彼女は自分に言い聞かせ続けた。
いつしか、彼女の魔法少女としての日常は、仲間の汚れ役を引き受けるだけの「無償労働」へと変わっていった。 戦場では常に最前線で盾となり、血を流し、泥を啜る。一方で、手柄は全て仲間に譲った。メディアの取材を受けるのは、いつも清潔な衣装を保った美咲たちで、聖良はカメラの回らない場所で、ボロボロになった衣装を独り魔法で修復する毎日だった。
「……ねえ、セイラ。次の作戦だけど、あなたが一人で突っ込んで敵を惹きつけてくれる?」
作戦会議という名の押し付け合いの場で、リーダーの美咲が当然のように告げる。聖良の肩には、癒えない傷跡がいくつも刻まれていたが、彼女はそれを見せず、ただ静かに頷いた。
「わかった。みんなが安全に攻撃できる隙を作るよ」
その時、聖良は気づいていなかった。 仲間たちの瞳に宿っていたのが感謝ではなく、「自分たちが楽をするための道具」を見るような冷たい光だったことに。
そして世界は、緩やかに終焉へと向かっていく。 「外神」と呼ばれる未知の侵略者が現れ、空が燃えるような朱色に染まった時、聖良の孤独な戦いは、もはや引き返せない破滅へと加速し始めた。
(……救世主なんて、そんな立派なものじゃない)
血の混じった泥水を吐き出しながら、彼女は戦場で見上げる。
(私はただ、みんなの笑顔が見たかっただけなのに)
その純粋な願いが、最悪の形で踏みにじられる「あの日」まで、あとわずか。 魔法少女・星野聖良の、長すぎた悪夢が幕を開けようとしていた。
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