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家の隣に魔王が住んでいる!  作者: 白鈴サキ
Version4 イベントは突然訪れる
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Ver.4.1.0 酒は飲んでもなんとやら②

 しばらくすると出来立ての料理とともに各々が頼んだ飲み物も運ばれてきた。

 この大人数のため店員さんは三人体制。「お待たせいたしました〜」と合間を忙しなくぬっていき、手慣れた動作で続々と机の上に置かれていく。

 武藤の前にはさっきと同じ大きさのビールが置かれたていた。ちなみにこれでもう四杯目だ。


「はい、これ柊のやつ」


「ありがとう」

 

 私の前にも桃の果実酒が運ばれてきた。濃厚そうな液体が細長い透明グラスにたっぷりと注がれている。

 口元にグラスを近づけると、爽やかで瑞々しい香りがふわっと鼻腔を抜け、そこにアルコール独特の匂いが混ざって少しくらっとした。


「美味しそう。なんか……夏!って感じがする」


「なんだよそれ」


「え、分かんない?」


「分かんねえ……」


 グラスをゆっくり口へと傾ける。

 とろりとした濃厚な味わいが口内に広がり、桃のごろごろとした果肉が後を追うようにやってくる。

 しゃくしゃくとした食感が瑞々しくてたまらない。さすがこの店の名物……!


「めっ……ちゃくちゃ美味しいよ、これ!」


「おー、良かったな」


 思わず武藤に感想を伝えてしまうほど、このお酒に心を動かされた私はあまりの美味しさに、飲む勢いが止まらない。

 まろやかな甘みとお酒の苦み。これではまるで大人のジュースだ。


「次もこれ頼んじゃおうかな」


「柊が酒を気にいるなんて珍しいな。いつもあんまり飲まねえのに」


「あれかなー。ついにお酒の美味しさに気付いてしまった――ってやつ」


「なに声色変えてんだよ……。そんなに言うならこれ、飲むか?」


「ビールはいらない」


「どこが気づいてんだか……」


 武藤と私は雑談を交えながら、この場の雰囲気を楽しんだ。

 課長の豪快な笑い声、「そりゃないよー」と仕事の愚痴で笑いあっている男性社員たち。他の席からも笑い声は溢れていて、店の中は大いに賑やかだった。

 

 料理もお酒も美味しいし、話したことのない人と話せたし……。やっぱり、来てよかったかも。

 ふとそんなことを思っていると――


「……?」

 

 私はある違和感に気づいてしまい、グラスを持ち上げかけていた手を一旦止めた。

 

「ん……?」

 

 喉の奥が火照っているような……。

 それになんだか……やけに体が熱いような……?

 なんだろう……。

 身に覚えのない感覚がゆっくりと体全体に広がっているような気がして、私は気休め程度に手で風を送った。

 

 熱でも出た?……そんなわけないか。

 おでこに手を当ててみたものの、発熱したときの熱さではなかった。

 ぱたぱたと手で顔を仰いでいると、ちょうど目の前を通りがかった女性が私を見て、


「ここらへん暑いよね~。店員さんに言って空調下げてもらおっか?」


 と言ってくれた。

 なんだ、暑いのは私だけじゃなかったんだ。


「すみません、ありがとうございます」

 

 女性が店員さんを呼び止めると、すぐに対応してくれた。

 少しすると冷たい風が流れてきて、部屋の中は過ごしやすい温度となった。

 それでも体の中で籠っている熱はなかなか出て行ってくれなくて、この手は水分を求めるようにまだ半分ほど残っていたグラスに手が伸びていた。

 

「おいおい……さすがに飲むの早すぎじゃねえか?」


「いや〜、これ本当に美味しくて」

 

 武藤は私の飲むスピードが早いことに気がつくと、呆れた顔でこちらを見てきた。

 「武藤も飲んでみなよ」と提案をしてみたが、どうやら私のプレゼン力がいまひとつ足りないようで、「いや、俺はビールでいい」と一蹴されてしまった。

 なによ……本当に美味しいのに。

 

 その後も私は周りの会話に合間合間参加しつつ、ほとんどの時間は料理とお酒を楽しんでいた。

 それでもやっぱり――

 

「……なんか変」


 時間が経つにつれて、体が火照ってくる。

 ここまでくるとさすがの私でも「変だな」と体の異変に疑いを持ち始める。

 もしかすると、アルコール度数が高めだったのかな……?

 グラスの中を覗き込むと、濃いアルコールの匂いがつんと鼻を突いた。

 少しだけ傾けると、流動体は中でゆっくりと動いている。

 

「とくにおかしなところもなし……」

 

「どうした?」


 私が首を傾げていると、武藤が様子を窺うように覗き込んできた。

 

「ううん……ちょっと体が……」


「……体?」


「うん」


 あと、こんなに目悪かったっけ……。

 武藤の顔をじっと見つめているつもりなのに、ぐらぐらと揺れてぼやけている。


「なんだ……?もしかして……顔に食べかす付いてる!?」


「……ううん、付いてない」

 

 それになんだか眠くもなってきた……。


「おい……本当に大丈夫か?」


「大丈夫――」


 武藤が私の肩に手を置いたところで――

 

「あーーっ!」

 

「!?」

 

 肩がびくりと跳ねあがる。

 喧騒の中から突如として現れた高い声が、眠気で微睡み始めていた私を起こした。

 

「な、なに……!?」


 勇崎さん、武藤、私の三人は聞こえてきた方向へ振り返り、視線を声の主に集中させた。

 座敷の入口付近の席――一人の女性が驚いた様子でこちらを見ていた。

 その女性と私は目が合うと、慌てた様子で寄ってきた。

 

「ど、どうしたんですか……?」

 

「びっくりしたぁ……なんかあったんスか?」


 女性は私と手に持っているグラスを交互に見たあと、「ごめんなさい」と急に謝ってきた。

 なぜか心配そうな眼差しを向けられている……ような気がする。

 私はこの人になにかしたっけ……?そもそも、謝られるようなことをされた覚えもない。

 何の見当もつかない私は眉を顰めた。

 女性は私の様子を見て、話を続ける。


「柊さん……それ私の注文だったかも」


「え……?」


「私も桃の果実酒頼んでて……。ロックで頼んだんだけど、さっき飲んでみたら薄かったから、店員さん呼んで確認してもらってたの。でも注文に間違いはないって……」

 

 女性は先ほど座っていた場所に指をさした。指の先を追っていくと、少ししか減っていない白桃色の液体が入ったグラスが置かれてあった。透明感があり、いかにも水で割っていそうな見た目をしている。一方で私の元にあるお酒はというと――たしかにどろどろとしていて、色も黄桃のような濃い色だ。


「つまり――」


 武藤が先に反応した。それに続いて私も答える。

 

「これ、ロック……ってことですか?」


「そうなの……ちょうど私が席を外している時に置かれてたみたい」


「すみません……。そうとは知らずに結構飲んじゃいました……」


「いいのいいの。それより、柊さんは大丈夫なの?」


「た、たぶん……?」


 大丈夫、とはどういう意味なんだろう……。

 私は頭に疑問符を浮かべたまま、女性の話に耳を傾けた。

 

「顔、すごく赤いから……心配で」


 言われてすぐにかばんに入れてあった折りたたみ鏡をとった。

 そこで自分の顔をよく確認する。


「たしかに……」


 赤いかもしれない……。

 チークの赤みではなく肌の内部からじんわりと火照っているようだった。


「柊、酒強くないもんな」


 たしかに普段あまりお酒を飲まないのでアルコールに対して耐性があるほうではないけれど……。

 とくに大きな問題もなさそうなので、私は女性に心配かけまいと笑顔を向けた。


「そんなに強くはないですけど、たぶん大丈夫です」

 

 さすがにウイスキーみたいに、度数が何十パーセントもあるものではない……はず。

   

「無理はしないでね?」


「はい、ありがとうございます」


 女性はそういうと自分の席に戻っていった。

 ああ、あの人。菅野さんのチームの人だったんだ。


「本当に無理すんなよ?」


「大丈夫大丈夫」


「本当かよ……」


 確証のない発言に武藤は机に肘をつきながら私を見て、小さくため息を吐いた。

 



「ねむ……」

 

 ほどよい眠たさと場の雰囲気に飲まれて、私は夢の中にいるようなふわふわとした心地よい感覚に身を任せていた。

 結構、夜も遅い時間となっているのでは……?と時計を確認してみると、まだ時間はさほど経っていなかった。

 私たち以外の客の声もさらに大きくなり、襖越しから様々な会話が聞こえてくる。


「……!」

 

 周りで大きな笑い声がどっと起こる度にびくっと体が震えて起きた。

 なんでこんなに眠いんだろう……。

 

「俺、頼むけど他に誰かいる?」


「……あ、はい。これ、お願いします……!」

 

 別の誰かが注文をまとめ始めたところで私もそれに乗った。

 飲んだら少しは眠気も無くなるだろうと、今度は酸味の強いお酒を選んだ。


 またまた大量の飲み物とともに色とりどりの料理が運ばれてくる。

 定番のからあげにシンプルな卵焼き。焼き鳥は大人気で頼めばすぐに無くなってしまう。


「おまたせしました~」

 

 私の元にも柚子の果実酒が運ばれてきた。飲み口に半月に切られた実が乗っている。

 薄黄色の液体から泡がぽつぽつと弾けている。ソーダ割で注文したが今度はそれで間違いないだろう。

 肉厚な果肉をきゅっと絞って一口飲んだ。


「おお……!」

 

 しゅわしゅわと口の中が弾ける。つぶつぶとした小さな粒を噛むたびに酸味が溢れ出し、目が冴えた。

 柚子の爽やかな味わいが脂っこい料理たちとマッチしている。こんなにお酒が料理と合うなんて思ってもみなかった。

 この歳になってようやく、大人の楽しみを理解した。


「おいしい……!」

 

 自然と飲むスピードが早くなって、武藤は「お前なぁ……」と私の飲みっぷりに引いていた。

 私は武藤にだけは言われたくなかった。

 だって――

   

「そういえば、武藤ってよわくなかったっけ?」


「あー……」


 武藤は顎に手を当て、視線を上げていた。何かを思い出しているようだ。

 私は私で四月にあった勇崎さんの歓迎会を思い出していた。

 あの時までは少量のお酒で酔っぱらっていたはずだったのに……しかも”麻央ちゃん”とまで呼んで。

 そんな武藤が今日、ビールやハイボールをもう何杯も飲んでいるというのに、平常時となにひとつ変わらないままでいる。

 


「ある時を境に――酔いが、薄く……」


「そんなことあるんだ」

 

「俺もなんでか分からん」


 不思議なこともあるもんだ。ここ数ヶ月の間に何か特別な訓練を積んだんだろうか。

 それとも、飲み続けてたら強くなりました的な?

 頭がぼうっとする。何を伝えようとしていたんだっけ……。

  

「レベルアップ……?」


「……は?」


 きょとんとした顔とともに冷ややかな目線が送られる。

 心の声が漏れていた。

 いけないいけない。ゲーマーとしての性がでてしまった。

 

「あ、いや……」

 

 私は白々しく視線を逸らし、困りはてる武藤から逃げるようによろよろと席を立った。


「ちょっとおてあらいに」


「大丈夫か?」


「うい」


 後ろから「逃げたな」と武藤の小言が聞こえた。

 ずるずると店のスリッパを引きずりながら、微睡む中で何分もかけて手洗い場を探す。

 見かねた店員さんが声をかけてくれたことによって私は無事、お手洗いに向かうことができた。

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