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家の隣に魔王が住んでいる!  作者: 白鈴サキ
Version3 それぞれの変化
22/33

Ver.3.7.0 カインさんの告白①

 幼馴染との再会の物語を味わって、余韻に浸りながら迎えた次の日の日曜日。

 いつもとなんら変わらない休日へと戻ってしまった私は、ベッドに背中を預け、頭を捻っていた。


「ないなぁ」

 

 こうしてからどれほどの時間が経ったんだろう。

 休日最後のひと時だというのに、私は飽きもせず、ずっとスマートフォンの画面を見つめている。

 画面にはたくさんのキャラクターと青と赤を基調とした鮮やかなロゴ。上部には″ラストクエストヒーローズ オフィシャルサイト″の文字。

 何を隠そう、私は今――ラスクエ公式サイトを見ている。

 

 なぜ、ラスクエの公式サイトを見にきているのか。

 「次回更新のお知らせ」という飛びつきそうなニュースには目もくれず、その横のタブに書かれている″アイテム″と書かれたページを開いているのか。

 その理由は――

 

「二人のならなんでもいいんだけど」

  

 昨日、推しキャラとなったマキとトーマのグッズを探すため。

 かれこれ長い時間探しているというのに、二人の姿や名前を一度も目にしていない。

 

 もしかしたら見落としているのかも知れない。じっくり確認して、それでもなかったら諦めよう。

 そう思った諦めの悪い私は「もう一回だけ……!」とまた、最初のページへと戻っていた。

 

 数十ページにもわたるグッズ一覧。

 最初を飾る1ページ目には、新商品として発売された物とゲームの主要キャラたちがピックアップされていた。

 主人公である男性はメインビジュアルとしてあらゆる場面で登場する。所謂、ラスクエオンラインの顔だ。年季の入った鎧にはこれまでの冒険の数々を彷彿とさせる。

 その下に続くは、主人公と旅を共にする個性豊かな仲間達。

 二枚目キャラの人間の青年。一見、軽薄そうに見えるその表情からは計り知れないほど、彼は至って真面目なのである。仲間想いな彼は何度も主人公の相棒として活躍し、腕っぷしもかなり良い。素早く動き、素早く仕留める。隠密の腕も確かだ。

 その青年の下に続くのは、お姉さん的立ち位置のエルフ族の女性。エルフ族の中でも珍しく、長身ですらっと延びたスタイルにワインレッド色の髪、ふわっと撒かれた髪型。大人びた印象を与える彼女は魔女らしい黒のローブを羽織っている。頭の良い彼女は立ちはだかる困難な壁を幾度となく、持ち前の知恵で解決へと導いてくれた。

 最後に小柄な竜人族の女性。スノウホワイトの髪色に細く白い二本の角。目立たないローブを身に纏い、背中には木の杖を提げている。竜族に育てられ、昔は森の中に住んでいたと言っていた彼女はその印象がぴったり当てはまるほど、健気で儚い透明感がある。そんな優しい性格の彼女はヒーラー職。しかし、仲間がピンチ陥った際にはヒーラーあるまじき攻撃力を見せつける。やる時はやる。そこがかっこ良い。

 

 ゲームの顔であるこの四人が様々な商品となって並ぶ様に、思わず指先が「カートへ追加する」に触れそうになる。

 最近は物欲を抑えるためにあえて見ないようにしていたのに。

 正直、欲しい。

 見ないようにしていた理由は、毎月何かしらの新商品が発売されるというのが原因。その度に「あれも欲しい、これも欲しい」と散財してしまう未来が見えてしまったからだ。


「我慢、我慢……」

  

 スマートフォンの画面からテレビの前に一度視線を上げた。

 テレビ台の上に並べられた数個のグッズは物欲を抑えに抑えてお迎えした、手のひらサイズの小さなぬいぐるみたちが並んでいる。モンスターがデフォルメされたものが多く、可愛らしい笑顔をこちらに向けていた。

 別の企業とのコラボ商品、期間限定のグッズの数々。″限定″という言葉は魅力的だと思う。

 その時だけは買っておこうとつい財布の紐が緩んでしまった。そうしていくうちに何も置かれていなかったテレビ台の上は、いつの間にか賑やかになっていた。

 きっといつかはこの四人の分も買うことになると思う。欲しいけど。喉から手が出そうだけど。それまでは頑張って我慢しよう。

 画面に視線を戻し、グッズ探しを再開した。

 大人向けの商品として革素材で作られたペンケースやスケジュール帳、キッチングッズなんかもあった。

 名刺入れにはラスクエのロゴが箔押しされていて、知っている人が見たらすぐにバレてしまいそうなデザインをしている。きっと、分かる人が見たらテンションが上がるだろうな。

 

「うわ、かわいい……」


 ふわふわ、もこもこ、と綿菓子のような見た目にころんとした姿に顔が綻び、つい口を漏らしてしまう。

 愛され雑魚モンスター、モケロン。

 その姿は布で縫われ、まるまるとしたボディはもっちりとした綿の入ったぬいぐるみとなっていた。

 愛らしいフォルムにとぼけた表情。ラスクエ代表のモンスターなだけあって、他のモンスター達よりもたくさんの商品が出ている。

 台の上に居るぬいぐるみたちの仲間入りする日も、そう遠くはないかもしれない。


 

 そこからさらに時間が経った頃、時計を見てはっと気づく。

 探し始めて結構良い時が過ぎていたことに。


「全然探せてないし……」

 

 散々目移りしていたけれど、本来の目的はマキとトーマのグッズを探すこと。

 今度こそ本腰入れて探さないと。


「うーん……」

 

 だけど、いくら探しても成果がでない。

 どれだけページを進めても、進んだ先で昨日見た姿が確認できない。

 

 「あれ、」

 

 画面をスワイプさせていた指がピタリと止まった。

 ついに、最後のページを迎えてしまったのだ。

 

 結局、見返したところで二人のグッズは無かった。

 けれど、それで諦のつく私ではない。

 こういう時はネットに助けてもらおう、とウェブサイトを離れ、SNSアプリに切り替える。

 そこならきっと、何かしらの情報が手に入ると思った。

 

「マキ、トーマ、グッズ……っと」


 これでなかったら普通に悲しい。

 期待半分、諦め半分、願いを少々。

 検索キーワードを打ち込むと、結果がすぐに表示された。

 

『マキとトーマのグッズまだ?』

『ラスクエ運営様!!マキとトーマが読んでた本をグッズ化してください!!』

『そろそろマキトーマのグッズ出してくれていいんだよ( ; ; )』

 

 やはり、というかなんというか……。

 私と同じく、グッズがないことに嘆いているファンたちの投稿が溢れている。

 やっぱり二人は人気あるよね、なんて感心しながら投稿時間を見ると今日の数時間前。

 

 これは……ないな。

 分かりやすいほどため息が出て、私は肩を竦めるしかなかった。

 仕方ない。作られることを願おう。

 運営の皆様。どうか、私たちファンに向けてグッズ展開をなにとぞ。それで救われる女がここにいるんです。

 そんな願いを込めて、そっとスマートフォンを机に伏せた。


「さてと、」

 

 悲しい気持ちは別の物で埋めるしかない。

 私は気分転換に紅茶でも淹れようと、背筋を伸ばしながら食器棚へと向かった。





「これにしよ」


 こじんまりとした棚からお気に入りのマグカップを持ちだして、数種類のフレーバーの中からピーチティーを選抜。電気ケトルのスイッチを押してからお湯が沸くまでの間、その場で待つことにした。

 しばらくするとケトルの中がコポコポと踊り出す。

 

「カインさん、今日はログインするのかな……」

 

 その様子を眺めながら、私は独り言を漏らした。

 昨日は結局、カインさんがゲームにログインすることはなかった。

 いつものように休日を過ごしていたつもりでも、″カインさんがいない″というだけで妙な違和感を感じていた。

 なにかこう……ぽっかりと穴が開いたような変な感じが。

 友達がいなくて寂しい、というような思いがあったのかもしれない。


 今日は、何をしよう。

 もし、今日もカインさんがログインしなかったら。

 一人で他の人と混ざってボス戦に行くでも良い。レベル上げをもくもくとするでも良い。

 何をするにしても自由なはず……なんだけど。


「……」

 

 遊ばない日が過去になかったわけではない。

 今週、私が平日にログインできていなかったように、これまでも互いの私生活の忙しさからこういうことは何度かあった。

 ……そう、何度かあったはずなのに。


「なんだろう、これ」

 

 うまく飲み込むことのできないこのしんみりとした気持ちは、なんなんだろう。

 昨日の夜からずっと考えているけれど、答えは出ないでいる。しかも、自ら遠ざけている気さえする。

 

 ――チリン


 もやもやと考え込みながらキッチン周りの片づけをしていると、聞きなじみのある鈴の音がリビングから聞こえてきた。 

 噂をすればなんとやら。カインさんからチャットが飛んできたに違いない。

 ちょうどケトルがパチッと音を立てて、お湯が沸いたことを知らせた。


「この間みたいなことじゃなければいいけど、」

 

 獣人族に絡まれた思い出がよみがえり、苦笑交じりにあつあつのお湯を注いだ。湯気が立ち上ってティーパックの中で茶葉が踊り、どんどんと濃い赤茶色へと変化していく。甘く渋い香りが狭い空間に広がって鼻腔をくすぐり、さっきまで凹んでいた気持ちが少しだけ浮上した。


 零さない様にそそくさとリビングへ戻ると、チャット欄に[こんにちは]とカインさんの名前が見えた。

 私は見えるや否や、急いでキーボードを手に取り、すぐさま返事を返す。

 

[カインさん久しぶり!]


[久しぶり。仕事忙しくて全然できなかった]


[お疲れ様すぎる]


[ありがとう]

[一週間触ってないだけで、若干操作が怪しい]


[それ分かる]


 一週間ぶりの再会。なんだかこの感じが懐かしく思える。

 直近のゲーム事情や雑談しながら、久しぶりにカインさんとダンジョンへ向かった。

 さっき「操作が怪しい」とカインさんは言っていたけれど、攻略中はそんな風に思えないほど彼は淡々と敵を倒していた。


 

 無事にダンジョン攻略を終えると、今度はレベル上げをしたり、素材を取りにフィールドへ赴いたり、モンスターを倒したり。馬の役割を持つモンスターに跨って、あちこちを飛び回った。

 

[カインさんに是非やってほしいサブクエがあるんだけど]


[なんてやつ?]


[”抜け落ちた約束”ってやつ!]

 

 グッズを見ている時はまだ日が昇りきっていなかったというのに。

 ふと目に入った短針は昼下がりを指していた。


「やっぱり、楽しいな」 


 楽しい時間はあっという間……というけれど、実際にカインさんと合流してからの時の流れは驚くほど早かった。

 一人で黙々と、というスタイルももちろん楽しい。フレンドと何気ない会話を交えながら進めるゲームはもっと楽しい。

 それがMMORPGの――ラスクエの良さのひとつでもある。

 あの時、カインさんと出会っていなかったら。私がラスクエに復帰していなかったら。

 今も一人で黙々とプレイしていたのかも知れない。こんな風には思わなかったのかも知れない。


 ――[良かったら、フレンドになりませんか]

 

 カインさんと出会った頃の記憶がひょこっと顔を出し、私はその懐かしさに自然と笑みが零れていた。





[少し休憩してもいい?]


 レベル上げの途中にカインさんからチャットが飛んできた。


[おっけー]

 

 すぐに [ちょっと席外す]と言い残し、カインさんはその場から動かなくなってしまった。

 待っている間、とくにすることもなかった私は訪れていた場所を散策することにした。


「いつ来ても綺麗だなぁ」

 

 ここはユーザーが家を買って住むことのできる特別なエリア。

 『緑溢れる豊かな花の町の一角』をコンセプトに広大な山々が後ろに聳え立ち、大きな風車がくるくると回っている。大小さまざまな西洋風の家が建ち並んでいる様子はいつ訪れても圧巻される。

 道端の花壇には白や赤、ピンクやオレンジといった明るい色の花々が植えられ、住宅街の中には水路が流れている。透き通った水面から、たまに小魚が飛び跳ねていた。

 目線を奥まで伸ばすと、少し進んだ先にアーチ状に掛けられたレンガの橋が見えた。橋の奥、一本道を外れると休憩スポットと思わしき円形に出っ張った小さな広場が見え、その中央にある木漏れ日の中に隠れたベンチが置かれていた。煌めく太陽が燦々と木々の間から降り注いで、耳を澄ませば小鳥が歌っている。時々、さあっと木々が揺れ、ゲーム内でも初夏を感じた。


 目の前に建っていた立派な家の庭先からモンスターの形をした風船が宙をふわふわと漂っていた。

 気になって門の前に移動して中を見てみると、風船の他に観覧車やコーヒーカップ、屋台が敷き詰めて置かれており、まるで小さな遊園地が存在しているかのようだった。

 庭の隅っこにはジュークボックスが置かれており、テーマパークで流れていそうな楽し気な音楽が流れている。

 遊び心のある家だな、なんて思いながら次はその家の向かいにある小さな家に注目した。

 大理石の噴水に白を基調とした丸ベンチにテーブル。芝生の上に敷かれた淡いピンク色のシートの上にはピクニックセット。玄関先まで続く石畳の両脇には、丸々と刈り上げられたトピアリーが植えられている。青々と茂っている一本の大きな木からは手製のブランコが風に吹かれてゆらゆらと揺れていた。

 この家のテーマは優雅な休日、だったりするのかな。 

 シンプルに整えられた庭先には「こんな生活できたらいいな」という思いが詰まっているように思える。

 

「早く家を持ちたいなぁ」


 住宅街には家を購入したいと思わせてしまう魅力がある。

 わざわざ大都市へ赴かなくても武器や防具、道具、素材といった主要なショップが一か所に集まってくれている。家を購入すれば市場で取引をしてくれるNPCを雇えるようになり、時間と移動距離というプレイヤーの煩わしさを取っ払ってくれるのだ。

 そして、魅力的な点がもう一点。

 先ほど見てきた家のようにテーマに沿って作られた家、遊び心を取り入れた家、見ているだけでも楽しいのはもちろんのこと。

 他の地域でも住宅街はあるが、この地域は特別で現実の季節と重なるように街路樹が彩られるようになっている。春は桜、夏は新緑、秋は紅葉、冬はイルミネーションで着飾ったモミの木。写真スポットとしても人気が高い。


「あとどのくらい必要なんだろ」

 

 早く家を持ちたいとは思っているものの、現実は厳しい。

 この場所に住むためにはとんでもない額のお金が必要だ。私なんかが大金を持っているわけもなく。まだまだ手が出せないでいた。全財産のあと0が3つ……いや、4つは必要かもしれない。

 どのプレイヤーも一度は家を買ってみたいと思うことだろう。

 ゲーム内とはいえ、「こんな素敵な場所に自分の持ち家があったら」と夢が膨らむものだ。


 

 カインさんが離席してからまだ間もない時間しか経っていないが、まだまだ戻ってくる気配は感じられない。

 私は個性あふれる家々の間を通り抜けると、大きな広場で店を構えていた素材屋に赴いた。


「最近の売れているアイテムは、と……」


 自分でアイテムを精製し、売ることでお金を作ること――金策。他のゲームでもよく耳にするこの単語はラスクエでも使われている。

 このゲームでは鍛冶職人、料理人、裁縫職人といった冒険とは関係のない職業が金策向けとして実装されていて、それらの職業を用いてお金を稼ぐことが出来るようになっている……というよりも推奨されている。

 野外のモンスターやクエストクリアで得られるお金はなかなかしょっぱい。最新の武器や防具を買うためには稼ぐしかないのだ。


 「待ってる間に金策しようかな」

 

 私はカインさんが戻ってくるまでの間、最近の売れ筋アイテムをネットで調べた。

 そして、がっしりとしていた鎧装備を脱ぎ捨て、シンプルな白いエプロン姿へと変化する。ステータスも騎士から料理人へと変更された。


「クッキーが売れてるのか」


 必要素材を調べて、買い集め、いざクッキング。

 オーブンがその場に現れるわけでもなく、手にはフライパン。とてもクッキーを作っているとは思えない。炒飯を炒めているかのような手振りに、ジュージューという香ばしい音が鳴る。

 

 

 作り始めてしばらく経った頃。

 こんなもんでいいかなと出来上がった枚数を確認していると、


[ただいま]


 チャットとともにカインさんが動いた。


[おかえりなさいー]


 今何時だろうと時計に目をやり、まだ夕方まで時間があることを確認した私は再びキーボードに指を置いた。

 レベル上げも結構したし、素材も集め終わった。今週できなかったことも終わらせることができた。あとは何をしようか。

 カインさんは何か行きたいこととかやりたいことないのかな。

 [次、何か行く?]

 そう打とうとしてエンターキーを押しかけた時――


 [あのさ]


 私よりも先にカインさんから新しいチャットが送られてきた。

[どうしたの?]と打つ前に、また受信音が鳴る。

 そして――

 

「え、」


 私は最後に送られてきた一文に、目を疑った。

 まじまじと小さなウィンドウを見つめて、瞬きを数回繰り返す。

  

「えっと……」

 

 カインさんは何を思って私に言ってきているんだろう。どうして私なんだろう。

 真っ白になった私の頭の中にはさらさらと水のせせらぐ音が静かに響いていた。

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