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家の隣に魔王が住んでいる!  作者: 白鈴サキ
Version4 イベントは突然訪れる
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Ver.4.6.0 デートの定義

 前日の夜。

 スマートフォンが何度か揺れていることに気づいた私は、見ていた動画を一時停止した。

 こんな時間に誰からだろうと拾い上げると武藤から数件のメッセージが届いていた。


[よっ、お疲れさん]

[明日は予定通り、入場口付近の集合でよろしくな~]

[俺はもう寝る!]

[おやすみ]


[おつかれさま]

[心得てますとも]


 私は高まる気持ちを抑えながら最後に[おやすみ]と書かれたスタンプを押した。すぐに既読は付いたがそれから武藤から返信がくることはなかった。

 私はリモコンを手に取り、見ていた動画の再生ボタンを押した。アトラクションに乗っている人の楽しそうな声や園内の音楽が流れし、私は再びその映像に目を奪われた。

 

 どうしよう。

 見れば見るほど、楽しみがどんどん増えていく。

 私はさながら遠足前の小学生。興奮しすぎてこの後ちゃんと寝られるのかが心配だ。

 人生初のコスモランド。それも大好きな作品とのコラボ期間中。これはもう、運命だとしか言いようがない。「コスモランドへ行きなさい」と神様が言っているに違いない。武藤には感謝してもしきれない。

 それから数分後。

 動画に見入っていると今度はスマートフォンが一度だけ震えた。


「武藤からだ……てっきりもう寝たのかと」


 メッセージの上部には先ほど「寝る」と言っていた武藤の名前が表示されていた。

 これで最後と思われるメッセージには、まるで見透かされているかのような一言が添えられていた。

 

[あんまり遅くまで起きてると寝坊すんぞ~]


 付き合いが長いと、こうも読まれてしまうものなんだろうか。私はつい笑ってしまった。


 



 

 その後、夜も更けてきた頃――

 準備もようやく終わりが見えてきた。アトラクション、お土産、食べ物、パーク内の歩き方……などなど。気になるものは全部調べ尽くした。電車の時刻も集合場所までの行き方も頭の中に入れ込み済みだ。

 予習、復習なんてお手の物。高難易度コンテンツに比べれば優しいものよ……!知識だけは一丁前になった私に怖いものなどない。あとは明日を目一杯楽しむだけ……!


「これでバッチリ。思い残すことなし!」

 

 体調もここ数日、整えるように意識した。浮腫まないようにと食事内容を気にかけ、早寝早起きを心がけた。

 今日なんか、少し高めのパックを使っちゃったり、いつもより念入りに保湿したり。ストレッチやマッサージなんかもしちゃったりして。

 うんうん。

 今の私、とても輝いてるぞ。

 

「あ~、楽しみすぎる……」

  

 鏡の中の私はてかてかと顔を光らせながら満面の笑みを浮かべていた。

 最後に明日着ていく服を決めておこうと私はクローゼットの前に立った。朝の限られた時間……私の計算ではメイクやヘアセットで終わってしまう。「どれを着ていこう?」なんて悩む暇なんてない。これは今日中に決めておかなければならない。

 中から候補の服を数着取り出し、交互に体の前で合わせてみる。

 テーマパークにいくこと自体、久しぶりだからこういう時に何を着て行けばいいのか迷ってしまう。

 

「やっぱ、ワンピース?」


 一着目はノースリーブのシャツワンピース。全体が真っ白でチュールが裾に付いている。通気性もあって見た目も涼し気だ。

 フレアシルエットなのが可愛さも大人っぽさも兼ね備えていて良い感じ。麦わら帽子と合わせて夏っぽく……なんてどうだろう。

 一方で乗り物に乗ることや結構な時間を歩くことを考えると、ワンピースよりも動きやすいパンツスタイルの方が良さそうな気もする。

 二着目のグレーパンツと無地の白Tシャツ。ベルトを締めればきゅっと印象が締まり、スタイリッシュ。スニーカーと合わせてカジュアルさも出せる。


「でも暑いしな〜。涼しさをとるか、動きやすさをとるか……」

  

 武藤はどんな服装で来るんだろう……。

 コスモランドに行くことも楽しみだけど、それとは別に武藤の私服を見られるのがちょっと楽しみでもあった。スーツ姿しか見たことがなかったから、集合場所でぱっと後ろ姿を見ただけではすぐに誰だか分からないかもしれない。

 他の服も合わせてみても、なかなか決まらない。そんな中、ある会話が突然、私の脳裏を過って行った。





――デートってやつ?


「……はは」


 思わず乾いた笑いが漏れた。

 ……なんで思い出しちゃったんだろう。自爆にも程がある。

 私はこれ以上思い出さないようにと首を横に振ってみたが、なかなか出て行ってくれなかった。




 

 武藤との約束の後――

 私は飲み物を買いに執務室から出て、自販機の前にいた。すると偶然にも武藤がやってきたのだ。


「……またサボり?」


「お前の中での俺はとんだサボり魔だな……。今日は落ち着いてるしな〜息抜きだよ、息抜き」


「はいはい……。でも今日は本当に落ち着いてるよね。電話も全くならないし」


「あ〜あ、毎日これぐらい静かだったら良いのに……」


 武藤は私のあとに続き、自販機のボタンを押した。ガコンと音を立てて缶コーヒーが落とされる。

 武藤がそれを拾い上げたところで、私も戻ろうと思い一歩踏み出したところ、カチリと開かれる音が背後から聞こえてきた。

 まさか……。

 不審に思い、振り返ってみる。なんと武藤はその場で一服し始めていた。


「やっぱサボりであってたよね!?」


「まあまあ、今日くらいは」


 まるで「お前も少しサボろうぜ」と言わんばかりに武藤は窓際に背中を預けた。

 

「……本っっっ当に、少しだけね」

 

 私も武藤の隣へと移動した。

 最近、いろんな意味で気を張っていたし、少し……少しぐらいは……と自分に言い聞かせながら買ったばかりの水を一口飲んだ。

 それからとくに話すこともなく無言の時間がしばらく続いた。暑い日差しが燦々と窓から差し込む中、私は口を開いた。


「そういえば――」

「そういえばさぁ、お前――」


 すると武藤も同じタイミングで話しかけていたようで見事に被ってしまった。

 互いに横を振り向き、視線で会話を譲り合う。一向に始まらない会話に武藤が言った。


「いや、いいよ」


「私の方こそいい。先、言ってよ」


「俺の方はいつか言うからいい」


「そ、そう……?」


 そう言われると何を話そうとしていたのか気になってしまう。けれど、武藤はこれ以上続きを話すつもりは無さそうだった。

 武藤の言い方は私とは違い、なにやら大事な話がありそうな雰囲気があったので、今から軽い雑談を振ろうとしている私は少々申し訳なく思った。

  

「……武藤と休日にどっか行くのって何気に初めてだよね?って、聞こうとしてただけ……なんだけど」


 私がそう言うと武藤は「あぁ、」と一度上を向いた後、私を見下ろした。そしてきょとんとした顔をして、

 

「デートってやつ?」


 と何の気もなしに言い、コーヒーを飲んだ。


「――ぶっ!?」

 

 私は思わず飲んでいた水を吹き出しそうになり、武藤を睨みつけた。私が咽ている間、武藤は「冗談だって」とケラケラ笑っていた。


「帰る……!」


「ああ、おい!柊!置いてくなよー!」

 

 その後、執務室に戻る道中――私は武藤の脇腹を攻撃してなんとかさっきの仕返しをしてやった。




「あのふざけたやりとりが誰かに聞かれていませんように……」

 

 ……デート。

 ……デートか。

 デートの定義ってなんなんだろう……?

 

 こんなことしてる場合じゃないと分かってはいても、気になり出したら止まらない。私はスマートフォンを手に持ち、″デート 定義″と検索していた。

 ずらりと検索結果が表示され、とりあえず一番上に表示されている記事を見てみる。

 

 『Q.デートとは?

  A.男性と女性が日時・どこで・何をするか などを決めて行うことを指します。どちらかが恋愛的な展開を期待し、日時や場所を取り決めて会う。

  ということです』


「わお。いきなりどストレートなものが……」


 たしかに私も″デート″と言われたら、記事通りのことを想像する。

 念の為、他の記事にも目を通してみる。すると、その考えはすぐに覆された。


『行先が遊園地、水族館、動物園……などのデートスポットであればデートだと考える人も中にはいます。』

『【油断大敵!】付き合っていない男女が出かけることも″デート″と呼ぶことがあります――※気になる異性に言われても舞い上がらずに!】』 


 ……なんだ。

 武藤の言ってたことは半分合っているようなものだ。私はなぜかドキドキとしている胸をほっと撫で下ろした。

 それにしても……この二つの記事は本当なんだろうか。大半の人は私と同じように男女の仲であること=デートだと認識していると思うんだけど……。

 それからいくつかサイトを見続けていると、スワイプさせた指の先で画面に表示された時刻が目に入った。


「やばい……」


 今日が昨日に。待ち侘びていた日が今日に。

 時刻はとっくに日付を超えていた。

 せっかく楽しむのに、隈を作ったまま行くのは申し訳ない。

 私は姿見にハンガーをかけ、大急ぎでベッドへ転がり込んだ。

 

「寝過ごさないようにアラームはいつもより多めに設定しておいて……」


 部屋の灯りを消して、深呼吸をして。こういう時はゆっくりと流れる音楽でも聴きながら眠りにつこう。


「もう……武藤が変なこと言うから……」


 眠れるか心配だったけれど、目を瞑ってしばらくもしないうちに私は夢の中へと誘われていった。

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