第3話 確定ファンサ
指揮。それは音楽演奏において、手や棒を使い、テンポ、強弱、ニュアンスなどを統率する行為のことをいう。
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私の推しこと小宮尊先生は、私が所属する吹奏楽部の顧問をしてくださっている。小宮先生はどうやら小さい頃からヴァイオリンやピアノ、トランペットなどなど、、、たくさんの楽器を演奏してきたらしい。そして大学に入学したのと同時に指揮法も学び始めたらしい。つまり音楽活動においてなんでもできちゃうようなスーパーウルトラゴットである。
今は放課後の部活の時間。みんな各自でチューニングや基礎練をしているところだ。今日は小宮先生が指導してくださる日。小宮先生はあまり吹奏楽部に顔を出さない。週に2回顔を出せばいい方だ。
(もっと会いたいのに、、てか崇めたい)
そんなこと考えながら基礎練のトリルトレーニングをしていると小宮先生が音楽室にやってきた。
「合奏。挨拶。」
「起立!お願いします!!」『お願いします!!』
単語しか発さない小宮先生尊い!!!!
「えーっと、今日は【愛を唄う】の合奏でいいんだよね?」
みんながコクコクと頷く。
【愛を唄う】って曲は今流行りのドラマの主題歌で推しの尊さを語った推し活ソングだ。その推し活ソングを推しが指導してくださるなんて、、、尊いの極み。
小宮先生が静かに手を上に上げた。小宮先生の指揮だ。今から演奏が始まる。小宮先生の指揮は力強く、とてもわかりやすい。それでいて、どこか切なく、繊細な指揮だと思う。私はそんな小宮先生の指揮が大好きだ。
演奏が終わると小宮先生が指導してくださる。
「パーカッションそこテンポ走るな」
「そこうるさい。もっと小さく。」
「パーカッションだけ1回やって。」
「もっと楽しそうに。」
いやいやいや。私にだけ厳しくない?え?そんな私下手かな?自慢じゃないけどこの吹奏楽部の中で誰よりもこの曲を練習してきた自信がある。もっと楽しそうに?楽しんでるよ!!!!!!
そんなことを言えるわけもなく合奏の時間が過ぎていく。
(はぁ、今日の合奏疲れた、、でももっと練習しないと!!!!)
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数日後
今日も小宮先生の指導の日だ。前の指導の時に小宮先生に言われたところは全部直した。だから、今回こそはなんも言われないはずだ!!
小宮先生が手を上に上げた。演奏が始まる。私の中の緊張や不安が怖いほど膨れ上がる。また前みたいなことを言われたら、もし私のこの数日間の練習の全てが無駄になったら。そう思うだけで手が少し震えてくる。
いつもとは違う私に気づいたのか小宮先生がこっちに視線を向けた。それからニコッと微笑んだ。
まるで
「大丈夫、頑張れ。」
と言っているかのようだ。
もしやこれはファンサなのでは?!アイドルとかがこっち見て手振るのと同じ原理なのでは?
そのあとの演奏はいつもよりも上手くいったような気がした。推しの力は偉大だ。推しからファンサを貰うだけで人はなんでも頑張れちゃうし、自然と勇気も湧いてくる。
小宮先生の指導の時間が終わった。小宮先生は今日の指導でパーカッションに特何も言わなかった。それはそれで寂しいものだ。そんなことを考えていると小宮先生がこっちに近づいてきた。
「よく頑張ったね。」
少し高めのトーンで小宮先生が言う。しかもいつもとは違う、優しめな微笑んだ顔でだ。
え、尊い。




