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第135話 ご褒美じゃない!


「ああそうだ、褒美の話だったな」



 ようやく話を戻したジオは、お茶を飲み干してから語り出す。

 仮にも賢者からのご褒美となればどんなものかと期待する三人に、ジオは亜空間に手を突っ込んで探し始めた。


 同じ魔術が使えるエストはそれが演出であることを見抜くが、黙って付き合うことにした。



「……お、あったぞ。ほれっ」



 ゴトッと机の上に置かれたそれは、パンパンに膨らんだ皮袋だった。

 代表してエストが受け取ると、その中身は溢れんばかりの金貨であり、価値にすると二千万リカはある。


 まさかの金銭的なご褒美に、落胆する様子を隠さない三人。



「なんだ、金は嫌いか?」


「こっちの紙の方が価値あるよ」


「正論で殴んなよ…………とまぁ、冗談だ。安心しろ、お前らにちょうどいい情報がある。それが本当の褒美だ」



 二杯目のお茶も飲み干し、真剣な眼差しで告げる。




「ドラゴンを仲間にしろ。お前らと魔族を倒したいと言っていた。あの氷龍が発端だがな」




 ドラゴンを仲間に。

 それだけで一瞬にして脳内処理がパンクした三人に、追撃として氷龍の情報も突きつけられた。



「お前、あのドラゴンから龍玉を受け取っただろ。それを見せたらすぐに話を聞くらしいぞ。運が良かったな」


「……まずどこから聞くか……どうして氷龍が協力的になったの?」


「お前の魔術に感動した、とか言ってたな。どうせお前の手足が美味かったからだろうが。とりあえず、各地のドラゴンに会いに行け」



 ご褒美として与えられる情報にしてはあまりにも重厚かつ壮大な話であり、おとぎ話でしか語られないドラゴンに会い行けというのは無理難題というもの。


 それに、システィリアやブロフ、そしてナバルディたちからすれば、既に氷龍と関わりがあることを知った衝撃も大きい。

 多少のことでは動じないつもりであっても、流石は賢者というべきか。とてつもない話を持ってきた。


 エスト以外が頭を抱えると、ギリギリ情報を飲み込めたエストは質問で返した。



「……百歩譲ってドラゴンが協力的なのはわかったけど、先生はそれをどうやって知ったの? 自分から氷龍に会いに行くほど、先生は強くないよね」


「お前そろそろぶっ飛ばしてやろうか? ……アイツの方から降りてきたんだよ。『次代の賢者に力を貸したい』ってな。初めてドラゴンと会話をしたぞ、俺」


「次代の賢者?」



 降って湧いてきた知らない言葉を復唱すると、ジオは何事もなさそうに頷いた。



「ああ。お前は氷龍に賢者として認められた」


「……賢者。僕が。氷龍に」


「ドラゴンに認められたのはエストが初めてだな。あの氷龍の野郎は未だに俺を『魔術師の人間』とか言ってきやがったからな……まぁ、お前にはそれだけの才能と、努力が認められたってことだな。自惚れんなよ」



 全く予想だにしていなかった情報の数々に、遂にエストも頭を抱えてしまった。

 突然言い渡されたドラゴンを仲間にしろという言葉と共に、ドラゴンの中では不動の最強と謳われる氷龍に賢者として認められた。


 これの一体、どこがご褒美というのか。



「…………他のドラゴンはどこにいるのさ」


「近くから行けば、南のマース火山と西の精霊樹だな。いや、あれはドラゴンとは言えないか。とにかく、強さを見せてみろと言われたら、手を抜くなよ。魔族の前にドラゴンに殺されるとか笑い話にもならん」


「それは大丈夫だけどさ……マジかぁ」



 先にマース火山に炎龍が居ることを知らされてしまった。

 どうせなら自分の目で確認したかったものを、こうもあっさり暴露されるとは。



「アリアさんの口調が出てるわよ」


「だって……次に行く場所、ニルマースだよ? おちおち温泉も楽しめない」


「……まぁ、いいんじゃないかしら? のんびり過ごすのも好きだけど、やっぱりアンタの周りは大体激しく動くもの。その方がエストらしいもの」



 今はまだのんびりする時ではないと感じたシスティリアに、小さく頷くエスト。


 顎に手を当てて何かを考え始めたエストは、ニルマースからの動きを模索する。

 ここドゥレディアからリューゼニス王国に南下するだけでも、歩いて三ヶ月は要する距離だ。そこから西の国に向かうなら、追加で六ヶ月は必要となる。


 全てのドラゴンと話をつけるだけでも、数年はかかるだろうという予測だ。



「先生。次に魔族が動くのは、いつだと思う?」


「知らねぇよ。と言いてぇけど、しばらく後のはずだ。お前が倒した二体の魔族は、五賢族の中では下っ端も下っ端。残りの三体は慎重に動くからな。五十年後とかじゃねぇの?」



 し魔族やジオの感覚では、五十年などあっという間である。

 それがエストにとってどれだけ長い月日であり、経験を積める期間であるか、彼が知ることはもうできない。


 ゆえに、たった二年で自分のもとを旅立ったことに彼自身驚愕していたが、本当に瞬きをするような間のことだ。


 根本的な時間感覚が狂っている。

 改めてそう実感するエストは、決断を下した。



「……わかった。ならドラゴンと話をするよ。魔族が出たら僕に教えて」


「俺を小間使い扱いか?」


「だって先生が魔族を倒せないんだもん。僕だって一人じゃ倒せない。でも、僕にはシスティとブロフが居る。一緒に戦えないなら情報収集ぐらいしてよ」


「口うるさい弟子だな。これが次の賢者か?」


「前の賢者はへぼっちぃね」


「んだとコラァ! あ? やんのか!?」


「二十五、十四、百六十二」


「……なんだ?」


「先生がババ抜き、神経衰弱、ポーカーで負けた回数なんだけど……あれれ? 遊んだ回数と一緒だ。不思議だなぁ」


「ちっ、今度こそ勝つッ! そこに座れ!」



 仲が良いのか悪いのか分からない二人に、まともに相手にするのはやめようと決めたシスティリアたちは、お茶のおかわりをもらいながら眺めることにした。


 今も英雄として語られる賢者と、ドラゴンに認められたという賢者の小さな戦いは、見事新たな賢者による圧勝で幕を閉じた。


 あの手この手でカードゲームを仕掛けてはボロ負けする姿は、負けず嫌いなジオの心が垣間見えた。



「ここで良かったね。場所が場所なら破産してたよ、先生」


「……言いふらしてやるからな。覚悟しろよ」



 大きな足音を立てながらドアを開けたジオは、再度『次は負けねぇからな!』と言って転移で帰っていった。

 結局何がしたかったんだ? とも思うエストだったが、持ち込まれた情報を思い返せば、重要な言葉ばかりであった。


 したり顔のエストが見送り終わると、ナバルディがちょいちょいと手で招く。



「エストよ、少し話があるのだが」


「新しい賢者についてなら好きに話していいよ。僕はそのつもりがないけど、どうせどこかから広がる話だし」


「切れ者だな。そうさせてもらう」



 ソファに座り直したエストは、脱力したようにシスティリアの肩に頭を置いた。



「……大変なことになった」


「ふふっ、やることいっぱいで楽しみね」


「お前さんが本当に賢者になるとはな」


「別に僕自身は変わってないけどね」



 新たな称号を貼り付けられたエストだが、やるべきことは変わらない。

 目先の復興とニルマースへの温泉旅行。

 そこで本物の炎龍を仲間にするだけだ。


 不安は大きい。

 何せ、エストが戦ったことのあるドラゴンは、ダンジョンの炎龍とどうしようもなく強い氷龍のみ。


 他のドラゴンを知らないエストにとって、魔族に並ぶ未知の脅威であることは変わらない。



「よし、ご飯を食べよう。お腹すいた」


「そうしましょうか」


「だな」



 軽い挨拶をして宮殿を出た三人は、ウィルの案内で美味しい料理店へと歩いて行った。





 その一方、苦し紛れの言葉を、本当に行動に移していた賢き者が居た。




「よぉ、フリッカ。久しぶりだな」


「……っ!? 賢者様ではないですか!」


「国王が敬語使うんじゃねぇよ。それより面白い話があるんだ、聞いてけ」



 書類作業を終えて休憩をしていたリューゼニス王国の現国王のもとに、ふらっとジオが現れた。

 イタズラをする少年のような表情でフリッカ王の肩を組むと、足元に半透明な魔法陣を出す。そして次の瞬間には、赤を基調とした、これまた執務室に転移していた。



「少しぶりだなバーガン。老けたか?」


「……五十年振りですな、賢者リューゼニス様。それに……なぜフリッカ王が?」


「面白い話があるんだ。お前も行くぞ」



 そう言ってレッカ帝国の皇帝まで連れて行こうとすると、執務室のドアが開けられた。

 メイドと共に入って来たのは第二皇女であり、目の前の状況が飲み込めずに立ち尽くしてしまう。



「あ、あの、お父様?」


「……すまないルージュ。急用ができてしまった」


「は、はぁ……わたくし、体調でも悪いのでしょうか……」



 謎の男と面識のあるリューゼニス国王、そして実の父親でもあり皇帝が一つの魔法陣に乗っている姿に、ルージュレットは頭を抱えてしまった。


 そして魔法陣が輝くと、三人の姿が消える。





「…………す、少し、休みます」


「……すぐにお部屋を用意致します」

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