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家の隣に魔王が住んでいる!  作者: 白鈴サキ
Version4 イベントは突然訪れる
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Ver.4.5.0 内緒のお誘い

 仕事が一息ついた午後の時間。

 執務室の中は冷房の可動音が気になってしまうほどの静けさに包まれていた。

 営業部の各チームリーダーはオンライン会議に出席中。来客もなく、電話もまったく鳴る気配がない。閑古鳥が鳴きだしてしまいそうなそんな中――


「……ねむ」


 眠い……眠すぎる……。

 私は昨夜の寝不足と食後の眠気が相まって、迫り来る睡魔と戦っていた。

 昨夜は最近追加された高難易度コンテンツにカインさんと挑んでいた。クリアまであと少しという惜しいラインを何回タッチ。その結果、みんな躍起になってあれよあれよと練習を重ねるうち、日付が回ってしまいいつもより寝る時間が遅くなってしまったのだ。結局、クリアはできず、悔しい気持ちを今日を迎えてしまったんだけど……。

 睡眠時間を削ってでも趣味に没頭する――それはいけないことだと分かっている。毎回こういうことになるたびに「早く寝よう」と思うが、一向に改善された試しがない。ここまでくるとする気がないと言った方が正しいのかもしれない。

 なぜなら、″気の知れた友達とネトゲをする夜″というのは私にとってかけがえのない大切な時間だからだ。

 ――などと言い訳をしつつ、うつろうつろと首を前後に揺らしていると、


「ひいらぎー」

 

「んー……?……なに……」


 武藤が私の元へとやって来た。

 私はふわっと小さな欠伸を漏らしながら武藤を見やった。

 武藤は首元に手を添えながら、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 

「急で悪いんだけど……」


 あー……。

 さては、何かやらかしたな……?

 私の経験上、このあとに続く言葉には詳しい。

 「悪ぃ、間違ったから訂正してくんね?」とか「これ至急で頼むわ」とか仕事で後ろめたいことがあった時に言ってくることが多いのだ。

 私は警戒をしながら言葉の続きを待ったが、一つ小さな違和感に気づいて首を傾げた。

 なんだろう、普段の武藤と少し様子が違う……というか、いつもと感じと比べるとどこかよそよそしさがあったのだ。

 私が不思議に思っていると武藤は突然、目の前でしゃがみこみ、口元を隠すように手を当て、こそこそと話し出した。

 

「あのさぁ、今週の土曜って……空いてたりする?」

 

「――えっ!?」


 大きな声を出してしまった私に武藤は「静かに」と人差し指を立てた。

 慌てて口を塞ぐがもう遅い。視線を感じて振り向くと、勇崎さんが怪訝そうな顔をしていた。「すみません」と両手を合わせておいた。

 私は武藤の方へ顔をぎこちなく顔を向けた。

 土曜日……。考えずとも予定なんかは入って……ない。

 それにしても武藤が休日の予定を聞いてくるなんて珍しい。仕事終わりにご飯や飲みに行くことはあったけど、休日に遊びに行く、なんてことは今までになかった。

 

「う、うん……空いてる……けど?」


 声を潜めて答えると武藤は「おっ」と感嘆の声を漏らし、にやりと笑った。そして、すかさず胸ポケットから紙片を二枚取り出した。


「じゃーん」


 武藤は二つに折り畳まれた紙片を丁寧に広げると私に見せてきた。

 私はそれに吸い込まれるように覗き込む。

 細長くてカラフルな色合い。大きな白いお城をやクルーズ船を背景に大きく両手を広げて写っているキャラクター達。


「こ、これは……!」

 

 私は思わず固まってしまった。

 目の前には″コスモランド入場券″と大きく書かれたチケットが広げられていた。

 

 コスモランドとは――

 夢と希望溢れる世界……をコンセプトに大人も子供も、さらには老若男女問わず楽しめるという国内最大級の超有名テーマパークである。

 なんと今年で七十周年。歴史あるテーマパークでは現在、有名作品とのコラボが随時発表されており、世間を賑わせていた。その中にラスクエとのコラボも発表されている。

 シーズンごとにオリジナルのパレードやイベントなんかもあって、毎月違った楽しみがあるのも魅力の一つ……とよく雑誌やテレビで取り上げられているのを見た。


 ……つまり。

 武藤が土曜日の予定を聞いてきた。

 と、言うことは――?

 武藤は私の反応を見るや否や、さらに口角を上げて言った。

 

「行かね?」


 その一言により私のテンションはジェットコースターのようなスピードで急速に発進したのだった。

 

「えっ!?いいの!?」


「……しーっ!バレるだろ!」


 武藤は再び人差し指を立て、辺りをゆっくりと見渡した後、小さく息を吐いた。


「ご、ごめんごめん……」


 沸き立つ好奇心を抑えきれず、つい声が大きくなってしまった。

 実は私、お恥ずかしながらまだ一回もコスモランドに行ったことがなかったんだよね……!

 コスモランドに行けるだなんて夢のような話――


 

「……」


 

 夢……



 

 夢……!?

 

 これは夢の中の出来事だったりするんだろうか。

 さっきまでうとうとしていたから、今が現実なのか夢の中なのか若干怪しい……。

 私は試しに頬を抓ってみた……が、普通に痛かった。

 よし、夢じゃない。

 

「何してんだよ……」

 

 私は咳払いをひとつして平常を装った。


「……でも、これどうしたの?」


「実は――」


 武藤の顔は「よくぞ聞いてくれました」と言わんばかりに、ニヤニヤ度が増していた。

 

「……これ!応募しちゃったら当たっちゃってさ~、ペアチケット」

 

 同じく胸ポケットに入っていたスマートフォンを取り出すと当選画面のスクリーンショットを見せてきた。

 ああ、どこかで見たことあるサイトだと思ったら。武藤が良く飲んでいる飲料水のキャンペーンか――って、


「当選十名様って書いてあるけど……これ、武藤が当てたの?すごくない?」

 

「へへっ、すごいだろ〜?もっと褒めてくれてもいいぞ~」


 武藤は静かに立ち上がると券面を扇子のようにしてひらひらと扇いでいた。見上げた私は拍手をするフリをして、できる限り武藤を褒め称えた。

 

「さすが武藤……!二分の一でさえ外すのに、よく分からないところで運を発揮する……!」


「おい」と鋭いツッコミが入ったところで、私は一つ気になっていたことを武藤に聞いた。

  

「あはは、ごめんごめん……でも、本当に私が行っていいの?友達誘ったりとかは?」


 友達とか仲の良い同期とか。武藤なら周りにたくさんいそうなのに。彼女は……この間いないって嘆いてたから、踏み抜かない様にするとして。

 なんで私を誘ってくれたんだろう。暇そうに見えた……とか?

 実際、時間は持て余してるんですけどね……!

 

「あー……」


 武藤は少し考えたあと、珍しく真面目な顔つきになった。

  

「……なんつうかさ、柊だったら絶対喜んでくれるだろうな~って思って。先に声かけた」


「なんと」


 なんでこの男は恥ずかしがることもなく、そんな言葉をさらりと言ってしまうのか。

 そんなこと言われたら……言われたらよ……?


 

 

 普通に嬉しいよ……!!

 

「そんな古風な反応……。まあ、柊がどうしても無理っていうなら――」


「まって武藤。行きたい。めちゃくちゃ行きたい。行かせてください……!」 


 私は膝の上で丁寧に手を重ね、深々と頭を下げた。

 断るなんて選択肢、最初からどこにもない。

 夢のコスモランド。ラスクエコラボ。充実した休日。たくさんの乗り物に美味しい食べ物、景色……。

 今から楽しみで仕方がない。


「お、マジで?じゃあ今週の土曜、空けといてくれよな!」


「武藤ありがと〜!……いや、武藤様!この御恩は一生忘れません……!」


「大袈裟すぎんだろ……」


 武藤は照れくさそうにチケットをしまうと「またメッセージ送るわ~」と手を振りながら自席へと戻っていった。

 

 私はそのうしろ姿を見送りながら湧き立つ感情を噛み締めていた。


「……やった」




 

 やったーーーーーーーー!!




 

 人生初のコスモランド!これで今週の仕事は捗るってもんよ!

 帰ったら、乗りものとか調べておこうかな?それとせっかくいくならパレードも見ておきたいし……!行き慣れてる人の動画とかも見てみようかな。

 ああ、楽しみすぎる。武藤、本当にありがとう……!!


 その日の私は目にも止まらぬ速さと正確さで仕事を片っ端から片付けていった。

 そのまま定時を迎え、なぜか少し引き気味な勇崎さんから「もう終わったのか」とお褒めの言葉を頂いた私は


「お先に失礼します!……じゃあ武藤、続きはまたメッセージで!!」


 と速足で帰路についた。

 家の最寄駅を降りてすぐ、マンションに向かう小さな歩道。私は小学生ぶりにスキップをしながら帰宅をしていた。

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