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家の隣に魔王が住んでいる!  作者: 白鈴サキ
Version2 麻央と真
12/33

Ver.2.5.0 月光に照らされて

 見知らぬ影が二つ。Magを覆い隠してしまうほどの距離の近さに、私はぎょっと目を疑った。 



「この子全然反応してくれないけど、俺フラれた?」


「離席マークついてるから粘ってみたらいい」


「戻ってくるかなぁ?」


 

 開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。私が画面から目を離している数分の間に、長身の男性二人組が逃げ場を無くすかのように行く手を阻んでいる。

 一人の男性はその紳士的な佇まいとは裏腹に、信用のできない笑みを浮かべこちらを見下ろし佇んでいた。その隣にいる男性は犬耳をぴょこぴょこと動かしながら、いまかいまかとその時を待っていた。


 

「何この人たち……」

 

 

 ダンジョンで一緒になった人?……いや違う。最近ダンジョン行けてなかったし。ユーザー名を何回見ても、思い当たる人物がいない。

 それでもどこか既視感のある外見に、直近で見かけたような気がしてならない。今日の出来事を一度振り返ってみた。

 この犬耳とベスト……ああ、あそこで見た人達だ。

 この二人組は私が大通りにいた時、目の前を歩いていた犬耳の獣人族とエルフの男性であった。その証拠に印象的だったお揃いのブラウンベストを着用している。


 

「……こんな人たちだったの?」


 

 最初から怪しむべきではないと思ってはいるけれど、チャット履歴に残っている発言はどう考えてもおかしい。まず、「フラれた」って何……?

 このまま去るまで放置しようと考えていたが、誤ってコントローラーのスティックに触れてしまった。Magは一歩前に踏み出してしまい、頭上に浮き出ていた離席マークが消てしまう。

 その瞬間、「待ってました!」と言わんばかりに犬耳の男性が食いついてきた。

 


「マグちゃん、やっと動いてくれた!」



 ずいっと彼らも一歩踏み出し、三人の距離が一気に近くなる。

 フレンドでもない人物にいきなり馴れ馴れしく名前を呼ばれる始末。どうしてだろう。嫌悪感がすごい。

 私はこの人たちの言動に思い当たるものがあって、「もしや」と脳裏に嫌な考えが過ぎり始めていた。

 

 

「いきなりなんですか」


「ちょっと話してみたいな~って思って」


「そうですか」



 「お~冷た!」そう言いながら身を震わせる素振りを見せてはいるが、真に受けていけない。

 尻尾を振る犬耳男性の隣で、さっきから口を出してこないエルフの男性に目を配る。彼は私たちのやりとりを眺めているだけで、腕を組んで立ったまま動かない。 



「こんなロマンチックなイベントに女性一人で歩いてるなんて」


「……悪かったですね」


 

 面倒くさいからさっさと話を終わらせようと冷たくあしらうも、彼に効果はない様子。

 くるくると私の周りを歩きながら、獣人族の男性はつまらない話を続ける。

 


 「怒んないでよ~……とまあ、冗談は置いといて!可愛い竜人ちゃんがいるな~と思ってさ」

 

 

 

 このまま大通りに出てもついてこられそうだし、全体チャットで話されても嫌だし……。

 どうしたらこの場から去ってくれるのか。無茶苦茶言う?それじゃあ逆に私が通報されちゃいそうだし。無視し続ける?チャット欄がうるさいし……。

 いろんな策を考えてみるも、良いアイディアがなかなか思い付かない。



「……」


 

 我慢できなくなったらその時考えよう。今は少しでも早く離れてくれるように「興味ないですよ」アピールを続けることにしよう。

 私がそんなことを考えているとはいざ知らず、獣人族の男はさらに話を続けていた。

 


「そしたら、話しかけやすそうな場所に移動してくれたではありませんか!」


「ただ疲れただけなんですけど……」



 今までいろんなプレイヤーと出会ってきたけど、チャットで話すだけでこんなに疲れるなんて、この人が初めてだ。

 人の話を聞かない、自分の話だけをする。……なんて嫌な人なんだろう。

 

 

「マグちゃんみたいなかわいい子と恋方になりたいな~って思ってついてきちゃった!」



 ”恋方”。その言葉を聞いて、私は引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。 途端、キーボードを打つ指がおぼつかなくなる。

 恋方――ラスクエ内の非公式用語でゲーム内で恋人を作り、男女関係であることを示す言葉。ごっこ遊びいうよりも、本当の恋人のようにお互いゲーム内で接する……というのが目的らしい。私も詳しいことまではわからない。長年このゲームをプレイしてきたつもりでいたが、”ゲーム内ナンパ”というよく分からない状況に、私はただひたすら困惑するしかなかった。

 そもそも恋方というものに興味もなければ、欲しいと思ったこともない。ましてや初めましての相手にいきなり「恋方になりませんか」なんて、身勝手にもほどがある。

 


「興味ないです」


「そういう冷たいとこもなんか良いよね。ツンデレの素質あるんじゃない?」


 

彼の後ろにあるふさふさとした茶色の尻尾が、横に揺れ続けている。どうやら私の反応を見て楽しんでいるようだった。

 どんだけしぶといんだこの人は。あと隣のエルフの男性は何も言ってこないけど、この人は一体何なの?

 


「大体、中身男かもしれないですよ?」



 これさえ言えば大丈夫だろう。そう確信していたはずなのに。

 


「絶対噓でしょ?」


 

 ケロッとした顔で、さも言われ慣れてますといったような態度を取られた。

 これだけ拒否を示しているというのに、それでも恋方を作ることが最優先なのか、なかなか食い下がらない。言い方からして、”キャラクターの中の人まで気にしている”ということも分かった。……なおのこと私は興味ないんですけど。



「ねね、フレンド申請してもいい?」


「嫌です」

 

「え~、お願い」



 ゲームのキャラクターに罪はない。可愛いおねだりポーズをしてきゅるきゅるした目をこちらに向けてくる。それでも嫌悪感は増していくばかり。

 本当になんなんだ。この無駄な時間を返してほしい。私はイベントを楽しみたいだけだというのに。

 神様、この人たちを吹き飛ばす魔法はないんでしょうか。

 


「よかったら頼む」


 

 ずっと黙って聞いていたエルフの男性がようやく口を開いたかと思えば、仲間への援護射撃。

 「よかったら頼む」めがねクイクイ。……じゃないよ!



「嫌です」


 

 きっと私が断り続けても彼らが折れることはないだろう。これ以上話を続けても時間の無駄であることは明白で、とうとうその判断を下す時が来てしまった。

 

 ……ゲームからログアウトするしかない。

 限定アイテムはまだ揃っていない。しかし、ここまで粘られると諦めるしかない。

 私の感情を濁すように、止まっていたBGMがしっとりと流れ始める。


 

「マグちゃん、せめて今日一日遊んでくれない?」

 

 

 「すみません、興味ないし」――最後のチャットを打っていると、突如、光の柱がエルフの男性を包み込んだ。



「え……?」


 

 先ほどまで隣にいた仲間が突然いなくなり、茫然とする獣人族の男性。どうやらエルフの男性はテレポートアイテムを使ったようで、その場から消えて居なくなってしまった。

 どういうこと……?

 私は、まだこの二人は何か企んでいるのではないかと彼を見張るがそれは杞憂だとすぐに分かった。

 彼は黙ったまま、動かない。何か二人の間で予想外なことが起きているのではないだろうか。



 

「……?」


 

 先ほどまで自分勝手に話を進めていた人が何も言わず、じっと固まったままでいる。

 私も気になり画面を見渡すが、どこにも変わったような気配はない。メニュー画面を開くことができたのでゲームが固まってしまった、というわけでもなさそうだ。


 静かになったこの場所には、残された獣人族の男性と私しかいなくなったはずなのに、コツコツと靴音が反響していた。

 もしかして、誰か通報してくれた……!?

 運営の人が助けに来てくれたのかもしれないと、期待が膨らむ。

 

 

 「まず……」


 

 音が止むと、獣人族の男性は慌てているのか正直にいまの気持ちを発言していた。私は足元の変化に気づき、そこに目を凝らした。影がより一層濃く伸び、重なっている。

 どうやら運営と思われる人は、彼の背後をとったようだ。

 この場を助けてくれた救世主様を拝もうと、ゆっくりと視点をずらす。それと同時にチャットも送られてきた。

  


「何してるの」


 

 その姿を一目見た瞬間、胸の奥から熱いものが零れ落ちる。

 月明りに照らされたその人物は、光を纏い、まるで物語に出てくる勇者みたいだった。

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